内定の法的効果を徹底解説! 内定取消ってほぼ無理ですよ・・・

こんにちは。福岡の社労士・安部敏志です。早いもので今年も残り3か月、明日から10月ですね。

で、10月1日といえば、多くの会社が入社内定式を行います。今年は10月1日が土曜日なので、直近の平日である10月3日(月)開催が多いようです。

ところで、この内定ってどういうものなのか、説明できますか?

たまに、採用内定を単なる慣行的なものと甘く考えている企業担当者もいますので、今回は、この採用内定に関する法的性質について判例・裁判例を用いて解説します。

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内定とは

日本では、長期雇用システムの下で、新卒一括採用を行っており、入社日より相当早い時期に採用内定を通知しています。

内定を出すことで、確保した優秀な学生から逃げられないように一種の拘束をかけるわけです。

つまり、採用内定は労働契約の一種であり、原則的には本採用自体と変わらないと認識しておく必要があります。この認識がないからトラブルが起きるわけです。

裁判所は、採用内定の法的性質は事案により異なるとしつつも、採用内定通知のほかに、労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていない事案の場合、

  • 企業の募集に対する労働者の応募:労働契約の申込み
  • これに対する企業からの採用内定通知:労働契約の承諾

であって、これにより、始期付の解約権を留保した労働契約が成立するという考え方に立っています(大日本印刷事件、最二小判昭和54年7月20日)。

解説:始期付の解約権を留保した労働契約
入社するまでの間に、採用内定通知書や誓約書に定めた採用内定取消事由が生じた場合や学校を卒業できなかった場合には、労働契約を解約することができる旨の合意を含んだ労働契約

内定と内々定の違い

よく内定と内々定の違いを質問されるのですが、この違いをご存知ですか?

そもそも、内定というのは先程解説したとおり、始期付の解約権を留保した労働契約が成立することを意味するわけですが、では内々定というのは何でしょうか?

結論から書くと、内定は10月1日以降に出すもの、それ以前であれば内々定と呼んでいるわけです。

では、なぜ内定が10月1日以降なのかという点ですが、これは経団連(日本経済団体連合会)による「採用選考に関する指針」が根拠です。つまり業界ルールのようなものです。

内定でも、内々定でも、それをもって求職者が求職活動を終了してしまうと同じようなものですが。

内定取消

さて、この内定に関しては、毎年のように取消が大きな問題になります。

判例では、内定取消の適法性について、採用内定通知書や誓約書に記載された採用内定の取消事由として、以下に限られるとしています。

  • 採用内定当時知ることができず、
  • また知ることが期待できないような事実であり、
  • これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるもの

内定取消が無効となった事例

逆にいえば、内定当時にもわかっていたことで、それをわかった上で、内定を出したのであれば、後になって取消は認められないということです。

内定を出せば、一般的に、学生は就職活動を停止させますからね。

つまり、簡単に言うと、内定取消というのは、通常の解雇と同様に、社会の常識に照らして納得できる理由がなければできないということです。

これに関して、有名な事案が以下の大日本印刷事件です。

大日本印刷事件(最二小判昭和54年7月20日)
  • 学校卒業予定者が企業から内定通知を受け、誓約書を企業に提出したが、その後、企業が突然内定取消通知をしたことについて、裁判所は内定取消しを無効とし労働契約上の地位を確認する判決を下した事案
  • 内定取消しの理由とされた本人がグルーミー(陰気)な印象であることは当初からわかっており、労働者としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、不適格性を打ち消す材料がなかったので内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することはできない

内定取消が有効となった事例

次に、内定取消が有効となった事例を紹介します。

先程解説したように、内定取消については、社会の常識に照らして納得できる理由がなければできないわけですが、例えば、新卒の場合は学校を卒業するという前提で内定を出すわけですから、学校を卒業できなければそれは取消になっても仕方ありませんし、判例では、誓約書を期日までに提出しない場合にも採用を取り消しうるとされています。

大事なことは、取消事由の要件を定めておくことです。採用内定通知書、誓約書はもちろん、就業規則にも規定しておくことが必要です。

電電公社近畿電話局事件(最二小判昭和55年5月30日)
  • 採用内定後に、内定者が現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したことから、企業が内定を取り消したことについて、裁判所は内定取消しを認めた事案
  • 誓約書等を所定の期日までに提出しない場合には採用を取り消しうるものとしていたが、解約権の留保はこれらの場合に限られるものではない

中途採用者の内定取消

これまで解説してきた内定取消の事例は、新卒に関するものでしたが、中途採用者についても考え方は同様です。

特に、中途採用者の場合は、内定が出れば、その時点で勤務している会社に退職届を提出し、もはや後戻りできない状況になります。

つまり、現実には就労していなくても、労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれると判断されます。

以下の裁判例は、企業が経営の悪化等を理由に採用内定取消をする場合には、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する法理が適用されるべきとされたものです。

ちなみに、整理解雇の有効性の判断とは、

  • 人員削減の必要性
  • 人員削減の手段として整理解雇することの必要性
  • 被解雇者選定の合理性
  • 手続の妥当性

という4要素を総合考慮のうえ、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかというものです。

インフォミックス事件(東京地決平成9年10月31日)
  • ヘッドハンティングによって採用内定した労働者に対し、企業が業績悪化を理由として内定を取り消したことについて、裁判所は内定取消しを無効とし、労働契約上の地位を確認する仮処分決定を下した事案
  • 採用内定に至る経緯、内定者の期待、入社の辞退勧告などがなされた時期が入社日のわずか二週間前であり既に前の会社を辞職していること等から、解約留保権の趣旨、目的に照らしても、内定取消しは客観的に合理的なものとはいえず、社会通念上相当として是認することはできない

まとめ

いかがでしたでしょうか?

事例の中でも紹介しましたが、採用内定というのは労働契約の一種です。契約ですから理由もなく一方的に解除するということは難しいわけです。

そのため、採用内定通知書、誓約書はもちろん、就業規則にも取消事由というのをきちんと規定しておくことが必要です。

就業規則の見直しのご依頼を受けていると、内定に関して、規定がない、あっても曖昧といったものをよく見ますので、ご注意下さい。

契約を交わすのに、契約の要件や取消事由がないというのはおかしいですよね?

ちなみに、企業が、新卒の内定を取り消す場合や内定期間を延長する場合には、職業安定法施行規則第35条第2項に基づき、公共職業安定所長及び学校長に通知する義務があるのでご注意下さい。

そして、その内定取消に関しては、同規則第17条の4に基づき、公表される場合もあります。

職業安定法施行規則第35条第2項
新規学卒者を雇い入れようとする者は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、あらかじめ、公共職業安定所及び施設の長にその旨を通知するものとする。
二 新規学卒者の卒業後当該新規学卒者を労働させ、賃金を支払う旨を約し、又は通知した後、当該新規学卒者が就業を開始することを予定する日までの間(内定期間)に、これを取り消し、又は撤回するとき。
三 新規学卒者について内定期間を延長しようとするとき。

参考

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この記事を書いた人


安部敏志

あべ社労士事務所代表・社会保険労務士

国家公務員I種職員として労働基準法・労働安全衛生法等の立案や企業への徹底的な指導に従事した経験を武器に、退職後は逆に会社を守る立場として経営者・人事担当者からの人事労務管理に関するご相談に対応。

最近は記事の執筆やセミナー講師の依頼にも積極的に対応。仕事内容がわかりにくいとよく言われるので、業務内容・実績を紹介するページを作成しました!

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