本当は怖い就業規則! よくある間違い・落とし穴を徹底解説!

こんにちは。福岡の社労士・安部敏志です。

あなたの会社では、きちんと就業規則を作成していますか?

また、毎年のように改正されている労働法を踏まえて見直していますか?

もしかしたら、あなたの就業規則に関するイメージは以下のようなものではないでしょうか?

  • 法的な義務といってもあんな分厚い書類を作るのは面倒
  • そもそも、作り方・手順・内容がわからない
  • 本を買ってみたけど専門的すぎて読む気もしない
  • 就業規則なんてコピペでいいよ
  • 社労士がよく就業規則の作成・見直しを勧めてくるけど単に営業でしょ

これらは実際に当事務所が聞いたことのある就業規則のイメージです。

あなたも上のようなイメージをお持ちかもしれません。で、こんなイメージを持つ方が実際にどうするかというと、

  • 就業規則の作成は怖くない!
  • この通りに書けば就業規則は簡単に作れる!

と書かれたインターネットや書籍に掲載されている就業規則の雛形・テンプレート・記載例を用いて、会社名だけ変更して終わり・・・こんな感じです。

で、何が起こるかというと・・・

それはわかりません。別に何も問題ないかもしれません。

目をつぶって歩いたからといって、必ず車に引かれるわけではないのと同じです。ただ、車に引かれるリスクは高くなるし、目を開けていれば避けることができたかもしれない事故に遭うだけです。

同様に、どこかから持ってきたような就業規則、専門家でない人による就業規則では、問題の未然の防止や問題解決に役立つことなく、大惨事になる可能性があるということです。

以下の記事でも紹介しましたが、「就業規則に脆弱性を抱えていて、悪意のある従業員が存在したら、零細会社であれば普通に破滅です」と言っている経営者もいます。

はい、普通に破滅します。特にお金を持っていればいるほど、ひどいことになります。以前、経験者に聞いたことがありますが、人間不信になるそうです。

就業規則を公開し採用や広報の武器としている会社がある!
会社の就業規則、作成経緯を公開し、採用や広報の武器としているITベンチャー企業があります。今回はその中で興味深かった点を紹介します。

そこで、今回は以下の内容について徹底的に解説します。

  • 就業規則とはそもそも何なのか
  • なぜ就業規則が必要なのか
  • 就業規則にはどんな手続きが必要なのか
  • 就業規則には何を書くべきか、何を書くべきでないか
  • 就業規則の作成は結局簡単なのか・それとも難しいのか
  • 中小企業における就業規則の実態
  • 就業規則のよくある間違いと落とし穴

本来、このような記事を書くのは、ある意味、私の商売上がったりですし、同業者からも余計なことをするなと叱られそうですが、「悪貨は良貨を駆逐する」となってはいけないと思うわけです。

良い部分も悪い部分も含め、正しい情報をわかりやすく伝えた上で、その是非の判断をしていただくのが専門家の使命だと私は思っています。

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1. 就業規則とは

さて、それでは、そもそも就業規則とは何なのかという点から解説します。

就業規則というのは、実務コンメンタール 労働基準法・労働契約法では以下のように定義されています。

労働者が就業上遵守すべき規律・労働条件に関する具体的細目を定めたもの

つまり、就業規則とは、以下の2つによって構成されるということです。

  • 労働者が就業上遵守すべき規律 → 服務規律
  • 労働条件に関する具体的細目

会社を経営する上では、様々な規程が準備されますが、上の条件に当てはまる場合は、就業規則の一部になる可能性があるため要注意です。

例えば、賃金規程や退職金規程というのは、名称は就業規則ではありませんが、これらは就業規則の一部とみなされます。

それは後述しますが、就業規則に絶対に記載すべき事項として「賃金に関すること」があるためであり、退職金については制度としてある場合は記載すべき事項として法的に義務づけられているためです。

また、たまに、人事規程と呼んでいる文書があったりしますが、このような名称の文書がある場合は要注意です。

就業規則と規程の関係性について、詳しくは以下の記事で解説していますのでご参考ください。

規則と規程の違い・使い分け・実務的な対応を徹底解説!
規則と規程の違い、就業規則と規程の関係性、人事規程とは何か、そして実は意外と実務的な対応をする上で重要な「その他」について徹底的に解説します。

つまり、就業規則を見ると、会社が労働者に対して、どのような労働条件でどのように働くことを求めているか、労働者に行って欲しいこと・行って欲しくないことがわかるわけです。

このようなことから、就業規則を「職場全体のルールブック」と言う人もいます。

2. 就業規則の必要性

次に、なぜ就業規則は必要なのでしょうか?

最も簡単な回答は「法律で義務づけられているから」です(^0^)

常時10人以上の労働者を使用する事業場は、以下のように法律によって、就業規則の作成・労働基準監督署への届出が義務づけられています。

労働基準法第89条(作成及び届出の義務)
常時10人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。

これに違反した場合、30万円以下の罰金となるのですが、この説明だと「法律だから仕方ない、最低限のものをつくっておけばいいんだろ」とお茶目なことを言う人もいますので、もっと実務的な部分への影響という点から解説しておきます。

2-1. 就業規則における服務規律の重要性

まず、就業規則がないと、懲戒や減給といった制裁はできません。

例えば、1時間遅刻する度に500円罰金といった制裁を行う場合は、就業規則に規定しておくことが必要になります。また、懲戒などの処分を行う際も同様です。

「コイツ許さん、処分してやる」と社長が言えば、社内だけだったら「社長すみません、許してください・・・」となるかもしれません。

でも、もし社員が自らの正当性を主張して「なんだと、出るところに出てやる!」となったら、裁判所や行政機関は、「社長、就業規則すら作ってないのに、何やっているんですか、あなた負けますよ・・・」と呆れられてしまうということです。

つまり、これは会社に限らず組織自体の話になりますが、組織というのは多くの価値観をもった人の集まりです。してはいけないことを事前に定め、何かあった場合には厳正に対処することで、規律を維持することができます。

そして、その規律を維持するために、就業規則を整備し周知することが必要になるわけです。逆に言えば、就業規則がなければその規律の維持ができないということです。

2-2. 就業規則は人事制度の土台

就業規則の必要性、もう一つは、私の持論なのですが、就業規則が人事制度の土台となるためです。

人事制度については、組織開発、人材育成、人事評価など様々な呼び名がありますが、明文化されなければ何の意味もない、と私は思っています。

私も長年組織の中で働いてきましたが、暗黙の了解って多いと思いませんか?

「そんなの常識だよ・・・」、「そんなことしちゃダメだよ・・・」、どこにそんなこと書いてあるの??? という禁止事項が蔓延していたりします。

就業規則とは働き方に関する会社と社員の約束事です。

グローバル化という言葉は以前からありましたが、これからの時代は海外の人材を含め、多様な働き方ができる会社が生き残っていきます。

「そんなの常識だよ・・・」という暗黙の了解は通じないことを意識しておくべきです。

3. 就業規則における手続き

就業規則は、単に作成・変更して終わりではありません。就業規則を有効なものとするためには以下の3つの手続きが必要です。

  • 労働者代表の意見を聴く
  • 労働基準監督署に届け出る
  • 労働者に周知する

3-1. 就業規則の意見書

まず、就業規則は労働者代表の意見を聴かなければなりませんが、この「意見を聴く」という表現は重要です。

これは労働者代表の「同意」までは不要ということを意味します。ただし、後述しますが、就業規則の変更の際には要注意です。

以下の図は、就業規則の意見書の例ですが、労働者代表が、就業規則の意見書に「全面的に反対します」と書いたとしても、その就業規則は効力が認められます。法的には同意まで求められていないわけですから。

もちろん、実務的な観点からは、その後も一緒に働いていくわけですから、適切なフォローは必要ですが、就業規則の法的な効力としては有効ということです。

それに、大抵のケースではそんなに揉めることはなく、「特に意見がない」という場合が多いと思いますので、その場合は「特に意見なし」と書いてもらえばOKです。

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3-2. 就業規則の届出

作成した就業規則は労働基準監督署に届け出なければなりません。

届け出ることではじめて作成していることが証明されるので、届け出ていない就業規則は労働基準法違反となり罰則(30万円以下の罰金)の対象となります。

では、届け出ていない就業規則は無効になるのでしょうか? その点については以下の記事で解説していますが、実は無効にはならず、有効です。ただ、前述のとおり、労働基準法違反になりますし、許可ではなく、単なる届出なのでさっさと届け出ておきましょう。

就業規則の届出と有効性は関係ないって本当?
就業規則を作成・変更していますか? 労働基準監督署への届出をしていますか? 今回は就業規則の届出とその有効性について説明します。

3-3. 就業規則の周知義務

就業規則を有効なものとする手続きの中で、労働者への周知という点には注意が必要です。

労働者への周知がなければ、就業規則は法的効果が認められません、つまり違法ということです。

実際にこの点は裁判でも争われ、最高裁の判決として以下のように示されています。

就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を・・・労働者に周知させる手続が採られていることを要する

そして、この判決を受け、労働契約法第7条が規定されているのですが、合理的な労働条件・労働者への周知という要件を満たした場合には、就業規則に法的効果が生じるとされています。

労働契約法第7条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。

そして、具体的な周知方法は、労働基準法施行規則第52条の2により、以下の3つの方法が示されています。ただし、これは、その他の方法でも構いません。あくまで実質的に判断されることになっています。

  1. 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること
  2. 書面を労働者に交付すること
  3. 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

労働者から退職関係のご相談を受けることがありますが、最も驚いたのが「退職する際には1年前に退職願を提出しなければ無効と就業規則に書いてあると会社から言われた」というものです。

民法上は2週間前に言えば退職できるわけですが、「そんなアホなことを就業規則に書いてあるんですか?」と聞いたら、「施錠されていて社員は自由に就業規則を見ることができない」と言われ、唖然としました。。。

周知義務を果たしていない就業規則は無効であることを覚えておきましょう。

4. 就業規則の記載事項

次に、就業規則には何を記載しなければならないのか、という点を解説していきます。就業規則には、最低限書かなければならないことが法的に決まっています。

4-1. 絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項

それが、労働基準法第89条に基づく絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項であり、具体的には以下の項目になります。

就業規則に絶対に記載しなければならない事項、絶対的必要記載事項です。

  • 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、シフト制の場合の就業時転換
  • 賃金の決定、計算・支払の方法、賃金の締切り・支払の時期、昇給
  • 退職・解雇に関する事項

次に、事業場内で定めた場合に、就業規則に記載しなければならない事項、これが相対的必要記載事項と呼ばれるものです。

  • 退職手当が適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算・支払の方法、退職手当の支払時期
  • 臨時の賃金等
  • 労働者への食費、作業用品などの負担内容
  • 安全衛生
  • 職業訓練
  • 災害補償・業務外の傷病扶助
  • 表彰・制裁の種類・程度
  • その他

4-2. 就業規則に書くべきでない事項

就業規則で書かなければならない事項は上で解説しましたが、それでは就業規則に書くべきでない事項とは何でしょうか?

それは、制度として定まっていない、実態としてない(理想論)、今後頻繁に変わりうる、ような内容です。

一度、就業規則として定めてしまうと、それは法的効力を持つことになります。特に、労働条件を引き下げるような変更はかなり困難になります。

後述しますが、特に、厚生労働省のモデル就業規則や市販のテンプレートを利用する際には、あなたの会社の実態に沿った内容になっているか、慎重に検討してから反映していくべきです。

4-3. 就業規則と規程の関係

なお、先程解説した相対的必要記載事項の中で、見落としがちなのですが、意外と人事労務管理の実務を行う上で重要なのが「その他」の部分です。

これは、就業規則と規程の関係性という問題になるのですが、専門家ですら間違えていることもあり、意外と理解されていない点です。

最近の例だと、マイナンバー対策として求められる取扱規程と就業規則との関係で、インターネット検索すると、多くの間違った情報が流布されていました。

詳しくは以下の記事で解説していますのでご参考ください。

規則と規程の違い・使い分け・実務的な対応を徹底解説!
規則と規程の違い、就業規則と規程の関係性、人事規程とは何か、そして実は意外と実務的な対応をする上で重要な「その他」について徹底的に解説します。
マイナンバー対応のために就業規則を変更する必要があるか専門家として回答します
今回は、当事務所によくいただくご質問「マイナンバー対応として就業規則を変更しなければならないか?」という点について解説します。

5. 本当に就業規則は簡単に作れるのか?

たまに、経営者の発言やインターネット上での記事で「就業規則なんて簡単に作れる」という情報を見ることがあります。

そのような影響もあって、「就業規則は簡単に作れるのか」というご質問をいただくことがあります。

シンプルに回答するなら、「はい、確かに簡単に就業規則を作ることはできます」となります。ただし・・・という条件が付きますが。

作るのは簡単です・・・

「就業規則 雛形」や「就業規則 テンプレート」で検索すれば、多くの雛形(テンプレート)が出てきます。

厚生労働省では「モデル就業規則」を配布していますし、テンプレート配布サイトでも正社員用の就業規則、パートタイマー用就業規則などを無料で利用することができます。

このテンプレートに社名、就業時間などを記入していけば、就業規則は「簡単」、そして「無料」で作ることができます。

ただ・・・後になって取り返しがつかないことに気づき後悔することになります。

5-1. モデル就業規則の利用法

厚生労働省が配布しているモデル就業規則は、各条文に関する詳細な解説があります。

行政による解説なので、当然のことですが、正確な情報により構成されています。そのため、きちんと読んで理解した上で作成すれば、無料配布サイトや書籍についてくるテンプレートを利用するより格段にまともな就業規則になります。

ただ、以下の記事で解説していますが、利用する際にはいくつか注意しておくべき点があります。

就業規則のテンプレートを利用するメリットとデメリットを本音で解説!
厚生労働省が配布しているモデル就業規則が今年の3月に更新されています。今回はモデル就業規則を利用するメリット・デメリットについて解説します。

5-2. 無料サイトや書籍の就業規則テンプレート

無料配布サイトや書籍についてくるテンプレートは、対応している法令の情報が古かったり、そもそも間違っていたりするので、絶対に利用してはいけません。

書籍のテンプレートを利用する際には、少なくとも直近の法改正の情報を反映しておく必要があります。ただ、問題は就業規則に関係する労働関連法がほぼ毎年のように改正されているということです。

また、無料配布サイトにいたっては、いつ作成されたのかすらわからないものがあります。

せっかくリスクを抑えるために作成する就業規則で不要なリスクを負うのは本末転倒です。

なお、就業規則に関する書籍でよく間違っているのが管理監督者と残業代に関する規定例です。以下の記事で詳しく解説していますのでご参考ください。

就業規則における管理職の定義と規定例
人事制度に関するご相談に対応する際は必ず就業規則の内容をチェックしますが、ほとんどの就業規則がテンプレートを用いて作成されているので、同じところで間違っています(^0^) 今回は、こんな就業規則は危ない!というテーマで管理監督者の定義を明確に書くべき理由について書きます。

5-3. なぜ就業規則は簡単に作れる、コピペで良いと言われるのか?

検索すると、膨大な数の、「就業規則の作成は怖くない!」、「この通りにすれば就業規則は簡単に作れる!」という記事がインターネット上で出てきます。

で、なぜ、こんなことが言えるのかというと、このような人たちは、

あなたの会社の就業規則に何の責任もない

からそんなことが言えるわけです。

例えば、私が、「お金がないから無料で就業規則を作りたいんだけど、参考になるようなテンプレートはないか」と相談されたら、厚生労働省のモデル就業規則を紹介して終わります。最近は、そんな相談はそもそも無視しますが。

別に、なにか問題が発生しても、私には関係ありませんし。。。

もちろん、正式な依頼であり、事務所として原案を作成することになれば、数回に亘るヒアリングを経て行います。

依頼をいただいた会社で実際に人事労務上のトラブルが起き、納品した就業規則で解決できなかったら、当事務所の名誉に関わりますから。

5-4. 就業規則を簡単に作ってはいけない理由

就業規則は「簡単」、そして「無料」で作ることができます、ただし、何が問題になるかというと、「変更が簡単ではない」ということです。

就業規則の変更について内容が不利益なものとなる場合は、労働契約法第9条に基づき、原則、労働者の合意が必要となります。これは個別の労働者に対して、つまり1人1人の同意が必要なわけです。

だから「簡単」に作ってしまうと後で困るわけです。

まとめるとポイントは以下のとおりです。

  • 作成・変更→労働者代表の意見を聴く
  • 不利益な変更→労働者の合意
労働契約法第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。

ここで問題となるのが、いったい不利益とは何かということです。

この不利益変更については数多くの判例・裁判例があります。それだけトラブルになっているということです。

一つ一つ判例を当たって調べていけば大丈夫でしょうが、普通の経営者や人事担当者がそんなことをいちいちできません。特に、平成28年には、この就業規則の不利益変更に関して大きな影響を与え、人事労務関係者がざわついた判例が出ました。

なお、賃金制度を変更するとき、例えば年俸制への変更なども要注意です。

つまり、就業規則の変更をするときには、原則、労働者の同意を取るという方針でいた方が無難ということになります。もちろん、これは原則なので、変更の内容によって不要な場合もありますし、この点は社労士や弁護士などの専門家に確認すべきです。

それほど就業規則の変更というのは注意を要するということです。

作成は「簡単」だけど、変更は「かなり難しい」、作成は「自分」でできるけど、変更は「専門家」に依頼した方が良いということですが、それだったら最初から専門家に依頼した方がいいんじゃない? ということです。

6. 中小企業における就業規則の実態

職業柄、数多くの就業規則を見ていますが、就業規則を見れば、一発で、その企業の人事労務管理状況を把握できます。

そもそも50名未満の中小企業の場合、就業規則がきちんと整備されているだけでも個人的には驚きますが、大半は「助成金を受給するため」だけに準備されたものというのが実態でしょう。。。

そのような場合は、テンプレートの就業規則を使って社名を変えただけ、といったものになりがちです。

また、法令による作成・届出義務を守るため、という法令遵守意識の高い経営者もいますが、リスクマネジメントの根幹となる就業規則の必要性を理解していないと、なるべく安く作りたいという発想で考えてしまい、安く引き受けるような仕事のない社労士に依頼するため、質の悪いものができあがってしまうわけです。

その他の就業規則の問題点としては、「労働者に周知していない」、「就業規則の内容と実際に行っている労務管理が違う」といったものが多くありますが、このような取り扱いは違法です。

ただ、周知要件については先程述べたようにそれほど難しいものではありません。

以前、「就業規則は大事なものなので金庫にしまっていた・施錠していた」ということがありましたが、さすがにそれはまずいです。。。

せっかくコンプライアンスを意識して就業規則を作っても、違法になったら無意味だと思いませんか???

そもそも、スポーツでもプレイヤーが知らないルールは無意味です。つまり、労働者が知らない職場のルールなんて何の意味があるのかということです。

6-1. 就業規則がない・・・

ここまで色々と書いてきましたが、就業規則はない、その必要性すらわからない、という企業の方がむしろ多い気がします。

特に、創業者が現役の会社、個人商店型の企業に多いのですが、社長が言うことがすべてルールになっている、というケースはよくあります。

社長の言うことが一貫していればまだ良いのですが、その時々の社長の考え方や気分で変わってしまうとなると、社員は混乱しますし、優秀な社員たちであればあるほど「もう社長にはついて行けません」と離職することは大いにありえます(実際に相談例があります・・・)。

変な就業規則があるよりはない方が、これから作っていけばよいのでましではありますが、10人以上の事業場で就業規則がなければ、もちろん違法になります。

就業規則がない会社のメリットとデメリットを比較解説
社労士と言えば、就業規則の必要性を力説し、デメリットばかり強調すると思われがちなので、就業規則がない場合のメリットとデメリットの双方を解説します。

6-2. 以前の会社の就業規則を使っている

元サラリーマンの経営者によくあるのが、前に所属していた会社の就業規則を内容を理解せずにそのまま使ってしまうというケースです。

就業規則というのは1度作って終わりというものではなく、その会社の企業文化に直結し、常に修正されています。大きな会社は人数が多いだけでなく、多様な人たちによって構成されているため、様々な意見や要望を取り入れられた内容になっています。

そういった就業規則を10人ちょっとの会社で取り入れてしまうと、法令で求められている以上の処遇を約束してしまうことになります。いくら身の丈を超えた内容であっても、就業規則として定めた以上、それは社員との約束になるため実行しなければなりません。

例えば、大企業では一般的な慶弔休暇も法定の義務ではありませんし、休職の付与も義務ではありません。

もちろん、社員に有利な条件となることは良いことなのですが、理解せずに大盤振る舞いしていたら、経営者は自身の首を絞めることになりかねません。

6-3. 就業規則を変更していない

ありがたいことに、就業規則の見直しに関するご依頼が最近は増えてきていますが、多くの場合、作成から全く変更したことがない、また法改正に併せて変更はしているが部分的な変更にとどまっているというものばかりです。

法改正に対応した就業規則にしようとすると、毎年、少なくとも3年に1回は変更していなければ法改正対応済のものとは言えないものですが、なかには数十年変更していないという強者もいます。

また、人事制度は変更したが就業規則は変更していないという理解不能な会社もありましたし、就業規則の変更までフォローしない(フォローできない)、私から言えば詐欺としか思えないコンサル会社の口車に乗ってしまった会社もあります。

何が問題なのかという点については以下の記事でご紹介している弁護士の指摘を読んでいただければわかりますのでご参考ください。

就業規則の変更における企業の実態・トラブル防止のために注意すべきこと
ジュリストの労働契約法に関する特集から、就業規則の変更における企業の実態・トラブル防止のために注意すべき点について大いに同意する内容があったのでご紹介します。

7. 就業規則のよくある間違いと落とし穴

就業規則の見直しのご依頼を受け、内容を確認しているときによく発見する間違い・落とし穴の代表例を紹介していきます。

7-1. 適用範囲が不明瞭

就業規則の中で、職種の定義がなされていない、未定義の職種の人が社内にいる、適用範囲が不明瞭というのは、かなり多いミスです。

あなたの会社ではパートに退職金を支払っていますか?

私のクライアントでは、正社員、パートといった雇用形態を問わず退職金の支給対象にしている会社もあります。ただ、多くの会社では、退職金の支給対象は正社員のみというのが実態でしょう。

以下の記事で解説していますが、職種の定義・適用範囲を不明瞭なまま放置し、当初想定していなかった社員から退職金の請求を受け、結果的に裁判で退職金の支払いを命じられた例(大興設備開発事件、大阪高裁平成9年10月30日判決)もあります。

就業規則の不備によりパートに退職金を支払うことになる?
就業規則の中で意外に多いミスなのが、職種の定義がない、未定義の職種の人がいる、適用範囲が不明瞭ということです。今回は、代表的な雇用形態の種類、就業規則における職種の定義、適用範囲を明確に定めなければならない理由、放置していた悲劇について解説します。

7-2. 残業代の計算方法が間違っている

法定労働時間と所定労働時間の違い、その違いによって生じる割増率について理解していますか?

本来控除してはいけない手当を勝手に残業代の計算時に控除していませんか?

最近、当事務所ではM&Aに関する人事労務デューデリジェンスや上場を見据えた労務監査などを行っており、その一環で未払い残業代がないか徹底的に調査を行う機会が増えてきましたが、私がこれまで確認した就業規則の全てで残業代の計算方法に関する規定にミスがありました

残業代の仕組みと計算方法を徹底解説! 実は9割以上の会社が間違っていたり・・・
今さら聞けない残業代の基本と計算方法、所定労働時間と法定労働時間の違い、残業代の計算を間違ってしまうとどれほど大きな金額になってしまうかという点について徹底的に解説します。

7-3. 割増率などの数字を間違えている

就業規則(賃金規程)には具体的な手当の額などを記載していくので、数字には神経質になってください。

よくあるミスが割増率です。常識的にありえないと思っても、常識外のリスクを予防するのが就業規則の役割です。

就業規則における割増賃金の書き方には要注意!
割増賃金というのは、平均賃金の1.25倍、1.35倍というものですが、御社の就業規則や労働条件通知書の記載内容は大丈夫ですか?今回は、間違いがちな割増賃金率という用語の使い方について解説します。

7-4. 管理職の定義がない・管理職手当の説明に余計な文言を入れている

管理職・管理職手当の規定については、私がこれまでご依頼いただいた全ての就業規則で問題を抱えていました

その理由は以下の記事で解説していますのでご参考ください。

就業規則における管理職の定義と規定例
人事制度に関するご相談に対応する際は必ず就業規則の内容をチェックしますが、ほとんどの就業規則がテンプレートを用いて作成されているので、同じところで間違っています(^0^) 今回は、こんな就業規則は危ない!というテーマで管理監督者の定義を明確に書くべき理由について書きます。

7-5. 有給休暇の申請方法が曖昧

有給休暇を許可制にするのは法令違反であり論外ですが、申請方法が曖昧になっているケースは多くあります。

事前申請制にするなど申請方法を定めておくのは、会社側だけでなく、実は社員間の公平性を保つ上でも重要でもあり、労働者のためでもあります。詳しくは以下の記事で解説していますのでご参考ください。

有給休暇に関する就業規則の規定例と解説
今回は、有給休暇(年次有給休暇)に関する就業規則の正しい規定例を解説します。

7-6. 振替休日の規定がない

振替休日と代休を混同する方が多いのですが、この2つは似ているようで全く異なります。法的な考え方を理解すると、なぜ違いが生じるのかわかるはずですが、振替休日の場合は割増賃金が不要、代休の場合は割増賃金が必要です。

そして振替休日を利用するためには就業規則で規定しておく必要があります。以下の記事で詳しく解説していますのでご参考ください。

振替休日と代休の違いを徹底解説! 実務手続き・割増賃金額が全く異なります!
多くの人が代休とよく言いますが、休日と労働日の変更と単純に考えていませんか? それだと法違反になっている可能性がありますよ?

8. 就業規則の違反は30万円以下の罰金

就業規則の作成または変更に際して、労働組合等の意見を聴かずに行った場合は、労働基準法第120条に基づき、30万円以下の罰金となります。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

私が最近ご依頼を受けた就業規則で「簡単に作った」ものはすべて問題を抱えていた状態でした。。。会社を守るべき就業規則によって、むしろリスクを抱えていたわけです。

経営者の醍醐味は、すべての決定権が自分にあるということではないでしょうか?

そして、就業規則というのは、手続きをきちんと踏めば、法的効力をも認められたルールとなり、経営者は自由に作ることができます。

せっかく与えられた権利を放棄するのはもったいなくないですか?

経営者として、社員にどのような働き方をして欲しいか、そこからスタートして考えていけば、本来は自由に作れるものです。

それを、変にテンプレートを見て、縛られるように作成している会社がいかに多いか。。。

その結果として、法律は窮屈だ、と感じている経営者や人事担当者が多いように感じてならないわけです。

法律も同じです。縛られるのではなく、武器として利用していくわけです。そのために専門家の力を活用するわけです。

法律をそのまましか解説できないような専門家ではなく、法律の中身を解釈し、経営に活かすためのアドバイスができる真の専門家の力を活用できれば、就業規則づくりも楽しくなることは間違いありません。

実際、私のクライアントの多くは、就業規則の見直し案を提示しその内容を解説すると、就業規則の効力を理解し、さらに変更したいとご要望が増えてきます。

ぜひ、あなたの会社に既に就業規則があるのであれば、どのような内容になっているか改めて確認してみてください。

以下の記事では、「就業規則の見直しに役立つ99のポイント」として全10回シリーズで最低限抑えておきたい内容をチェックポイント形式でご紹介していますのでお役立てください。

就業規則の見直しに役立つ99のポイント(第1回・総則)
今回から、全10回のシリーズとして「就業規則のこの部分は最低限チェックしておこう!」という99のポイントをご紹介します。今回は第1回・総則編です。

また、信頼できる社労士に相談し、確認してもらうのは、時間の短縮になりますし、勉強にもなるためお得です。もしお近くにそのような社労士がいない場合はご相談ください。

また、就業規則を公開することで、いかに働きやすい会社であるかをアピールし、採用や広報の武器としている会社があります。

公開するかどうかは別としても、社員のことをきちんと考えた会社であるかを採用説明会などでアピールすることができますので、参考になりますね。

就業規則を公開し採用や広報の武器としている会社がある!
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就業規則を作成する上で具体的に考えておきたい点として以下の記事もご参考ください。

就業規則の策定と実際の運用・ポイントは性善説と性悪説の使い方!
人事労務管理のご相談を受ける中で最も多いのがトラブル対応ですが、その多くはこの就業規則の運用を間違えているためです。今回は、人事労務管理のコツである就業規則と実際の運用について、そのノウハウを解説します。

参考情報

ネットで検索すれば様々な情報が出てきますが、人事労務管理を行う上で、最も大切なのは、何が正しい情報なのかということです。

となると、最後は法的な根拠が必要になります。

以下の実務コンメンタール 労働基準法・労働契約法は、法令の条文それぞれに解釈や判例が詳しく掲載されており、担当者であれば必携の書であり、専門家としてオススメできるものです。

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この記事を書いた人


安部敏志

あべ社労士事務所代表・社会保険労務士

従来の顧問契約とは異なり、中小企業の人事労務担当者の育成を主要業務とする。専門記事の執筆やセミナー・社内研修の講師にも対応。

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