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実は、終戦直後の労働基準法施行後のたった6年間ではありますが、会社が積極的に年次有給休暇を取得させなければならない時代があったことを知っていましたか?
このことを知ったのは、改定のご相談を受けた会社の就業規則がかなり古く、いつ作成されたのか年次有給休暇の日数の変遷を調べていたことがきっかけです。
2019年4月から時季指定義務が法改正により始まりましたが、歴史は繰り返すものだとしみじみ感じます。
年次有給休暇の取得率
最新の年次有給休暇の取得率は51.1%とようやく半分を超えた状況であり、先進国の中で最低の取得率と毎年のように騒がれており、法律上の義務として付与されていてもそんな状況なのです。
現在の年次有給休暇制度は、労働者が請求するという形をとっているため、上司や同僚の顔色を伺わないといけない雰囲気の職場では、実際請求し取得するというのは難しいでしょう。
ただ、本来の法的意味からすれば、年次有給休暇の請求というのは「時季の請求」であって「取得の請求」ではありません。
経営者や人事労務担当者、そして労働者自身も知らないことに問題があるとも言えます。
年次有給休暇の取得が義務の時代
取得率を上げるためには事前に年次有給休暇の日を決めておけばよい、これが以下の年次有給休暇の計画的付与制度の考え方なのですが、この制度もあまり活用されていないようです。
ただ、今回調べ物をしていてたまたま見つけた濱口先生の記事「年次有給休暇は取らせなければいけない時代があった」です。以下は記事からの抜粋です。
実は、圧倒的に多くの人々に知られていないことですが、終戦後労働基準法が施行されてから6年間の間、労働基準法施行規則にはこういう規定が置かれていたのです。現在とは付与要件が若干異なって、1年勤続で6日付与、1年ごとに1日ずつ増加という仕組みだった時代です。
第二十五条 使用者は、法第三十九条の規定による年次有給休暇について、継続一年間の期間満了後直ちに、労働者が請求すべき時期を聴かねばならない。但(ただ)し、使用者は、期間満了前においても、年次有給休暇を与えることができる。
年次有給休暇は労働者が請求するものという原則は原則として、しかし労働者が自分から請求してくる前に、使用者の側が積極的に「1年たったぞ。年休が取れるぞ。いつ年休を取るんだ? 早く教えてくれ」と言わなければいけなかったのです。本人がもじもじと言い出しかねている状態をただにやにやと眺めていると、この規定に違反するのです。
現代の感覚でこの規定を見ると驚きです。
「継続一年間の期間満了後直ちに、労働者が請求すべき時期を聴かねばならない」ですから。
4月1日が年次有給休暇の基準日になる場合、4月1日以降すぐに管理職などの使用者は部下に対して、年次有給休暇を取得する予定時期を聞かなければならなかったわけです。
聞いてしまったら、原則としてその時期に休ませないといけないため、年次有給休暇の取得に向けた強制力は強くなります。
間違っても、今のように「パートやアルバイトに年次有給休暇はない」なんて誤解する人は少なくなる気がします。
労基法39条1項で「与えなければならない」と言いながら、5項で労働者の請求を待っていればいいことになってしまったため、年休取得率がこんなに低い状態になっているわけですが、実は労基法施行当時の発想は、それをさらに規則25条が補完していたのです。
「与えなければならない」使用者の義務は、「聴かなければならない」という具体的な義務によって裏打ちされていたのですね。取得しないでそのままになってしまうようなことにならないよう、付与された年休は全て、使用者の側の積極的なアクションによって取得されるようにうまく仕組まれていたわけです。
この趣旨は、労基法施行時の通達(昭和22年9月13日発基17号)でもこう明確に書かれていました。
年次有給休暇は使用者が積極的に与える義務があることを強調し、徹底させること。
通達という行政解釈ではありますが、これをもとに行政指導が行われるわけですから、結局、企業はその指導に従っていくことになります。
「年次有給休暇は使用者が積極的に与える義務があることを強調し、徹底させる」という表現を見ると、今も昔も意識としてあまり変わっていないんだなと思う次第です。
ちなみに、労基法39条1項で「与えなければならない」というのは以下のことです。
- 労働基準法第39条(年次有給休暇)第1項
- 使用者は、その雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、または分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
まとめ
恥ずかしながら、私はこの記事を見つけるまで、年次有給休暇に関する歴史の変遷を知りませんでした。
こうして歴史を知った上で、2019年4月より義務化された年5日の年次有給休暇の時季指定の内容を改めて見てみると歴史は繰り返すものだと感じる次第です。
同一労働同一賃金の話も新しい制度だと勘違いしてはしゃいでいる「自称人事」の人も多いわけですが、歴史を知らずに制度を語るのは恥ずかしい、と自らも反省しつつ今回の内容は勉強になりました。
濱口先生の本や記事を読むと、いつもビスマルクの「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という名言を思い出します。
女性活躍推進は最近のキーワードですが、濱口先生の以下の本は今までの賃金制度の歴史を総括し、その中で女性労働者の位置づけを明快に解説しており、人事担当者であれば必読です。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
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