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残業代の仕組みと計算方法・ 9割以上の会社が間違う部分を詳細解説

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労働基準法の知識がある方なら、残業代の割増賃金は1.25倍と覚えているかもしれません。でも、その理解は半分正解・半分不正解です。

実は残業代の計算方法には2種類あることをご存じですか?

就業規則の見直しのご依頼を受けて規定を確認すると、多くの会社が割増賃金の計算方法や計算式を間違えています。

なんとその数、9割以上の会社が・・・

ということで、今回は、今さら聞けない残業代の基本と計算方法、所定労働時間と法定労働時間の違い、就業規則を作成する上での注意点、そして、最後に残業代を間違ってしまうとどれほど大きな金額になってしまうかという点について解説します。

残業代の基本的な考え方

まずは、残業代の基本的な考え方から説明します。

働くというのは、会社と労働者が労働契約を結んでいるということです。

例えば「月20日、9:00-18:00に働く、それに対して会社は月給20万円払う。休日は土曜と日曜にする」といったもの、これが契約内容になるのですが、これは雇用契約書または労働条件通知書に記載されています。

そのため、会社は以下のような場合には、残業代を支払う必要があります。これは、契約外の労働、つまり残業を要求することになるためです。残業時間に対しては残業代を払う、これが基本的な考え方になります。

なお、「残業代」という言葉は一般的によく使われますが、法律用語ではありません。

  • 時間外労働(決まっている時間を超えた労働、上の例では9:00-18:00以外の時間)
  • 休日労働(上の例では土日)

残業時間というと、仕事時間の延長というイメージを持たれがちですが、朝早く出勤する早出も時間外労働(上の例では9:00-18:00以外の時間)になるわけですが、残業代の対象になります。「残業禁止になったから早出出勤」というのは無意味です。

そして、深夜(午後10時から午前5時)に働いた場合は深夜労働として、上の時間外労働や休日労働とは別に、割増賃金の支払い対象になります。

残業代の計算方法

会社は、労働基準法第37条に基づき、時間外労働に対する割増賃金を支払う義務があります。

労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内で割増賃金を支払わなければならない。

この条文を簡単に言い換えると、計算方法は、割増賃金の基礎となる賃金(基準賃金)に、時間数と法令で定められた割合(割増率)を乗じて算出するということであり、以下のようになります。

  • 残業代 = 基準賃金 × 時間外労働、休日労働、深夜労働の時間数 × 割増率

割増賃金の基礎となる賃金

まず、割増賃金の基礎となる賃金(基準賃金)を正しく理解しておく必要があります。

当事務所で未払い残業代のリスクがどの程度あるのかという調査を行うとき、大半がこの基準賃金の部分で間違っています。基準賃金を正しく計算するためのポイントは以下の2点です。

  • 1時間当たりの賃金額を正しく算出しているか?
  • 除外可能な手当、不可能な手当を正しく理解しているか?

パートやアルバイトのような時給制の場合は、時給の金額をそのまま使うので良いのですが、問題は月給制の正社員です。

月給制の場合は、月給を月における所定労働時間で割るのですが、月によって所定労働時間が異なる場合には、1年間における1か月平均所定労働時間数で割る必要があります。日給制や週給制、賃金制度が混在しているときの算出方法については以下の記事で解説しています。

関連:割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金の計算方法

次に、ほとんどの会社では、正社員に対して、基本給以外に様々な手当を付与しています。

しかし、この手当の取扱いを正しく理解していない会社が多く、その結果、残業代の計算結果を間違っている例が多くあります。この点については以下の記事で解説していますので、ご参考ください。

関連:割増賃金の計算に除外可能・不可能な手当(名称でなく実態に注意)

時間外・休日・深夜労働の割増率

法令の割増率は以下のとおりですが、法令では○○%「以上」となっています。実際に計算する際には、会社の就業規則または賃金規程で規定されている数字になります。

  • 時間外労働:25%以上
  • 休日労働:35%以上
  • 深夜労働:25%以上

なお、労働法令に詳しい方だと、条件によって時間外労働の割増率が50%以上、つまり時給1,000円の場合、1時間あたり1,500円以上、深夜労働を含むと1,750円以上の残業代になる場合もあることをご存知かもしれません。

この点については、以下の記事で解説していますが、簡単に紹介すると「1か月で60時間を超える時間外労働となった場合は割増率を50%以上にしなさい」というものです。この労働基準法改正案の動向も要注意です。

関連:法改正により中小企業の残業代も1.25倍から1.5倍へ!

残業代の計算例

さて、ここで一旦まとめておきます。

例えば、時給1,000円の方を1時間残業させたら、時間外労働の割増率は25%以上ですので、残業代は少なくとも1,250円になります。

また、月給制の場合は時給換算する必要があります。

例えば、月給が16万円、所定労働日が20日、所定労働時間が8時間とした場合、時給相当額は1,000円になります。

16万円 ÷ 20日 ÷ 8時間 = 1,000円

この場合、時間外労働や休日労働に対する残業代は以下のようになります。

  • 時間外労働であれば1時間あたり1,250円
  • 休日労働であれば1時間あたり1,350円
  • 時間外労働+深夜労働となった場合はなんと1時間あたり1,500円(時間外労働の25%と深夜労働の25%の合計)

さて、ここまで時間外労働の割増率は25%、つまり基準賃金 × 時間外労働、休日労働、深夜労働の時間数の1.25倍として解説してきましたが、それでは、所定労働時間を超えた残業代はすべて1.25倍以上となるのでしょうか???

法定労働時間と所定労働時間

実は、労働時間には、法定労働時間と所定労働時間という考え方があります。

法定労働時間というのは、法律(労働基準法)で定められた限度となる労働時間です。1日8時間、1週間40時間と定められています。

そして、所定労働時間というのは、会社が就業規則で定める労働時間です。

8時間を超えなければ、6時間でも、7時間半でも、何時間でも構いません。

実は2種類ある残業時間

先程解説した「法定労働時間」と「所定労働時間」について、正確に理解しておく必要があります。

通常、残業時間と言うと、決まった労働時間を超えた時間を指しますが、この言葉だけだと不明瞭になります。

つまり、所定労働時間を超えた場合も残業時間と言えるわけですが、ポイントは、その残業時間が法定労働時間である8時間以内なのか、8時間を超えるのかということです。

それによって残業代が大きく変わってきます。

労働時間と残業時間を足した合計となる労働時間が、法定労働時間以内であれば25%以上の割増分を支払う必要はないわけです。

この内容を図示すると、以下のようになります。

例えば、就業規則で、始業時間は9時、終業時間は17時にし、昼食休憩を1時間とすると規定していたとします。

つまり、所定労働時間は7時間です。

所定労働時間を超えた残業代の計算例

まずは18時まで残業したケースを考えます。

この場合、1時間の残業時間になるため、残業代は支払わなければなりません。

ただし、割増分25%以上は不要です。

なぜなら、所定労働時間を1時間超えていますが、法定労働時間である8時間は超えていないためです。

実際にいくら払うことになるのかという例を示します。今回は計算を簡単にするため、1日7時間、1週間で5日勤務をしている労働者の月給を14万円とします。

この場合、1か月で、7時間 x 5日 x 4週間 = 140時間働いていますので、月給14万円を時給換算すると、14万円 ÷ 140時間で、時給1,000円となります。

そして、17:00-18:00の1時間の残業代がどうなるかというと、割増分25%は不要となるため、1,000円になります。

労働時間 9:00-17:00 9:00-18:00
残業代 +0円 +1,000円
解説 所定労働時間内のため残業代は不要 所定労働時間から1時間の残業
ただし法定労働時間内のため割増率25%は不要
残業代は1,000円

法定労働時間を超えた残業代の計算例

しかし、この労働者が19時まで働いた場合、この日だけを考えると、法定労働時間である8時間を1時間過ぎています。

そのため、1,000円(17:00-18:00の分) + 1,250円(18:00-19:00の分、時給換算1,000円の25%増)の合計2,250円を、残業代として基本給に追加して支払わなければなりません。

労働時間 9:00-18:00 9:00-19:00
残業代 +1,000円 +2,250円
解説 法定労働時間内のため割増分は不要 所定労働時間から2時間の残業
18:00-19:00は法定労働時間外のため割増率25%が必要
そのため残業代は1,000円(17:00-18:00)+1,250円(18:00-19:00)

同じ1時間分の残業といっても、法定労働時間以内なのか以外かによって大きく変わることがわかりましたでしょうか?

ただ、所定労働時間と法定労働時間が同じであれば、今回の問題は生じません

そして、法的にはこれまで解説したような考え方になりますが、実際の残業代の額は、就業規則の定め方によって決まります。

実際の残業代の計算方法

これまで解説した残業代の計算方法は、あくまで法的な考え方によるものです。

もし、就業規則で「所定労働時間を超えた時間外労働について割増率25%の割増賃金を支給する。」となっていたら、就業規則の規定が優先されます。

先程の例を用いると、17:00-18:00の1時間分の残業代は法的には割増率不要で1時間あたり1,000円になると解説しましたが、就業規則の規定が優先されますので、この場合でも1,250円を支払う必要があります

差額250円を支払わなかったら、それは違反となり未払い扱いになります。

だからこそ就業規則の規定が重要ということです。

たった250円の話かと思ったら認識が甘いと言わざるを得ません。月40時間の残業があれば1万円、10人いれば1か月10万円の出費になります。そして以下で解説しますが、残業代の時効は2年です。

残業代の時効

残業代というのは賃金ですから、労働基準法第115条に基づき、時効は2年になります。

先程の例で言えば、たった250円の差額でも、1日2時間・月40時間の残業として、10人いれば1か月10万円になり、2年分の請求となるわけですから240万円の請求が来るわけです。

労働基準法第115条(時効)
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。

さらに、未払い残業代の場合、裁判所は付加金を命ずることができます。

以下の記事は、農協が6億円の残業代請求を受けて訴訟となっている事案ですが、対象が200人超、そして付加金も求めているため、実はそれほど非現実的な金額ではないということです。

関連:労働時間と残業代の関係・岡山の農協で6億円の残業代請求!

また、以下の記事ではもっとすごい金額、なんと32億円の未払い残業代の事例を会社の実名入りで取り上げていますが、これも非現実的な数字とは言えないわけです。

関連:未払い残業代が32億円! でも非現実的な数字とは言えない理由(計算例あり)

就業規則の残業代に関する規定をすぐに確認!

一口に、残業時間といっても、所定労働時間と法定労働時間の違いを理解し、就業規則の中でどの部分に対して割増賃金を支払うのかを正しく規定しておかなければ、毎月の支払額が大きく変わってくることがわかりましたか?

就業規則の中で、所定労働時間と法定労働時間の違いを規定せず、時間外労働に対して割増賃金を支払うと書いていたら、たとえ法定労働時間内の残業だったとしても割増分が必要になります。

多くの会社で未払い請求されていますが、「最初から残業代なんて払うつもりはない」という超ブラック企業を除いて、ほとんどの会社では、きちんと支払っていたつもりなのに勘違いして未払いになっていたというケースばかりです。

この機会に就業規則がどのような規定になっているのかよく確認しておきましょう!

なお、残業代以外にも就業規則の落とし穴というのは多々あります。以下の記事で徹底的に解説していますので、この機会に確認しておいて下さい。

関連:本当は怖い就業規則! よくある間違い・落とし穴を徹底解説!

裁判例も多い管理職の残業代

残業代に関する誤解が多く、そして実際によくトラブルになっているのが管理職の残業代問題です。

名ばかり管理職問題として有名な事案であり、以下の記事で紹介しているとおり、多くの裁判例があります。実際は会社側がほとんど負けているんですけどね。

関連:残業代の対象になる管理職とならない管理職を法令・裁判例で解説!

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