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71.9%が法令違反・過重労働に対する労基署の重点調査事項

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労働基準監督署は、毎年11月に、過重労働解消キャンペーンとして企業への立入調査を重点的に行っています。

今回は調査内容と違反指摘事項、調査を受けた事業場規模について解説します。

労働基準監督署の重点対象事業場(過重労働関係)

重点監督の対象となるのは以下に該当する労働基準関係法令の違反が疑われる事業場です。

今回は9,120事業場が調査対象となり、そのうち全体の71.9%の6,553事業場で労働基準関係の法令違反があったということです。

  • 長時間の過重労働による過労死等に関する労災請求のあった事業場
  • 若者の「使い捨て」が疑われる事業場

ちなみに、今やブラック企業という言葉は一般的になっていますが、行政はブラック企業という言葉を使わず、「若者の「使い捨て」が疑われる事業場」という言葉を使っています。

労働基準監督署から法令違反と指摘を受けた内容

労働基準監督署から是正勧告書を交付された主な違反内容は以下のとおり。

  1. 違法な時間外労働:2,807事業場(30.8%)
    • うち、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が
      • 月80時間を超えるもの: 640事業場(22.8%)
      • うち、月100 時間を超えるもの:341事業場(12.1%)
      • うち、月150 時間を超えるもの:59事業場(2.1%)
      • うち、月200 時間を超えるもの:10事業場(0.4%)
  2. 賃金不払残業:478事業場(5.2%)
  3. 過重労働による健康障害防止措置が未実施:1,829事業場(20.1%)

以降、個別の内容を解説していきます。

1. 違法な時間外労働

まず、違法な時間外労働というのは主に以下の場合であり、1、2は労働基準法32条違反、3は労働基準法36条6項違反になります。

  1. 36協定がなく時間外労働を行わせている
  2. 36協定で定める限度時間を超えて時間外労働を行わせている
  3. 時間外労働が上限規制を超えている

なお、3は平成31年4月から施行(中小企業は令和2年4月から)された規制です。

この違法な時間外労働として違反を指摘されたのは2,807事業場。

また、時間外・休日労働の実績が最も長い労働者の時間数が月80時間を超えていたと発表されていますが、これは脳・心臓疾患の

  • 発症前1か月間におおむね100時間を超える時間外・休日労働
  • または、発症前2か月間ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外・休日労働

が認められる場合、業務と発症との関連性が強いとの医学的知見があるためです。報道などでよく過労死ラインと言われているものです。

そのため、時間外・休日労働時間数が1か月当たり80時間を超えていると考えられる事業場は労働基準監督署の調査対象となります。

関連:74.0%が法令違反・長時間労働に対する労基署の指導事項

2. 賃金不払残業

賃金不払残業とは、文字どおり、残業をさせたのに賃金を払っていなかったというもので、これは労働基準法37条違反になります。

賃金不払残業は478事業場となっていますが、発表内容の注記によると、この数字に計算誤り等は含んでいないということです。

事務的なミスは除かれているので、この数字は賃金を払つもりがないのに働かせたという意味で罪の大きなものです。

3. 過重労働による健康障害防止措置の未実施

過重労働による健康障害防止措置の未実施とは、主に以下のような内容です。

  • 衛生委員会を設置していない(労働安全衛生法18条違反)
  • 健康診断を行っていない(労働安全衛生法66条違反)
  • 1月当たり80時間以上の時間外・休日労働を行った労働者から、医師による面接指導の申出があったにもかかわらず、面接指導を実施していない(労働安全衛生法66条の8違反)
  • 客観的な方法その他の適切な方法により労働時間の状況を把握していない(労働安全衛生法66条の8の3違反)

立入調査を最も受けた事業場の規模は10-29人

「従業員の人数が多い企業にしか労働基準監督署は来ない・調査を受けない」と思い込んでいる経営者や人事労務担当者は多いのですが、それは間違いです。

今回の重点対象となった9,120事業場の内訳は以下のとおりです。

  • 1-9人:2,592事業場(28.4%)
  • 10-29人:3,694事業場(40.5%)
  • 30-49人:1,247事業場(13.7%)
  • 50-99人:712事業場(7.8%)
  • 100-299人:622事業場(6.8%)
  • 300人以上:253事業場(2.8%)

この結果から、最も重点対象となったのは10-29人の事業場規模、次に多いのが1-9人の事業場規模ということがわかります。

「従業員の人数が少ない会社に労働基準監督署は来ない、だから関係ない」というのが間違いであることがよくわかります。

労働時間の管理方法で最も多いのはタイムカード

今回の発表資料で個人的に興味深かったのが、監督指導により把握した実態としてまとめられていた「労働時間の管理方法」です。

あくまで監督指導を実施した事業場に限定した実態となりますが、9,000以上の事業場を調査した結果なので参考になります。

  • 原則的な方法
    • 使用者が自ら現認:833事業場
    • タイムカードを基礎:3,573事業場
    • ICカード、IDカードを基礎:1,772事業場
    • PCの使用時間の記録を基礎:566事業場
  • 自己申告制:2,395事業場

事業場の部署等によって異なる労働時間の管理方法を採用している場合は、複数に計上されているとのことですが、タイムカードを基礎にして労働時間の管理をしている事業場が多いことがわかります。

ただ、意外と自己申告制を採用している事業場も多くなっています。

労働時間の把握に関する原則的な方法の詳細については以下の記事で解説していますのでご参考ください。

関連:労働時間の把握に関するガイドラインの詳細解説

まとめ

昨年4月から大企業を対象に時間外労働の上限規制が始まり、今年からは中小企業も対象になっています。

しかし、そもそも「労働時間の定義」について正確に理解していない経営者や人事労務担当者はまだまだ多いようです。

業務の棚卸を行い、残業時間を減らしたつもりでも、「労働時間の定義」の理解が不十分であれば、想定外の労務リスクに晒されてしまいます。この機会に正確に理解しておいてください。

参考:令和2年度「過重労働解消キャンペーン」の重点監督の実施結果を公表(厚生労働省)

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