労働条件の明示義務と労働条件通知書について図解解説!

人を採用するとき、きちんと労働条件を明示していますか?

働くというのは、会社(使用者)と労働者による、れっきとした契約行為です。

1人でも雇えば、会社は少なくとも年間200万円程度は支払うことになります。そんな大金を支払うのに、何の契約書もないというのは不思議だと思いませんか?

それに、口約束で労働条件を決めるというのは、会社側、労働者側ともに、言った言わないのトラブルのもとになります。

今回は、そんな人事労務管理の基本中の基本である労働条件の明示について、労働条件通知書と交錯するやっかいな点を図解して解説します。

なお、雇用する前にきちんと考えシミュレーションしておくべきことは以下の記事でまとめていますのでご参考下さい。

雇用するときに事前に決めておきたい5つのこと-社労士の正しい活用法も伝授
雇用ははじめが肝心です。後回しにすると後で後悔することになります。最初に決めるべきことについてどのような視点を持つべきか、そして社労士の正しい活用法も伝授します。
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1. 労働条件の明示

会社が労働者を雇用するときには労働条件を明示しなければなりません。これは強行法規であり罰則もある労働基準法令により義務づけられています。

これに違反した場合は、第120条により、30万円以下の罰金となります。

ちなみに、この違反というのは、明示すべき範囲の労働条件を明示しない場合や、書面等の明示など定められた方法で明示しない場合を指します。

労働基準法第15条(労働条件の明示)
  1. 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

そして明示しなければならない項目というのも法令により定められています。これは2段階になっており、1つは必ず明示しなければならない項目、そしてもう1つが制度がある場合に明示しなければならない項目です。

1-1. 必ず明示しなければならない項目

  1. 労働契約の期間
  2. 業務を行う場所、業務内容
  3. 業務の開始・終了の時刻、残業の有無、休憩時間・休日・休暇など
  4. 賃金(退職金、賞与等を除く)の決定・計算・支払いの方法など
  5. 退職に関する事項
  6. 昇給に関する事項

1-2. 制度がある場合に明示しなければならない項目

  1. 退職手当がある場合は、適用される人の範囲や計算方法など
  2. 賞与など
  3. 負担させる食費や作業用品の費用など
  4. 安全衛生に関する事項
  5. 職業訓練に関する事項
  6. 災害補償、業務外の傷病扶助
  7. 表彰、制裁に関する事項
  8. 休職に関する事項

2. 労働条件通知書

労働条件の明示に関する義務を解説しましたが、先程の項目の中で、必ず書面により明示することが義務づけられているものがあります。

これが労働条件通知書です。

また、就業規則があるから労働条件通知書は不要である、とよく誤解する人がいますが、それは間違いです。

兵庫労働局のHPでは、以下のように記載されており、この条件を満たせば、労働条件通知書を交付する必要はないということです。

専門的に言えば、労働協約または就業規則の定めにより、労働契約自体は有効に成立するが、この条件を満たしていない場合は労働条件を明示しなかったという使用者の不作為が処罰の対象になるということです。

就業規則に当該労働者に適用される労働条件が具体的に規定されており、労働契約締結時に労働者一人ひとりに対し、その労働者に適用される部分を明らかにしたうえで就業規則を交付すれば、再度、同じ事項について、書面を交付する必要はありません。

3. 労働条件通知書の記載事項

それでは、具体的な労働条件通知書の記載事項を解説していきます。

労働条件通知書には、書面を交付して明示しなければならない事項と、口頭の明示でもよい事項という2種類があります。

3-1. 書面の交付による明示事項

  1. 労働契約の期間
  2. 業務を行う場所、業務内容
  3. 業務の開始・終了の時刻、残業の有無、休憩時間・休日・休暇など
  4. 賃金(退職金、賞与等を除く)の決定・計算・支払いの方法など
  5. 退職に関する事項

3-2. 口頭の明示でもよい事項

ただし、1の昇給に関する事項は、法令上、書面でなくても良いのですが、必ず明示しなければならない事項なので注意してください。

2以降は、制度を設ける場合に明示しなければならない事項となります。

  1. 昇給に関する事項
  2. 退職手当がある場合は、適用される人の範囲や計算方法など
  3. 賞与など
  4. 負担させる食費や作業用品の費用など
  5. 安全衛生に関する事項
  6. 職業訓練に関する事項
  7. 災害補償、業務外の傷病扶助
  8. 表彰、制裁に関する事項
  9. 休職に関する事項

まとめ

一旦まとめます。

労働条件の明示で少々やっかいなのが、絶対に明示しなければならない項目と制度がある場合に明示しなければならない項目、書面による明示・口頭でもよい明示が交錯している点です。

具体的には「昇給に関する事項」です。これは絶対に明示しなければならない事項です。ただ、書面でなく口頭でよいことになっています。

図にすると以下のようになります。

specification-of-labor-condition

4. よくある質問とその回答

4-1. 不確定事項がある場合の明示義務は?

例えば、新規事業を開始する場合など、労働条件の具体的な明示が困難な場合もあります。

また採用内定の段階では、見込みの労働条件となるため、概括的な労働条件の明示はやむを得ないと考えられています。

4-2. 採用時に労働条件通知書を渡していないときは?

労働基準法第15条では、「労働契約の締結に際し」と規定されており、採用した際に明示しなければならないわけですが、もし明示していない場合は、すぐに書面を用意し明示する必要があります。

遅くなったとしても放置するよりはましです。

4-3. 参考になる労働条件通知書の様式や記載例はある?

厚生労働省のHPに、労働条件通知書のモデル様式があるので、こちらを利用すると良いでしょう。

記載例については、厚生労働省傘下の機関になる各労働局のHPにあります。

実際に作成する際には、そのまま用いることはオススメしませんが、参考としてリンクを掲載しておきます。

また、労働条件通知書を作成する際によくある間違いが、割増賃金率の書き方です。以下の記事で解説していますのでご参考ください。

就業規則における割増賃金の書き方には要注意!
割増賃金というのは、平均賃金の1.25倍、1.35倍というものですが、御社の就業規則や労働条件通知書の記載内容は大丈夫ですか?今回は、間違いがちな割増賃金率という用語の使い方について解説します。

参考

4-4. パートにも労働条件通知書は必要?

なぜか、パートタイム労働者であるというだけで、正社員に行っているような手続きを不要と思っている経営者や管理職の方は意外と多いです。

しかし、パートタイム労働者にも当然、労働条件通知書は必要であり、むしろ正社員よりも厳しい規制と罰金・過料が課せられています。

その点については以下の記事で解説しています。

【罰金40万円?】パート・アルバイトにも労働条件通知書は必要?
パートというだけで正社員のような手続きを不要と思っている会社があります。今回は、パートタイム労働者にも労働条件通知書は必要であり、むしろ正社員よりも厳しい規制と罰金・過料が課せられている根拠をご紹介します。

また、最近はブラックバイトという用語も出ており、行政も本気でアルバイトの労働条件対策に取り組んでいます。以下のチェック項目を確認して、法令違反になっていないかチェックしておきましょう。

アルバイトを雇う際に確認しておきたい21のチェック項目
昨年は学業に支障が出るようなアルバイトが社会問題となり、ブラックバイトという言葉も出てきました。今回は、厚生労働省と文部科学省が作成した学生アルバイトを雇う際のチェックリストを取り上げます。

4-5. 労働条件通知書と雇用契約書はどう違うの?

どちらを使ってもよいというとんでもないアドバイスをしている専門家もいるようですが、労働条件通知書と雇用契約書は、目的や用途がかなり違います。

以下の記事で解説していますのでご参考ください。

雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?
一般の方にはわかりにくい、そして「専門家ですらきちんと説明できない」労働条件通知書と雇用契約書の3つの違い、ついでに雇用契約書と労働契約書の違いも解説します。

4-6. どれくらいの頻度で労働条件通知書を変更すべき?

一旦、御社の就業規則や実情を踏まえた労働条件通知書の様式を作成しておけば、基本的にそれを使い回すことになりますが、少なくとも1年に1回は専門家の点検を受けるべきです。

例えば、平成24年10月に、労働基準法施行規則の一部改正により、絶対的明示事項の変更がありました。絶対的明示事項の変更ですから、これは大きな項目の変更ですし、対応していなければ即違反です。

また、平成27年4月施行のパートタイム労働法改正により、パートやアルバイトを雇う際に交付する労働条件通知書の記載項目が一部追加となっています。

つまり、平成27年4月以降に見直していない労働条件通知書があれば、それは古い様式のままということであり、違法状態を放置している可能性があります。

4-7. 労働条件と就業規則との関係は?

上で説明したとおり、就業規則は社員全体の労働条件を規定したものであり、個別の労働条件はそれぞれ明示する必要があります。実務的に考えると、労働条件通知書を1枚作成し、説明するのが結局は最も簡単になるでしょう。

ただ、以下の記事で詳しく解説していますが、就業規則は法的規範性、つまり法の一種になるような効力を持つことができます。果たしてこの意味をどの程度の会社が理解しているのかわかりませんが、手続きをきちんと行うことは会社にとって大きなメリットであることを理解しておくべきです。

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この記事を書いた人


安部敏志

あべ社労士事務所代表・社会保険労務士

国家公務員I種職員として労働基準法・労働安全衛生法等の立案や企業への徹底的な指導に従事した経験を武器に、退職後は逆に会社を守る立場として経営者・人事担当者からの人事労務管理に関するご相談に対応。

最近は記事の執筆やセミナー講師の依頼にも積極的に対応。仕事内容がわかりにくいとよく言われるので、業務内容・実績を紹介するページを作成しました!

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