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先日、以下のご質問をいただきました。
- 代表取締役以外の役員は労災保険の対象となるのか?
労災保険の適用は、雇用保険と違って少々わかりにくい部分があることは確かです。
今回は、役員は労災保険の対象になるのかという疑問について、行政が示す定義、雇用保険との違いを含めて解説し、最後に参考になる裁判例をご紹介します。
労災保険の対象・基本的な考え方
労災保険と労働保険を混同して用いる人がいますが、両者の関係は以下のとおりです。
- 労働保険 = 労災保険 + 雇用保険
そして、労災保険の対象は、すべての労働者です。
この「すべての労働者」には、常用、日雇、パート、アルバイト、派遣等、名称や雇用形態にかかわらず、労働の対償として賃金を受けるすべての人を含みます。
例えば、雇用保険の場合、1週間の所定労働時間が20時間未満である労働者は対象になりません。
一方、労災保険の場合にはそのような制約がないということです。
関連:社会保険・労働保険の基礎知識:種類・加入条件などを詳細解説!
労災保険の役員(取締役)の扱い
労災保険の対象は労働者のみです。
そのため、労働者でない会社の取締役は労災対象外となる、これが原則的な考え方です。
一方、取締役営業部長など兼務役員の場合は、使用者の面と労働者の面を持っています。役員報酬と賃金も区別されているはずですし。
厚生労働省は、法人の役員に関する労災保険の適用について、以下の解釈を示しています(昭和34年1月26日基発第48号)。
代表権・業務執行権を有する役員は、適用されません。
法人の取締役・理事等の地位にある者であっても、法令・定款等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められる者以外の者で、事実上、業務執行権を有する取締役・理事等の指揮監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を得ている者は、原則として「労働者」として取扱います。
監査役及び監事は、法令上、使用人を兼ねることを得ないものとされていますが、事実上、一般の労働者と同様に賃金を得て労働に従事している場合は、「労働者」として取扱います。
逆に、法令又は定款の規定により、業務執行権を有しないと認められる取締役等であっても、取締役会規則その他内部規定によって業務執行権を有すると認められる者は、「労働者」として取扱いません。
注)
労災・雇用いずれの場合も、保険料の対象となる賃金は、取締役、理事、無限責任社員、監査役、監事等に支払われる給与のうち、法人の機関としての職務に対する報酬を除き、一般の労働者と同一の条件のもとに支払われる賃金のみを加えること。いわゆる執行役員のうち、代表権・業務執行権を有する者は労働者として取扱いません。
参考:厚生労働省・大阪労働局
つまり、ポイントは業務執行権を有するか否かという点です。
- 業務執行権を有する人の指示監督を受けていれば労働者として取り扱われる → 労災保険の対象になる
ただ、後述する裁判例のように、実務的には難しい問題があります。
雇用保険の役員(取締役)の扱いとの違い
ここで実務的に問題となるのが雇用保険との違いです。
雇用保険の場合は、個々の労働者について「雇用保険被保険者資格取得届」の提出が必要です。
そして、雇用保険の場合、原則として、取締役は被保険者になりませんが、公共職業安定所(ハローワーク)による雇用の実態の確認により被保険者(つまり雇用保険の対象者)として認められる可能性があります。
つまり、雇用保険の対象となるかどうかは事前に会社としてわかるわけです。
その一方、労災保険については、労働者性の認定を含め、労災請求をしてはじめて認定されるかどうかわかります。
専務取締役を労働者とみなした裁判例
先程の厚生労働省の労働者の取扱いを整理すると、少なくとも、代表、監査役、監事は対象にならないことがわかります。
あとは、定款や実態次第というところですが、少なくとも名称は関係ないとわかるのが、以下の裁判例(大阪地裁平成15年10月29日判決)です。
- 株式会社の専務取締役が出張中に死亡
- 行政は労働者に該当しないとして労災給付不支給
- 処分を不服として審査官に対して審査請求 → 棄却
- 処分を不服として労働保険審査官に対して再審査請求 → 3か月経過しても裁決なし
- 裁判所に訴えの提起
流れを簡単に解説しておくと、労災保険給付に関する決定や費用徴収の額の決定などに不服がある場合、不服の申し立てをすることができるようになっています(資料出所:福岡労働局ウェブサイト)。
この中で争点となったのは、
- この専務取締役が労働者に該当するのか
ということになるわけですが、結果は、労働者に該当するという判決が示されました。
専務取締役という役職は、代表に近く、労災の対象にならないと個人的に思っていましたが、ポイントは名称ではなく実態で判断されるということなのでしょう。
もちろん、判断に際して、報酬、手当、労働時間を含む多岐に亘る業務内容が総合的に判断されています。
まとめ
役員が労災保険の対象となるかどうかは、行政による例示を解釈し、最終的には行政の審査や裁判での判決によるということになります。
裁判では、専務取締役の労働者性が認められたわけです。
しかし、実務上注意しておきたいのは、この例でも、行政の審査では3回(うち1回は裁決なし)とも労働者としては認められなかったという点です。
それほど悩ましい事案であるとも言えるわけです。
兼務役員にすることで、会社にメリットがあることは承知していますが、性質を理解した上で明確にしておかなければ、後々のリスクにつながることを重々承知しておきましょう。
なお、今回のように「労働者性」という点は、簡単なようで実は結構難しい問題です。
以下の記事で労働者性について解説していますのでご参考ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
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