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就業規則の不備によりパートや再雇用者に退職金を支払うことになる?

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就業規則の変更のご相談を受け、内容を確認していると、意外とかなり多いミスとしてあるのが、

  • 従業員の雇用区分が就業規則の中で網羅されていない
  • 適用範囲が不明瞭・漏れがある

という点です。はっきりいって、これは基本中の基本であるにも関わらず、大きなリスクのある致命的な問題と言えるものです。

今回は、代表的な雇用区分の種類と法的整理、そして適用範囲を不明瞭にしていたために、本来払うつもりのなかった退職金を支払わざるを得なくなった事例を紹介します。

雇用区分の種類と法的な定義

日本企業でよく見られる代表的な雇用区分の種類は以下のとおりです。

  • 正社員
  • 準社員
  • 契約社員
  • 嘱託
  • パートタイマー
  • フルタイムパートタイマー
  • アルバイト

雇用身分社会」という本でも紹介されているとおり、日本企業には多くの雇用区分があります。しかし、法的には、以下の図のように、2つの軸による区分しかありません。

この2つの軸をもとに、パートタイム・有期雇用労働法(正式名称は「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)では、

  • 短時間労働者
  • 有期雇用労働者
  • 短時間・有期雇用労働者

が定められています。

パートタイム・有期雇用労働法第2条(定義)
  1. 「短時間労働者」とは、1週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の1週間の所定労働時間に比し短い労働者をいう。
  2. 「有期雇用労働者」とは、事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいう。
  3. 「短時間・有期雇用労働者」とは、短時間労働者及び有期雇用労働者をいう。

つまり、企業が以下のように雇用区分を決めるのは自由なのですが、それは法令とはまったく関係ないこと、そしてその定義を定めなければならないのは企業自身であるということです。

  • 正社員
  • 準社員
  • 契約社員
  • 嘱託
  • パートタイマー
  • フルタイムパートタイマー
  • アルバイト

ちなみに、派遣労働者は、自社の雇用ではなく派遣元の雇用になるため、上の雇用区分には入れていません。

以下の記事では、「契約社員とは」という切り口で、正社員やパートタイム労働者との違いを含めて解説していますのでご参考ください。特にパートタイム労働者との違いは混乱しやすいので注意が必要です。

関連:契約社員と正社員の違い・無期転換5年ルール等の基礎知識の解説

厚生労働省のモデル就業規則を利用する際の注意点:適用範囲

社労士に依頼せず、就業規則を自社で作成するときに参考になるのが、厚生労働省が示しているモデル就業規則です。ただ、実はモデル就業規則の中には、雇用区分の定義がなく、適用範囲のみが定められています

モデル就業規則(適用範囲)
  1. この規則は・・・株式会社の労働者に適用する。
  2. パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
  3. 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。

もちろん、この書き方が悪いわけではありません。

モデル就業規則では、会社の中の雇用区分として、正社員とパートタイム労働者の2種類のみを想定しています。また、正社員用の就業規則を基本とし、パートタイム労働者用の就業規則は正社員用のものを準用する構成としており、問題はありません。

問題は、このモデル就業規則の構成の意味をきちんと理解し、自社に適用する際に変更してなくよいのかどうか検討することです。

実際、冒頭でも書いたとおり、多くの企業では、モデル就業規則の想定に比べて格段に雇用区分が多いわけです。また、最近の同一労働同一賃金関係、正確に言えば均衡待遇に関する裁判例を踏まえると、安易に準用とする構成が良いのかどうかは疑問が残るところです。

では、どうすべきなのかといった実務的な部分はクライアントにしっかりとお伝えしますが、本記事のお伝えしたい点は別なので、ここではこの辺にしておきます。

就業規則の不備により退職金を支払いが生じた事例

就業規則の雇用区分の定義・適用範囲を曖昧なまま放置しておくのはリスクです。賃金、賞与も当然リスクですが、一般的に高額となる退職金はかなりのリスクとなります。

就業規則の不備により、争えばもらえる可能性があるとわかったとき、あなたがその立場になったら会社に要求しませんか?

実際に以下の裁判例もあります。会社として支払対象と考えていなかった高齢者への退職金の支払いを命じられた例です。

大興設備開発事件(大阪高裁平成9年10月30日判決)
  • 労働基準監督署に届け出た就業規則は、適用対象を正社員に限定しておらず、高齢者を適用対象とする就業規則も別に制定されていなかった。
  • 就業規則には、「従業員が退職したときは退職金を支給する、ただし勤続3年未満の者については退職金を支給しない」旨の定めがあった。
  • 雇用された当時すでに60歳を超えていたAは、退職後会社に対して退職金の支払を請求した。
  • 会社は、訴訟を提起された後に、正社員を対象とする就業規則、高齢者及びパートタイム従業員を対象とする就業規則の2つを制定し、高齢者及びパートタイム従業員に対しては退職金を支給しない旨の定めをした。
  • 判決は退職金の支払いを命じた。

この裁判で、会社側は「確かに就業規則では分けていなかった。しかし、高齢者を退職金の支給対象としている意図はなかった」と説明したようです。

しかし、裁判所は「就業規則には法的規範性が認められており、その解釈適用に当たって、就業規則の文言を超えて会社の意思を過大に重視することは相当ではない。」と会社の主張を退け、退職金の支払いを命じています。

会社側がどのような言い分を持っていても、法的規範性が認められる就業規則の方が優先されてしまうわけです。

まとめ

裁判例は高齢者による退職金の請求という事案ですが、これは正社員以外のパート、有期雇用労働者でも同様です。

ぜひ、あなたの会社の就業規則を今一度確認してみてください。

なお、誤解のないように付記しておくと、正社員以外の従業員に退職金を支払わないことを推奨しているわけではありません。実際、当事務所の顧問先の多くはパートタイマーに退職金を支払っています。

本記事の趣旨は、支払う意図がないなら明確にしておかないと危ないよ、ということです。

また、就業規則に関する基本的事項は以下の記事で解説していますのでご参考ください。

関連:本当は怖い就業規則! よくある間違い・落とし穴を徹底解説!

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