Work Life Fun

仕事も人生も楽しむ社労士

労働条件の明示義務と労働条件通知書について図解解説!

※当サイトはリンクに広告ページが含まれている場合があります

人を採用するとき、きちんと労働条件を明示し契約書を交わしていますか?

働くというのは、会社(使用者)と労働者による、れっきとした契約行為です。1人でも雇えば、会社は少なくとも年間300万円程度を支払うことになります。そんな大金を支払うのに、何の契約書もないというのは不思議だと思いませんか?

今回は、そんな人事労務の基本である労働条件の明示に関して、以下の内容を図解してわかりやすく解説します。

  • 法律の求める労働条件の明示義務とは何か
  • 口頭による明示で良い項目・書面(労働条件通知書)による明示が必要な項目
  • 労働条件の明示に関するよくある質問とその回答

労働条件とは?

労働条件の明示について解説する前に、まず労働条件とは何を指すのでしょうか?

日本国憲法を踏まえて策定された強行法規である労働基準法では第1条で以下のように定められています。

労働基準法第1条(労働条件の原則)
労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。

なお、この第1条については、労働基準法の施行に際して発出された行政通達(昭和22年9月13日付け発基第17号)では、以下のように解釈が示されています。

  • 本条は労働者に人格として価値ある生活を営む必要を充すべき労働条件を保障することを宣明したものであって本法各条の解釈にあたり基本観念として常に考慮されなければならない。
  • 労働者が人たるに値する生活を営むためにはその標準家族の生活をも含めて考えること。

そして第1条に続き、第2条では「労働者と使用者が対等の立場で決定すべきこと」、第3条で「差別的取扱いの禁止」を定めています。

このように、労働条件とは、賃金、労働時間に限らず、解雇、災害補償、安全衛生、寄宿舎等に関する条件をすべて含む労働者の職場における一切の待遇を指すものとされています。

1. 労働条件の明示

会社が労働者を雇用するときには労働条件を明示しなければなりません。

この労働条件の明示については、強行法規である労働基準法による義務であるため、違反した場合は、労働基準法第120条により30万円以下の罰金となります。

ちなみに、この違反とは、明示すべき範囲の労働条件を明示していない場合や、書面等の明示など定められた方法で明示しない場合を指します。

労働基準法第15条(労働条件の明示)
  1. 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。

そして明示しなければならない項目も法令により定められています。

これは2段階になっており、1つは必ず明示しなければならない項目、そしてもう1つが制度がある場合に明示しなければならない項目です。

1-1. 必ず明示しなければならない項目

  1. 労働契約の期間
  2. 業務を行う場所、業務内容
  3. 業務の開始・終了の時刻、残業の有無、休憩時間・休日・休暇など
  4. 賃金(退職金、賞与等を除く)の決定・計算・支払いの方法など
  5. 退職に関する事項
  6. 昇給に関する事項

1-2. 制度がある場合に明示しなければならない項目

  1. 退職手当がある場合は、適用される人の範囲や計算方法など
  2. 賞与など
  3. 負担させる食費や作業用品の費用など
  4. 安全衛生に関する事項
  5. 職業訓練に関する事項
  6. 災害補償、業務外の傷病扶助
  7. 表彰、制裁に関する事項
  8. 休職に関する事項

2. 労働条件通知書

1で解説した労働条件の明示義務の中には、書面による明示が義務づけられている項目があり、この書面が労働条件通知書と呼ばれるものです。

「就業規則があるから労働条件通知書は不要」と誤解する人がいますが、それは間違いです。

兵庫労働局のウェブサイトでは、以下のように記載されており、この条件を満たせば重複する部分の労働条件通知書を交付する必要はないと言っているに過ぎません

専門的に言えば、労働協約または就業規則の定めにより労働契約自体は有効に成立するが、労働条件の明示義務の項目を満たしていない場合は、労働条件を明示しなかったという使用者の不作為が処罰の対象になるということです。

就業規則に当該労働者に適用される労働条件が具体的に規定されており、労働契約締結時に労働者一人ひとりに対し、その労働者に適用される部分を明らかにしたうえで就業規則を交付すれば、再度、同じ事項について、書面を交付する必要はありません。

就業規則と労働条件通知書には重複する項目もあるため、面倒に感じるかもしれませんが、労働条件通知書を1人ひとりに渡す方が、実は、後々発生する可能性のあるトラブルを防止する上でも有効と言えます

3. 労働条件通知書の記載事項

それでは、具体的な労働条件通知書の記載事項を解説していきます。

労働条件通知書には、書面を交付して明示しなければならない事項と、口頭の明示でもよい事項という2種類があります。

3-1. 書面の交付による明示事項

  1. 労働契約の期間
  2. 業務を行う場所、業務内容
  3. 業務の開始・終了の時刻、残業の有無、休憩時間・休日・休暇など
  4. 賃金(退職金、賞与等を除く)の決定・計算・支払いの方法など
  5. 退職に関する事項

3-2. 口頭の明示でもよい事項

昇給に関する事項は、法令上、書面でなく口頭の明示で良いのですが、必ず明示しなければならない事項なので注意してください。

2以降は、制度を設ける場合に明示しなければならない事項となります。

  1. 昇給に関する事項
  2. 退職手当がある場合は、適用される人の範囲や計算方法など
  3. 賞与など
  4. 負担させる食費や作業用品の費用など
  5. 安全衛生に関する事項
  6. 職業訓練に関する事項
  7. 災害補償、業務外の傷病扶助
  8. 表彰、制裁に関する事項
  9. 休職に関する事項

労働条件の明示義務と労働条件通知書の図解

さて、鋭い方はお気づきかもしれませんが、労働条件の明示義務がある項目と労働条件通知書の記載事項との間には若干の違いがあります

労働条件の明示は法的義務ですが、少々やっかいなのが、「絶対に明示しなければならない項目」と「制度がある場合に明示しなければならない項目」があって、「書面によって明示しなければならない項目」と「口頭でもよい明示の項目」が交錯している点です。

具体的には「昇給に関する事項」です。これは絶対に明示しなければならない事項です。ただ、書面でなく口頭でよいことになっています。ややこしい部分なので、実務的には「昇給に関する事項」も労働条件通知書に入れることをオススメします。

これらの違いを図にすると以下のようになります。

そして、図示しているとおり、パートやアルバイト、契約社員といった短時間・有期雇用労働者を雇用する場合、労働条件通知書の項目は増えます。

関連:【罰金あり】パート・アルバイトの労働条件通知書に必要な記載事項

4. よくある質問とその回答

4-1. 不確定な事項がある場合の明示義務は?

例えば、新規事業を開始する場合など、労働条件の具体的な明示が困難な場合もあります。

また採用内定の段階では、見込みの労働条件となるため、概括的な労働条件の明示はやむを得ないと考えられています。

4-2. いつ労働条件通知書を渡すの?

会社が労働者を雇用するときに渡す必要があります。

多くの会社では試用期間と本採用を分けていますが、試用期間というのはあくまで会社が決めるものであり、試用期間が始まる段階で雇用契約は締結されています。そのため、試用期間が始まるときに労働条件通知書を渡します。

また、試用期間と本採用で労働条件が変わる場合は、その切り替わる際に別途労働条件通知書を渡す必要があります

なお、試用期間の法的性質について誤解している会社や労働者も多いため、以下の記事で解説しています。試用期間だからといってすべて会社の自由になるわけではないためご注意ください。

関連:試用期間の長さ、賃金、社会保険、解雇等に関する基礎知識

また、内定についても、まだ入社前だからと安易に考え、誤解している会社もありますが、内定は「始期付の解約権を留保した労働契約が成立する」と最高裁は判断しており、内定取消は余程のことがない限りできないことをご存知ですか?

関連:内定の法的意味と内定取り消しに関する法律問題の基礎知識

4-3. 採用時に労働条件通知書を渡していないときは?

労働基準法第15条では「労働契約の締結に際し」と規定されています。

そのため、採用した際に明示しなければならないものですが、もし明示していない場合は、すぐに書面を用意し明示する必要があります。遅くなったとしても放置するよりはましです。

4-4. 参考になる労働条件通知書の様式や記載例はある?

厚生労働省のサイトに、労働条件通知書のモデル様式があるので、こちらを利用すると良いでしょう。

記載例については、厚生労働省傘下の機関になる各労働局のサイトにあります。実際に作成する際にはそのまま用いるのではなく、きちんと中身を精査することをオススメします。中身がわからなければ、信頼できる社労士に依頼しましょう。

参考:労働条件通知書モデル様式(厚生労働省)

参考:労働条件通知書(記載例・沖縄労働局)

4-5. パートにも労働条件通知書は必要?

なぜか、パートやアルバイトには正社員のような手続きが不要と思っている経営者や管理職が意外と多くいます。

労働条件通知書は労働者すべてに必要であり、むしろ正社員よりも厳しい規制と罰金・過料が課せられているので注意してください。

関連:【罰金あり】パート・アルバイトの労働条件通知書に必要な記載事項

4-6. 労働条件通知書と雇用契約書はどう違うの?

どちらを使ってもよいという信じられないアドバイスをしている専門家もいるようですが、労働条件通知書と雇用契約書は、目的や用途が違います。

関連:雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?

また、労働条件通知書ではなく、労働者との間のトラブル防止のためにお互いに押印する雇用契約書を利用したいという方は、以下の記事をご参考下さい。

関連:使用率90%以上の雇用契約書のテンプレートを用いて内容・記載事項を解説!

4-7. どれくらいの頻度で労働条件通知書を変更すべき?

一旦、御社の就業規則や実情を踏まえた労働条件通知書の雛形を作成しておけば、基本的に使い回すことになりますが、定期的に専門家のチェックを受けることをオススメします。

例えば、平成24年10月に、労働基準法施行規則の一部改正により、絶対的明示事項の変更がありました。絶対的明示事項の変更なので大きな項目の変更ですし、対応していなければ即違反です。

また、平成27年4月施行のパートタイム労働法改正により、パートやアルバイトを雇う際に交付する労働条件通知書の記載項目が一部追加となっています。

つまり、平成27年4月以降に見直していない労働条件通知書があれば、それは古い様式のままということであり、違法状態を放置している可能性があります。

4-8. 労働条件と就業規則との関係は?

就業規則は従業員全体の労働条件を規定したものであるため、個別の労働条件は労働条件通知書を用いて明示する必要があります。

重複する部分は就業規則の該当条文を参照する形で示せばよいのですが、実務的に考えると、労働条件通知書の中にきちんと記載項目を書いた上で作成し説明するのが、結局は最も効率的になるでしょう。

なお、以下の記事で詳しく解説していますが、就業規則は法的規範性、つまり法の一種になるような効力を持つことができるため、就業規則を適切に整備しておくことは会社にメリットしかない点は知っておきましょう。

関連:本当は怖い就業規則! よくある間違い・落とし穴を徹底解説!

4-9. 労働条件通知書の保存期間は?

労働条件通知書については最低限の保存期間が法令により定められています。

労働条件通知書は、労働基準法第109条・施行規則第56条の「雇入、解雇、退職に関する書類」に該当し、3年間の保存義務があります。

関連:人事・労務に関係する書類の保存期間を根拠法を含めて解説!

まとめ

今回は、採用時に義務づけられている労働条件の明示・労働条件通知書について解説し、口頭で明示してよい事項、書面で明示しなければならない事項を解説しました。

労働契約という「契約」を締結するため、労働条件を明示する、書面を交付するのは当然です。その当然をしていない会社が存在することが問題なのですが・・・

ただ、以下の記事で解説しているとおり、そもそも雇用する前にきちんと考え、労働条件をシミュレーションしておかないと、手続きの段階になって困ることになります。

関連:雇用するときに事前に決めておきたい5つのこと-社労士の正しい活用法も伝授

なお、人事労務に関する弁護士として第一人者の安西先生の本は、人事労務担当者の必読の書でありオススメです。

【無料】効率的に人事労務の情報を入手しませんか?
  • 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
  • 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない

といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。

過去の配信分は公開しません。

情報が必要な方は、いますぐ以下のフォームから購読の登録をしてください。購読して不要と思ったら簡単に解除できますのでご安心ください。


up_line