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昨今はイクメンという言葉もあるように、男女関係なく育児休業への意識が高まっています。
ただ、育児休業制度は、度重なる法改正の結果、全体像の理解が極めて複雑な難しい制度となっています。
今回は、育児休業の基礎知識として、育児休業の対象者、育児休業の期間、例外的な制度、育児休業中の賃金、社会保険の取扱いなどについて解説します。
育児休業とは?
一般的によく「育休」と略されますが、正式名称は「育児休業」です。
育児・介護休業法(正式名称は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」)により定められた法定の休業です。
この法律は平成3年(1991年)に制定されたものですが、その後幾度も改正され、制度が拡充されています。
たまに、私傷病等の休職と同様に扱っている会社がありますが、育児休業は法定の休業であるため、対象となる従業員からの申出があれば会社は拒否できません。
- 育児・介護休業法第5条(育児休業の申出)
- 労働者は、その養育する1歳に満たない子について、その事業主に申し出ることにより、育児休業をすることができる。
- 育児・介護休業法第6条(育児休業申出があった場合における事業主の義務等)
- 事業主は、労働者からの育児休業申出があったときは、当該育児休業申出を拒むことができない。
育児「休業」と育児「休暇」の違い
「育休」という言葉を使うときに、注意しなければならないのが用語の使い方です。
一般的に「育休」と略すことが多いため、「育児休業」と「育児休暇」の混同が多く、社労士が作成した就業規則でも「育児休暇」と規定されていることが多いのは困ったものです。
「そんな細かい用語の話はどうでも良い」と思うかもしれませんが、育児休業制度では、以下のように似たような用語が多いため、混同して使うと運用時に混乱が生じます。
- 育児休業【義務】
- 原則1年を限度とした休業(育児・介護休業法第5条)
- 子の看護休暇【義務】
- 年間5日(2人以上の場合は年10日)を限度に取得できる休暇(育児・介護休業法第16条の2)
- 育児目的休暇【努力義務】
- 未就学児の育児目的で利用できる休暇(育児・介護休業法第24条)
関連:子の看護休暇の対象者・日数・取得単位・賃金等の基礎知識
なお、同様の問題に「介護休業」と「介護休暇」があります。
育児休業と産休の関係性
以下の図は、産休(産前産後休業)と育休の時間の流れをまとめたものです。
育児休業の対象者
育児休業を取得できるのは、原則として、1歳に満たない子を養育する従業員で、男女どちらでも可能です。
日々雇用される人は対象外です。
パート・アルバイトも育児休業の対象者
よく「有期雇用契約の従業員、パート・アルバイトは対象になるのか」という質問がありますが、雇用区分により対象外になることはありません。育児・介護休業法第5条では、以下に該当する場合、育児休業の取得ができることになっています。
- 期間を定めて雇用される者は、養育する子が1歳6か月(場合によっては2歳)に達する日までに、その労働契約(労働契約が更新される場合にあっては、更新後のもの)が満了することが明らかでない者に限り、当該申出をすることができる。
ポイントは、労働契約が満了することが明らかでない者という部分です。「契約更新がない」とはっきりしていれば対象外になりますが、契約更新の有無が不明な場合であれば、育児休業の対象者になるということです。
労使協定の締結による育児休業の対象の制限
また、労使協定を締結することで、以下の条件に該当する従業員は、対象から除外できることが法律で認められています。つまり、パートやアルバイトでも、以下の条件に該当しない限り、育児休業の対象者になるということです。
- 入社1年未満の従業員
- 申出の日から1年(育児休業が1歳6か月・2歳までの場合は6か月)以内に雇用関係が終了することが明らかな従業員
- 1週間の所定労働日数が2日以下の従業員
なお、就業規則や育児・介護休業規程で明記していたとしても、実際に労使協定を締結していない場合は、労使協定を締結するまでは除外できないため、申出があれば上の条件に該当する従業員であっても対象となります。
就業規則や育児・介護休業規程の作成を依頼された社労士が、作成・納品時にきちんと説明をしなかったために、この状況に陥っている会社がよくあります。
個人事業主は育児休業の対象外
なお、当然のことですが、この法律の対象となるのは「労働者」です。
以前、個人事業主から「従業員と同じように働いているので育休を取りたい」という相談を受けてびっくりしたことがありますが、個人事業主は労働者ではないため対象外です。
おそらく、この相談の本音の部分は、育児休業という休みを取得したいのではなく、雇用保険による「育児休業給付金」が欲しいということだったのでしょうが、雇用保険の適用がないので給付されるはずがありません。
雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置
令和4年4月から以下の2つが義務化されています。
- 育児休業を取得しやすい雇用環境の整備
- 妊娠・出産(本人または配偶者)の申し出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置を義務付け
育児休業を取得しやすい雇用環境を整備するために、会社は以下のいずれかの措置を講じなければなりません。
- 育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)に関する研修の実施
- 育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)に関する相談体制の整備等(相談窓口設置)
- 自社の労働者の育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)取得事例の収集・提供
- 自社の労働者へ育児休業・出生時育児休業(産後パパ育休)制度と育児休業取得促進に関する方針の周知
また、本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出た従業員に対して、会社は育児休業制度等に関する事項の周知、そして休業の取得意向の確認を、個別に行わなければなりません。
関連:「雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化」「有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和」のポイント
育児休業の期間
育児休業の期間は、原則として、
- 1人の子につき1回、子が出生した日から子が1歳に達する日(誕生日の前日)までの間で、労働者が申し出た期間
です。つまり、育児休業の期間は、あくまで従業員の申出次第ということです。
1歳に達する日の前日までの約1年なのか、それとも1か月なのか、2週間なのか、従業員の申し出た期間によります。
会社は代替要員などの準備があるため、どの時期にどれくらいの育児休業期間を取得するのか、従業員と会社とで入念に調整することが重要です。
実務的に言えば、後述する「育児休業給付金」の関係もあって、この育児休業の期間について従業員と会社とで揉めることが多いです。そのため、制度をきちんと理解して、育児休業の期間を決めることは極めて重要です。
なお、実際の育児休業の取得日数はどの程度なのか、以下の記事で厚生労働省によるデータをグラフ化していますのでご参考ください。
育児休業期間の例外
前述のとおり、育児休業の期間は、原則として、
- 1人の子につき1回、子が出生した日から子が1歳に達する日(誕生日の前日)までの間で、労働者が申し出た期間
ですが、いくつかの例外があります。そして、これらの例外に関する条件等が法改正の度に追加されていったことが、育児休業制度を複雑化し理解しにくくなっています。
(1)パパママ育休プラス
まず、例外その1が、育児休業期間の延長、パパママ育休プラスです。
パパママ育休プラスは、
- 両親がともに育児休業をする場合に、要件を満たすことで、育児休業の対象となる子の年齢が1歳2か月にまで延長される
という制度です。
間違いやすいのですが、あくまで、対象となる子の年齢が1歳2か月にまで延長される制度であって、1人当たりの育児休業の取得可能な最大日数(産後休業含め1年間)は変わりません。
はい、いきなり混乱しそうになってきますね・・・。以下の記事で図を用いて解説していますのでご参考ください。
関連:パパママ育休プラスの要件・特例期間・利用パターン等の基礎知識
(2)育児休業期間の延長(1歳6か月まで、2歳まで)
例外その2が、1歳6か月まで、2歳までの育児休業期間の延長です。
保育所に入れない等の条件を満たすことで、子が1歳6か月に達するまで、2歳に達するまで育児休業ができます。
令和4年10月から施行される法改正により、育児休業の開始日が柔軟化され、延長期間中でも夫婦が交代で育児休業を交代できるようになります。
関連:育児休業期間の1歳6か月・2歳までの延長制度:令和4年10月から改正あり
育児休業の回数
育児休業の回数は、これまで夫婦それぞれで1回ずつでしたが、令和4年10月の法改正施行により2回に分割して育児休業を取得できることになります。
そして、令和4年10月の法改正施行により、従来のパパ休暇が廃止され、出生時育児休業(産後パパ育休)制度が創設されます。
出生時育児休業(産後パパ育休)制度でも、分割して2回取得が可能であるため、父で見ると、上の図の例2のように、出生時育児休業(産後パパ育休)で2回、育児休業で2回、合計4回取得できることになります。
関連:出生時育児休業(産後パパ育休)制度のポイント:令和4年10月から施行
育児休業中の賃金
育児休業中の賃金については、年次有給休暇と異なり、法的な義務はないため、無給で構いません。
というより、育児休業を導入している会社の多くは私の知る限り無給であり、もし賃金を支給しているならすごいことなので大いにアピールしましょう。
「無給は可哀想」と思うかもしれませんが、育児休業期間中の労働者には、雇用保険から「育児休業給付金」が支給されます。
育児休業給付金の支給額は、原則として、支給対象期間(1か月)当たりで、以下の計算式によります。
- 休業開始時賃金日額 × 支給日数の67%相当額
ただし、育児休業開始から6か月経過後は、67% → 50%になります。
この点をめぐって、従業員・会社間で復帰時期を巡ってトラブルになることが多いのでご注意ください。
育児休業中の社会保険料
健康保険・厚生年金保険の保険料は、満3歳未満の子を養育するための育児休業等期間について、被保険者が育児休業の期間中に事業主が年金事務所に申し出ることにより被保険者・事業主の両方の負担が免除されます。
満3歳未満の子を養育するための育児休業等(育児休業および育児休業に準ずる休業)期間が対象となるため、
- 1歳6か月まで・2歳までの育児休業の延長制度
- 令和4年10月から施行される「出生時育児休業(産後パパ育休)」
も対象になります。忘れずに手続きをしましょう。
参考:厚生年金保険料等の免除(産前産後休業・育児休業等期間)
育児休業中の就労
就労が月10日(10日を超える場合は80時間)以下であれば、育児休業給付金が支給されるため、育児休業中の就労は可能と誤解している人がいます。
しかし、育児休業中の就労は、原則禁止です。
育児休業の取得率の推移
以下の記事にまとめていますが、
- 女性の育児休業:80-90%を推移
- 男性の育児休業:近年急激に増加、最新の令和4年度の調査では17.13%
と男性の育児休業は近年急激に増えていますが、まだまだといった状況です。
まとめ
育児休業制度は、法律による義務であり、従業員から申出があれば、会社は拒否できません。
「うちの会社には育児休業の制度はない」「就業規則に定めていないからうちの会社取得できない」という言い訳は通用しません。いまだにこんな話を聞くことがあって驚いてしまうのですが・・・🤨🤨🤨
会社として行うべきは、
- 就業規則、育児・介護休業規程の内容の確認
です。そのとき、最新の法改正内容に対応しているか、という点には要注意です。育児休業制度は頻繁に法改正されており、正直、社労士でも理解が浅い人が多くいるほど、複雑です。
そのため、本記事を参考に、1つ1つの内容について対応した規定となっているかを確認する、難しいと思うなら信頼できる社労士にチェックを依頼しましょう。
その次に重要となるのが、会社側の迅速な手続き、トラブル予防のための適切な運用です。
育児休業に関する会社側の手続きは多く、また育児休業は約1年と長い休業期間になるため、業務に影響が出ないための業務の調整、代替要員の確保をどうするのかといった想定をしておくことも重要です。
運用面に関しては他企業の事例が参考になるため、やはり社労士に相談するのがオススメです。
参考:育児休業制度の規定がある事業所の割合
なお、厚生労働省の統計によると、育児休業制度の規定がある事業所の割合は、
- 事業所規模5人以上では、79.6%
- 事業所規模30人以上では、95.0%
となっています。育児休業は、労働基準法第89条に基づく就業規則の「絶対的必要記載事項」なので、本来は限りなく100%に近くないといけないはずですが・・・
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
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