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衛生管理者という資格はご存じですか? 50人以上のすべての業種の事業場に選任が義務づけられている衛生管理者の職務内容・法的義務について解説します。
ちなみに、先日、社員数40人程度の経営者にそろそろ衛生管理者が必要ですよと話をしたら、食品衛生と勘違いをされてしまいました。。。
衛生管理者とは
衛生管理者とは、事業場の労働衛生全般の管理を行い、労働者の健康障害防止、健康の保持増進に関する事項を担当します。
衛生管理者は国家資格であり、衛生管理者になるためには試験に合格し、免許を取得する必要があります。
衛生管理者には以下の3種類があります。
- 衛生工学衛生管理者
- 第1種衛生管理者
- 第2種衛生管理者
第1種衛生管理者と第2種衛生管理者については、厚生労働大臣の指定する指定試験機関による免許試験に合格する必要があります。
また、衛生工学衛生管理者については、大学や高等専門学校で、工学又は理学に関する課程を修めて卒業した者など一定の資格を有する者が厚生労働大臣の定める講習を受け、修了試験に合格することにより取得できます。
ちなみに、私は3種類の衛生管理者の最上位資格である「衛生工学衛生管理者免許」を所有しています。
衛生管理者の選任と必要な人数
衛生管理者は、労働安全衛生法第12条に基づき、すべての業種において、常時50人以上の労働者を使用する事業場において選任が義務付けられています。
ちなみに、同法第12条の2では、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場においては、安全衛生推進者または衛生推進者の選任が必要とされています。
事業場の規模によって必要となる衛生管理者数が異なるという点は要注意です。具体的には以下の表のとおりです。
事業場の規模 (常時使用する労働者数) |
衛生管理者数 |
---|---|
50人以上200人以下 | 1人 |
200人を超え500人以下 | 2人 |
500人を超え1,000人以下 | 3人 |
1,000人を超え2,000人以下 | 4人 |
2,000人を超え3,000人以下 | 5人 |
3,000人を超える場合 | 6人 |
なお「事業場」という単位について理解が曖昧な方は以下の記事をご参考下さい。
関連:労働基準法における事業場とは?「事業場」と「企業」はどう違う?
衛生管理者の資格
衛生管理者は国家資格であるため、会社が担当者を指名して終わり、というわけにはいきません。
労働安全衛生法令の中で要件が定められており、以下の資格を有する者の中から選任しなければなりません。
- 衛生工学衛生管理者免許
- 第一種衛生管理者免許
- 第二種衛生管理者免許
- 医師又は歯科医師
- 労働衛生コンサルタント
- 教育職員免許法に基づく保健体育の免許所持者、保健体育・保健の教科の教諭免許をもって、学校教育法第一条に定める学校に常勤している教師
- 大学・高等専門学校において保健体育を担当する常勤の教授・准教授・講師
もし、衛生工学衛生管理者、第1種衛生管理者または第2種衛生管理者の免許を取得する必要があれば、資格を取得する人を決め試験に合格できるように準備をしておく必要があります。
また、試験に合格するだけでなく、都道府県労働局への登録という手続きも必要 であり、その手続きを経ることで免許を持つことができます。
なお、第1種・第2種衛生管理者の免許試験、労働衛生コンサルタント試験は、公益財団法人・安全衛生技術試験協会が行っています。
さらに、受験資格も詳細に定められており、特に注意していただきたい点は受験には最低1年以上の実務が必要になる ということです。
そのため、50人以上になる可能性がある事業場は、少なくとも1年ほど前から労働衛生に関する実務をさせつつ、試験対策も行わせる必要があります。
衛生管理者の職務
衛生管理者の職務とは、労働者の健康障害防止、健康の保持増進に関する事項について、専門的見地から事業場の労働衛生全般の管理を行うもので、具体的には以下のとおりです。
- 健康に異常のある者の発見及び処置
- 作業環境の衛生上の調査
- 作業条件、施設等の衛生上の改善
- 労働衛生保護具、救急用具等の点検及び整備
- 衛生教育、健康相談その他労働者の健康保持に必要な事項
- 労働者の負傷及び疾病、それによる死亡、欠勤及び移動に関する統計の作成
- その事業の労働者が行う作業が他の事業の労働者が行う作業と同一の場所において行われる場合における衛生に関し必要な措置
- その他、衛生日誌の記載など、職務上の記録の整備等
労働安全衛生法は歴史的に工場法の流れを受けているため、衛生管理者の職務は、有機溶剤や化学物質を利用した、いわゆる有害業務に対する衛生管理というイメージがありますが、昨今は過重労働対策やメンタルヘルス対策などにも関係していますし、むしろ最近は長時間労働対策の方が中心になってきています。
あくまで「労働者の健康障害防止、健康の保持増進に関する事項」などの労働衛生全般が職務となるわけですから、その所掌範囲は幅広いものです。
衛生管理者は、50人以上のすべての業種の事業場に選任が義務づけられており、危険業務・有害業務がないホワイトカラー中心の会社の場合は、より実務に即したわかりやすい説明としては以下のような職務を行っています。
- 熱中症やインフルエンザなどの季節的な流行情報をわかりやすく発信し、社員の健康対策に貢献
- それに加えて、昨年流行したデング熱やMERSなどの情報を発信することも社員の不安を払拭する上でも有効
- 残業時間が個人や部署で偏りがないかチェックし、必要があれば産業医による面談を促す
また、2015年12月から開始されたストレスチェック制度においても、衛生管理者は中心メンバーになります。
衛生管理者による巡視
また、衛生管理者の職務として重要なのが職場の巡視です。
労働安全衛生規則では、衛生管理者に対し、毎週1回以上の職場の巡視・必要な措置を講じることを義務づけています。
- 労働安全衛生規則第11条(衛生管理者の定期巡視及び権限の付与)
-
- 衛生管理者は、少なくとも毎週1回作業場等を巡視し、設備、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。
- 事業者は、衛生管理者に対し、衛生に関する措置をなし得る権限を与えなければならない。
また、同条第2項では、事業者に対して「衛生管理者が、衛生に関する措置を行うための権限を与えなければならない」と求めています。
つまり、衛生管理者が法令に基づく措置を行おうとしたときに、事業者は全面的に支援をしなければなりません。
これは、そもそも労働基準法や労働安全衛生法が使用者・事業者に義務を課しているためであり、衛生管理者は「事業者が本来行わなければならないことを技術的に支援している」という考えに基づいているためです。
衛生管理者の選任と報告義務
衛生管理者は、選任する事由が生じてから14日以内に選任し、労働基準監督署に届出を行わなければなりません。
「選任する事由が生じてから」というのは「事業場の労働者数が50人になったとき」ということです。
ちなみに、衛生管理者は、原則としてその事業場に専属することが求められていますので注意して下さい。
- 労働安全衛生規則第7条(衛生管理者の選任)
- 衛生管理者を選任すべき事由が発生した日から14日以内に選任すること。
衛生管理者の選任・職務違反の罰則
労働安全衛生法第12条の以下の規定に違反した場合は、罰則に関する規定である第120条に基づき、50万円以下の罰金になりますのでご注意ください。
- 労働安全衛生法第12条(衛生管理者)
- 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、衛生管理者を選任し、その者に衛生に係る技術的事項を管理させなければならない。
以下の記事では、労働基準監督署が調査に来たときの対応方法について解説していますが、50人以上の事業場であれば必ず衛生管理者について確認されます。
- 衛生管理者はどなたですか?
- 衛生管理者が日頃行っていることは何ですか?
- あなたの事業場で労働衛生上、懸案となっていることは何ですか?
このような質問に、経営者や関連する管理職の方が即答できなければ、衛生管理者を選任していても、その職務を果たしていないとみなされる可能性があります。
日頃から衛生管理者として選任している担当者にはその業務を中心に行わせるようにしておいてください。
関連:労働基準監督署の調査に対応するときの3つのポイントとは?
実際、以下の記事でも解説していますが、労働基準監督署の調査結果として、衛生管理者の選任やその活動内容についてチェックされています。
関連:71.9%が法令違反・過重労働に対する労基署の重点調査事項
まとめ
人事労務管理を行う上で、50人以上の事業場というのは重要なキーワードになります。
特に、労働安全衛生法令では、事業場の労働者数が50人以上になると、法令による義務づけが急に増えてきます。
今回の衛生管理者のように国家資格である免許が必要になると、試験の準備も必要になるため、50人以上になってから急に慌てることのないように、社員数がある程度の数になってきたら、複数の社員に業務として衛生管理者の資格を取得するよう指示しておきましょう。
また、急な退職などで有資格者がいなくなるような不測の事態にも備えることもリスク管理の基本です。
以下の記事では、50人以上の事業場に法的に義務づけられる資格・職務についてまとめていますので、併せてご参考ください。
関連:50人以上の事業場に義務化される人事労務関係の資格・職務
なお、50人以上の事業場といったとき、この50人は正社員だけの数ではなく、パートやアルバイトも含みます。この○人以上となったときの数え方については以下の記事で詳しく解説していますのでご参考ください。
関連:常時使用する労働者とは? 常時雇用労働者、常用雇用労働者の違い
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