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労働基準法の「事業場」とは?企業・部門との違いと間違えやすい実務ポイント

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「事業場」という言葉は、社労士であれば毎日のように使う基礎的な概念です。

しかし、いざ顧問先から「うちは支店も事業場として届出が必要なんですか?」と聞かれると、即答に迷う場面は意外と多いのではないでしょうか。

事業場の判断は「支店」「営業所」といった名称ではなく、実態で決まります。そして、この事業場の単位を取り違えると、顧問先に不要な届出をさせてしまったり、逆に必要な選任義務を見落として法令違反のリスクを負わせてしまうことになりかねません。

そこで本記事では、事業場の定義と「企業」「部門」との違いを整理したうえで、見落としやすい実務上のポイントについて、立法趣旨も交えて解説します。

企業単位と事業場単位の違い

まず、議論の出発点として「企業」と「事業場」を切り分けておきます。

企業は法人格を持つ1つの主体ですが、労働基準法・労働安全衛生法の多くの義務は、企業単位ではなく事業場単位で課されます。ここが、顧問先への説明でつまずきやすい最初のポイントです。

例えば、企業単位では1社であっても、本社・各オフィス・国内外の生産拠点・販売拠点と、数え切れないほどの「事業場」を抱えている場合、労働法令上の義務は、この1つひとつの事業場ごとに判断していくことになります。

事業場とは

事業場とは、一定の場所での組織的な作業のまとまりを指します。判断の原則は次の2点です。

  • 原則として、同じ場所にあれば1つの事業場とみなす
  • 同じ場所であっても、労働の態様や業態が著しく違えば、別の事業場とみなす

後者の例として、工場の生産ラインで働く労働者と、工場内の食堂で調理する労働者では業態が大きく異なるため、別々の事業場と整理する余地があります。

顧問先からの相談に答えるときは、この「場所」と「態様」という2つの軸で判断するという原則を押さえておくと、応用が利きます。

離れた場所にある支店・営業所の扱い

「同じ場所にあれば1つの事業場」が原則なので、離れた場所に2つのオフィスがあれば、原則として2つの事業場です。

ただし、ここに実務上よく問われる例外があります。

例えば、本社と離れた場所に営業所があるものの、常駐者は1名のみで、業務は営業に限られ、管理的な業務を一切行っていない——このような場合は、本社と一括して1事業場として取り扱うことが可能です。

ここで顧問先に必ず伝えたいのは、「支店」「営業所」という名称で判断するのではないということです。あくまで、そこで行われている業務の実態と独立性で判断します。

この点は、厚生労働省が示す以下の通達がもとになっています。実務判断の根拠として、原文を押さえておくと顧問先への説明に説得力が出ます。

労働安全衛生法の施行について: 昭和47年9月18日発基第91号

三 事業場の範囲

この法律は、事業場を単位として、その業種、規模等に応じて、安全衛生管理体制、工事計画の届出等の規定を適用することにしており、この法律による事業場の適用単位の考え方は、労働基準法における考え方と同一である。

すなわち、ここで事業場とは、工場、鉱山、事務所、店舗等のごとく一定の場所において相関連する組織のもとに継続的に行なわれる作業の一体をいう。

したがつて、一の事業場であるか否かは主として場所的観念によつて決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として一の事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場とするものである。

しかし、同一場所にあつても、著しく労働の態様を異にする部門が存する場合に、その部門を主たる部門と切り離して別個の事業場としてとらえることによつてこの法律がより適切に運用できる場合には、その部門は別個の事業場としてとらえるものとする。たとえば、工場内の診療所、自動車販売会社に附属する自動車整備工場、学校に附置された給食場等はこれに該当する。

また、場所的に分散しているものであつても、出張所、支所等で、規模が著しく小さく、組織的関連、事務能力等を勘案して一の事業場という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業場として取り扱うものとすること。

整理すると、企業に複数拠点がある場合は次のような構造になります。

  • 企業 = 事業場(本社) + 事業場(支店) + 事業場(支店)・・・
企業は複数の事業場の集合体である 1つの企業という外枠の中に、本社・支店A・支店Bという3つの事業場が並んでおり、企業が複数の事業場から構成されることを示す構造図。 企業(法人として1つ) 法令上の義務は、この中の各事業場ごとに判断する 事業場(本社) 管理機能あり 事業場(支店A) 離れた場所 事業場(支店B) 離れた場所
顧問先に「支店も事業場ですか?」と聞かれたら、名称ではなく実態を確認してから答えるべきなんですね。
Qちゃん
A先生
その通りです。常駐者の人数、業務の内容、管理機能の有無を確認してから判断します。「営業所だから別事業場」と即答すると、独立性が低いケースで誤った回答になりかねません。

同じ建物内の「部門」は別事業場になるか

事業場と部門の違いも、顧問先からよく質問を受けるテーマです。

会社の規模が大きくなると、同じ建物の中に○○事業部などの部門が置かれ、その部門単体で業務が完結していることがあります。

この場合も、原則は「同じ場所にあれば1つの事業場」です。同じ建物内の部門は、原則として全体で1つの事業場と整理します。

ただし、ここにも例外があります。先ほどの通達の該当部分を再掲します。

労働安全衛生法の施行について: 昭和47年9月18日発基第91号(再掲)

三 事業場の範囲

(略)

したがつて、一の事業場であるか否かは主として場所的観念によつて決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として一の事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場とするものである。

しかし、同一場所にあつても、著しく労働の態様を異にする部門が存する場合に、その部門を主たる部門と切り離して別個の事業場としてとらえることによつてこの法律がより適切に運用できる場合には、その部門は別個の事業場としてとらえるものとする。たとえば、工場内の診療所、自動車販売会社に附属する自動車整備工場、学校に附置された給食場等はこれに該当する。

つまり、次の条件を満たせば、同じ建物内の部門でも別個の事業場とみなす余地があるということです。判断の目安は、業種分類が大きく異なるかどうかです。

  • 著しく労働の態様を異にする部門であること
  • 別個の事業場としてとらえることで労働安全衛生法がより適切に運用できること

工場内の診療所がその典型例です。製造と医療では態様が著しく異なり、安全衛生管理を切り分けたほうが適切に機能するためです。

逆に、同じビルの同じフロアに親会社と子会社が一緒に入っている場合は、まとめて1つの事業場になるんですか?
Qちゃん
A先生
そこは「場所」の前に「組織」で切れます。事業場は同じ事業者のもとでの作業のまとまりなので、別法人なら、同じフロアにいてもそれぞれ別の事業場です。場所が同じでも、事業者が違えば一括りにはしません。

なぜ「事業場単位」で規制するのか

ここで一歩踏み込んで、そもそもなぜ多くの義務が「企業単位」ではなく「事業場単位」で課されるのかを解説します。この立法趣旨を理解しておくと、判断に迷う事案でも軸がブレません。

厚生労働省で勤務し、政策立案に関わった経験から言うと、その根底には、労働者を守る規制は、実際に労働が行われている「その場所」で機能しなければ意味がないという考え方があります。

安全衛生管理を例にとれば明確です。

工場の粉じん対策、オフィスの作業環境管理、店舗の衛生管理は、いずれもその場所の実態に応じて行う必要があります。本社が一括して「わが社は安全です」と宣言しても、現場の危険は何ひとつ減りません。

だから「会社全体で何人いるか」ではなく「その場所に何人いるか」で義務を判断するわけですね。
Qちゃん
A先生
はい。安全衛生は「現場」で完結させる、というのが行政の基本的な発想です。この立法趣旨を押さえておくと、新しい論点が出てきても「労働が実際に行われている場所はどこか」という軸で考えることができます。

事業場単位で課される主な義務

事業場単位が問題になるのは、衛生管理者の選任だけではありません。顧問先への支援で押さえておきたい主な義務を整理すると以下のようになります。

義務 根拠 事業場単位の基準
就業規則の作成・届出 労基法第89条 常時10人以上の労働者を使用する事業場ごと
36協定の締結・届出 労基法第36条 事業場ごとに締結・届出
衛生管理者の選任 安衛法第12条 常時50人以上の事業場ごと
産業医の選任 安衛法第13条 常時50人以上の事業場ごと
衛生委員会の設置 安衛法第18条 常時50人以上の事業場ごと
ストレスチェックの実施 安衛法第66条の10 常時50人以上の事業場ごと

衛生管理者の選任を例に、人数のカウント方法を確認します。

労働安全衛生法第12条(衛生管理者)
事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し・・・(以下、略)

この「常時50人以上」は事業場単位です。したがって、

  • 各事業場で常時50人以上いれば、その事業場ごとに衛生管理者の選任義務がある
  • 企業全体で50人以上でも、各事業場が50人未満なら選任義務はない

という整理になります。顧問先が「全社で60人いるから衛生管理者が必要ですよね?」と相談してきたとき、各事業場が20人ずつ3拠点なら選任義務はない、と即答できると信頼につながります。

特に注意したいのが、就業規則と36協定です。これらは企業単位で1つ作ればよいと誤解されがちですが、原則として事業場ごとに届出が必要です。

本社でまとめて1部届け出れば済むというわけではないんですね。複数拠点の顧問先だと手間がかかりますね。
Qちゃん
A先生
そこで提案したいのが就業規則の「本社一括届出制度」です。一定の要件を満たせば、本社管轄の監督署を経由して各事業場分をまとめて届け出られます。複数拠点の顧問先にはこの制度を案内すると手間とコストを大きく減らせることができるので喜ばれますよ。

まとめ

今回は「事業場」について解説しましたが、顧問先に事業場の考え方を説明するときは、「なぜ事業場単位なのか」という立法趣旨から伝えると、納得感が格段に高まります。名称ではなく実態で判断する理由が腑に落ちるからです。

また、「事業場」という言葉1つでも、定義を正確に理解しておかなければ、顧問先に不要な対応をさせたり、必要な義務を見落として法令違反のリスクを負わせたりすることになります。

事業場・労働者性・常時労働者——こうした基礎概念は、基本であるがゆえに、人事労務の専門家である私たち社労士は何度も確認すべきものです。

なお、「常時」という言葉は、法律によって「常時使用する労働者」「常時雇用労働者」「常用雇用労働者」と微妙に表現が異なります。この違いは以下の記事で整理していますので、あわせてご確認ください。

関連:常時使用する労働者とは? 常時雇用労働者、常用雇用労働者の違い

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