人事評価で注意すべき裁量の範囲と濫用とみなされるポイント

専門バカにはならないように注意していますが、専門性を磨いておかないと単なるバカになってしまうので常に意識して学ぶようにしており、最近は労働判例という雑誌をじっくりと読み込むようにしています。

本屋では入手できないので、一般の方には馴染みがないかもしれませんが、人事労務の専門家の間では必読の雑誌です。

逆に、これを読まずして人事労務なんて怖くてできません。今年は衝撃的な判決が2つも出ましたし。

さて、先日、人事評価に関する以下の記事を書きましたが、最近労働判例に掲載された事件の中で、会社が人事評価を行う上で注意すべき裁量の範囲、そして裁量権の濫用とみなされるポイントについて解説します。

https://worklifefun.net/misunderstanding-of-hr-evaluation-system/

人事評価制度とは

人事評価制度を扱った書籍としてオススメの「人事評価の教科書」では、人事評価について以下のように定義されています。

人事評価とは、企業の事業運営を円滑に推進するための経営権の一つであり、人が人をマネジメントするための手段の一つである」である

経営権の一つということなので、会社は、一見どのような人事評価を行ってもよいように思えますが、注意しておくべき点が裁量権とその濫用の問題です。

人事評価制度の裁量の範囲

まず、人事評価とは、一般的に、以下のように考えられています(マナック事件・広島地福山支判平10.12.9)。

  • 人事評価は、使用者の広範な裁量に委ねられており、裁量の逸脱・濫用がある場合に限り違法

ただし、広範な裁量があるからといって、すべてが自由かというとそうではなく、会社は以下のように公正査定義務があると述べた判決もあります(中部電力事件・名古屋地判平8.3.13)。

  • 一般的、抽象的には公正査定義務を信義則上負っている

人事評価制度の導入・運用と裁量権の範囲の逸脱・濫用の関係

今回ご紹介する事件は、人事評価によって年俸が減額されたというものであり、概要は以下のとおりです。

  • 業績評価制度により原告は3年連続で低評価を受けた
  • 業績評価制度に連動する業績年俸額が連続して減額された
  • 評価制度・評価項目に欠陥、管理職の評価技能が未熟、評価結果が非公表であるため改善が不可能と主張し、業績年俸額の差額・損害賠償を請求

これに対して、以下の判決が示されています(国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センターほか事件・東京地判平28.2.22)。

  • 使用者は自らが雇用する労働者の人事評価一般について裁量権を有するべきものであり、人事評価の制度(評価の基準、方法等)を随時導入し、実施することができる
  • 使用者が人事評価制度の導入、実施に際し、裁量権の範囲を逸脱し、または裁量権を濫用した場合には導入・実施は違法となる
  • 年俸制及び評価制度の目的と関係のない目的や動機に基づいて評価を行ったといった事情があるといえないから、裁量権の範囲の逸脱または濫用があったということはできない

この判決により原告の請求は棄却されているのですが、注意していただきたいのは3つ目、「評価制度の目的と関係のない目的や動機に基づいて評価を行ったといった事情があるといえない」という点です。

逆に言えば、「評価制度の目的と関係のない目的や動機に基づいて評価を行ったといった事情」があれば、それは裁量権の範囲の逸脱または濫用があったと見なされる可能性が高いということです。

先程、会社は、一般的、抽象的には公正査定義務を信義則上負っているとした裁判例を紹介しましたが、これを踏まえると、会社には、評価制度を導入・実施する裁量はあるが、評価制度の目的や基準を明確にし、その目的や基準に沿って評価をしなければ、違法とみなされてしまう可能性が高いということです。

このことから、人事評価制度を導入する際に、あまり考えずに、評価項目や評価基準を本やサイトから持ってきてしまうと、実際の運用の際に困ることになってしまうというのがよくわかると思います。

運用時に利用できない制度というのはそもそも無意味ですが、もし制度をそのままに無理に運用してしまい、社員に不利益が生じてしまうと、裁量権の濫用と見なされてしまうわけです。

人事評価を行うことは良いことですが、あまり考えずに制度の構築・運用をしてしまうと思わぬ大怪我をしてしまうことになります。

自ら制度を構築する場合はきちんと起こりうるリスクを分析するか、または専門家に相談しつつ構築するようにしましょう。

参考:裁量権の濫用とされた事例

最後に、参考までに裁量権の濫用とされた事例をご紹介します。

日本システム開発研究所事件・東京高判平20.4.9
  • 年俸制について、新年度の賃金額の合意が成立しない場合は、年俸額決定のための成果・業績評価基準、年俸額決定手続き、減額の限界の有無、不服申立手続き等が制度化されて就業規則等に明示され、かつ、その内容が公正な場合に限り、使用者に評価権限がある
  • この要件が満たされていない場合、特別な事情が認められない限り、使用者に一方的な評価決定権限はない
東京都人事委(判定取消請求)事件・東京地判平22.5.28
  • 業績評価において適時された点が事実に基づかないか、または評定者が誤認した事実に基づいたものであり、評定が不公正なものであることから、裁量権を濫用した違法なものである

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