雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?

最近、ある経営者から、雇用契約書と労働条件通知書の違いを聞かれました。

確かに用語としては似ていますが、専門的に言えば、根拠となる法令が異なるため、全くの別物となるのですが、期待される効果についての違いは微妙でありながらも、それぞれに一長一短があります。ただ、一般の方にはわかりにくいでしょう。

検索して参考になる記事を見繕って送ってあげようと思い、「労働条件通知書 雇用契約書」で検索したところ、違いを明確に説明している記事がありません・・・

いくつか記事を見てみたところ、説明できないというより、そもそも理解できていない人が多いようです。ひどい記事になると、どっちを利用しても構わないとさえ書かれています・・・。こんなのでよく専門家とか言えるな・・・

明確に説明できない専門家が多いようなので、今回は、労働条件通知書と雇用契約書の明確な3つの違い、ついでに、さらに紛らわしい雇用契約書と労働契約書の違いも解説します。

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働くこと→労働契約という立派な契約

まずは、働くというのはどういうことかという基本的な点から説明します。

labor-contract

働くというのは、労働者が企業・経営者に対して労務を提供することです。企業・経営者はその対価として賃金を支払います。

ノーワーク・ノーペイ(No Work No Pay)の原則と言いますが、労務の提供がなければ賃金を払う必要がないということです。これが基本的な考え方です。

つまり、働くというのは、企業・経営者と労働者との間の立派な契約であり、だからこそ、法律は、後々のトラブルを防ぐために、できる限り書面という言い方はしていますが、労働契約を結ぶことを求めています。

労働契約法第4条(労働契約の内容の理解の促進)
  1. 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
  2. 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

雇用契約書と労働契約書の違い

雇用契約書と労働契約書というのは、ほぼ同じように使われていますが、厳密には異なります。

雇用契約書というのは、民法を根拠にしています。

そして労働契約書というのは、労働契約法を根拠にしています。

民法第623条(雇用)
雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
労働契約法第4条(労働契約の内容の理解の促進)
  1. 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
  2. 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

この違いは、民法第623条>労働契約法第4条、つまり民法第623条の方が対象が広いということです。

ただ、誤解のないように注意してください。労働契約法は特別法であり、一般法である民法より優先されます。つまり、優先度から見ると、民法第623条<労働契約法第4条となります。

労働契約法を根拠にする労働契約書というのは、使用者と労働者の間で交わされるものであり、使用者や労働者に該当しない場合は、労働契約となりません。

具体的な例を使って説明すると、「同居の親族を専従従業員として採用する同居親族のみの事業」というのは、労働者に該当しません。そのため、労務の提供を受け、その対価として賃金を支払っており、その契約内容を書面で交わしたとしても、これは労働契約にはならず、あくまで雇用契約となります。

このように厳密には異なるわけですが、一般的にはかなり細かな違いになるため、今回は、雇用契約書=労働契約書として扱い、民法より具体的に規定し、そして優先度の高い労働契約法を参照して解説します。

労働条件通知書は一方的な通知・雇用契約書は契約という合意

労働条件通知書というのは、法的根拠は後述しますが、使用者による一方的な通知です。

以下の記事で解説したとおり、使用者は労働条件の一定の内容については書面で明示することが義務づけられています。

労働条件の明示義務と労働条件通知書について図解解説!
今回は、そんな人事労務管理の基本である労働条件について、法律の求める労働条件の明示義務とは何か、労働条件の明示と労働条件通知書の項目の違いは何か、労働条件の明示に関するよくある質問とその回答を、図解してわかりやすく解説します。

一方、雇用契約書というのは、使用者と労働者双方で押印又は署名を行い、契約を締結するものです。

ただ、この雇用契約書(労働契約書)は、労働契約法の中で「できる限り書面により確認」と規定されているように任意の書面となりますが、あくまで契約書であり、使用者・労働者双方で確認しますので、合意された内容と認められることになります。

労働条件通知書は労働基準法、雇用契約書は労働契約法が根拠

労働条件通知書については、労働基準法第15条を根拠としています。

そして、雇用契約書、厳密に言えば労働契約書ですが、労働契約法第4条を根拠としています。

労働基準法第15条(労働条件の明示)
  1. 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
  2. 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
  3. 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
労働契約法第4条(労働契約の内容の理解の促進)
  1. 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
  2. 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

根拠法が違うということは、それぞれの書類の内容についても、法的に考えると、相互の関連はないということです。

つまり、労働条件通知書の中で必須とされている明示事項について、必ずしも雇用契約書の中に入れる必要はありません。

もちろん、労働条件通知書の内容を含む雇用契約書を交わし、その代わり労働条件通知書を交付しないということにするなら、雇用契約書の内容は労働条件通知書の必須事項を入れておく必要があります。労働条件通知書の交付をしていないということで、法違反になってしまいますので。

労働条件通知書は罰金30万円、雇用契約書は罰金なし

上で書きましたが、労働条件通知書、雇用契約書は、それぞれ交付が求められる根拠となる法律が違います。

労働条件通知書は、労働基準法を根拠法としており、労働基準法は強行法規です。

そのため、基本的には、違反に対して罰則がかかりますし、労働条件通知書の未交付の場合は、罰則として原則30万円、パートの場合は過料として+10万円がかかります。

ちなみに、なぜか正社員と違ってパートには労働条件の明示が不要と思っている会社が多くありますが、それは大きな間違いです。

パート・アルバイト、名称に関わらず正社員以外でも労働条件通知書は必要ですし、以下の記事でも解説していますが、実は明示しなければならない項目は正社員よりも多くなっていますからね。

【罰金40万円?】パート・アルバイトにも労働条件通知書は必要ですよ!
パートというだけで正社員のような手続きを不要と思っている会社があります。今回は、パートタイム労働者にも労働条件通知書は必要であり、むしろ正社員よりも厳しい規制と罰金・過料が課せられている根拠をご紹介します。

その一方で、雇用契約書というのは、労働契約法を根拠法としています。

労働契約法には、そもそも罰則がありませんので、雇用契約書を交わさなくても罰則はありません。

雇用契約書と労働条件通知書のどちらを使うべき?

さて、ここからは実務的な話になります。

専門家は、労務トラブル防止のために、労働条件通知書よりも雇用契約書を双方で交わすべきと勧めます。

確かに労務トラブルというのは、退職時に発生することが多く、大半のケースで、募集内容や採用時の条件と異なる、つまり「言った、言わない」の問題になります。

そういう意味で、使用者による一方的な通知である労働条件通知書よりも、双方で押印または署名する雇用契約書を交わし保管しておくのは、労働者側も同意しているという証拠を残すことができ、大きなメリットです。

ただ、法的に必須とされているのは、労働条件通知書です。

そのため、実務的にオススメする対応としては、以下の2通りのどちらかを選択することです。

  1. 労働条件通知書と雇用契約書をそれぞれ作成する
  2. 雇用契約書のみを作成する、同契約書の中には労働条件通知書の必須の明示事項を入れ込む

1の場合は、2つの書類を作成しなければならないという面倒さ・デメリットがありますが、それぞれの書類の目的がはっきりするというメリットがあります。

2の場合は、1つの書類で済むというメリットがありますが、法的項目を満たしつつ、本来同意まで得ることは不要の項目についても、契約書として同意を得なければならないというデメリットがあります。

1と2、それぞれにメリット・デメリットがありますが、いずれにしても、後々トラブルになった場合は、証拠書類として用いられることになります。

雇用契約書の記載事項

ここまで労働条件通知書と雇用契約書の違い、実務的な対応方法について解説してきましたが、大半の会社では1つの書類で済ますために、雇用契約書を作成しています。

ただ、実際に雇用契約書を見せてもらうと、「コレじゃダメですよ・・・」というのがほとんどです。

以下の記事では、具体的に雇用契約書に何を記載しなければならないのか、記載事項を詳しく解説していますのでご参考下さい。

使用率90%以上の雇用契約書のテンプレートを用いて内容・記載事項を解説!
今回は、雇用契約書の法的な定義からはじまり、9割以上の会社で利用されている雇用契約書のテンプレートを用いて内容・記載事項を解説します。記載事項は正社員とパートで違いますよ!

ただ、あなたが自分で作成するとしても、1度は専門家に見てもらっておくことをオススメします。法改正によって必要となる項目は変わってきますし、最近は労働者も昔と比べて格段に知識がありますので、きちんとしているつもりで雇用契約書を見せても「うゎっ、危ない会社かも・・・」と思われたら損です。

近年、ブラックバイトという言葉が流行しましたが、昔と比べて、あまりにもアルバイトの労働条件が悪いということで、行政が本腰を入れて「アルバイトの労働条件確認キャンペーン」が行われています。

その中の、最重要チェック項目が、今回の記事のテーマでもある労働条件通知書・雇用契約書です。アルバイトを多数雇っている会社は要注意ですよ。

あなたの会社は対策済? 国によるアルバイト労働条件確認キャンペーン開始!
厚生労働省が、アルバイトを始める新入学生が多い4月から7月までを対象に、「アルバイトの労働条件を確かめよう!」キャンペーンを全国で実施しています。今回は、このキャンペーン内容、会社側として意識すべきチェック項目などを解説します。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

最後に、雇用契約書と労働条件通知書の違いを改めてまとめておくと、ポイントは以下の3つです。

  1. 労働条件通知書は通知、雇用契約書は契約という合意
  2. 労働条件通知書と雇用契約書は根拠となる法律が異なる
  3. 労働条件通知書は罰金あり、雇用契約書は罰金なし

なお、今回は雇用契約に関して解説しましたが、では雇用契約というのはいつから始まるのか? という点でよく誤解されています。

多くの会社では試用期間と本採用を分けていますが、試用期間というのはあくまで会社が決めるものであり、試用期間が始まる段階で雇用契約は締結されています。

そのため、試用期間が始まる際に労働条件通知書の交付または雇用契約書の締結が必要です。

また、試用期間と本採用で労働条件が変わる場合は、その変わる際に別途、労働条件通知書または雇用契約書が必要になります。

試用期間の法的性質については誤解している会社や労働者も多いため、以下の記事で詳細を解説しています。試用期間だからといってすべて会社の自由になるわけではありませんよ。。。

試用期間とは? 試用期間の長さ・賃金・社会保険など法的ルールを徹底解説!
今回は試用期間について、その長さ・賃金・社会保険など法的部分について裁判例などを紹介しながら徹底解説しています。

また、内定についても、まだ入社していないからと判断し、誤解している会社や労働者も多くいます。

以下の記事で解説していますが、内定については「始期付の解約権を留保した労働契約が成立する」と最高裁は判断しているため、内定取消というのは余程のことがない限りできないとご存知ですか?

内定とは? 内定と内々定の法的な違い・内定取消は現実的に不可能?
採用内定に関する法的性質について判例・裁判例を用いて解説します。またトラブルの多い内定取消について適法とされた事例・違法とされた事例をそれぞれご紹介します。

さらに、労働条件通知書を作成する際によくある間違いが割増賃金率の書き方です。以下の記事で解説していますが、結構恥ずかしい間違いであるにも関わらず、意外と多くの会社で間違えているんですよね。。。

就業規則における割増賃金の書き方には要注意!
割増賃金というのは、平均賃金の1.25倍、1.35倍というものですが、御社の就業規則や労働条件通知書の記載内容は大丈夫ですか?今回は、間違いがちな割増賃金率という用語の使い方について解説します。

雇用契約書または労働条件通知書というのは個々の労働者との契約ですが、その共通部分をまとめたものが就業規則です。

就業規則は人事制度の土台であるにも関わらず、「簡単に」作ったがゆえに、後になって取り返しのつかない状態になり当事務所にご相談が来る例が後を絶ちません。就業規則のよくある間違い・中小企業の実態などを書いていますので以下の記事もご参考ください。

本当は怖い就業規則! よくある間違い・落とし穴を徹底解説!
人を雇っている会社のルールブックとも言える就業規則について、中小企業でよくある間違い、その落とし穴について解説します。「就業規則の作成は怖くない」「簡単にできる」と書く素人がいますが、実際に裁判になってからでは遅いのです。

最後に、人事労務の実務を行うなら、以下の本は必携です。もちろん、私も持ってます。少しでも曖昧な部分があったら必ず法律を参照し解釈を確認する、実務を行う上での基本ですよ。

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雇用契約書と労働条件通知書の違いとは?
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この記事を書いた人


安部敏志

あべ社労士事務所代表・社会保険労務士

国家公務員I種職員として労働基準法・労働安全衛生法等の立案や企業への徹底的な指導に従事した経験を武器に、退職後は逆に会社を守る立場として経営者・人事担当者からの人事労務管理に関するご相談に対応。

最近は記事の執筆やセミナー講師の依頼にも積極的に対応。仕事内容がわかりにくいとよく言われるので、業務内容・実績を紹介するページを作成しました!

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