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人事労務の実務を行う上で労働法令を正確に理解しておくことは重要であり、今回は実務にも影響のある「常時○人以上の労働者」、「常時雇用労働者」、「常用雇用労働者」の違いについて解説します。
常時使用する労働者、常時雇用労働者、常用雇用労働者の違い
「常時○人以上の労働者」「常時雇用労働者」「常用雇用労働者」、どれも似ているようで、微妙に用語が異なっています。
法律は内容ももちろん重要ですが、「誰に?」という法律が適用される対象者を正確に理解しておくことはさらに重要です。
まず、結論から先に書くと、
- 常時使用する労働者、常時雇用労働者、常用雇用労働者の用語の違いは、各法律の定義・解釈による
ということです。身も蓋もないように聞こえるかもしれませんが、各法律によって目的が異なり、定義される文言が異なる場合があるのは仕方ありません。
「常時使用する労働者」と聞くと正社員をイメージするかもしれませんが、それは違います。「パートタイム労働者のような短時間労働者」を含む場合もあります。
そのため、常時使用する労働者、常時雇用労働者、常用雇用労働者といった用語を理解するためには、
- それぞれの法律でどのように定義されているのか
- 定義が明確にない場合、どのように解釈されているのか
を1つ1つ確認する必要があります。
労働基準法における常時使用する労働者
労働基準法では「常時10人以上の労働者」を使用する使用者に対して就業規則の作成義務を課しています。
東京労働局では、就業規則の作成義務に関する解説として以下の図を示しています。
上の図の一番下を見るとよくわかりますが、正規社員が少なくてもパートタイム労働者やアルバイトを含めて常態的に10人以上となっていれば、就業規則の作成義務がある、つまり「常時10人以上の労働者」に相当するということです。
週○時間以上の短時間労働者(パート、アルバイト)といった労働時間の違いは考慮されていないことに要注意です。
週40時間労働の正社員に対して、パートが週20時間勤務であっても、常態的に働いているのであれば、「常時使用する労働者」に含まれるということです。
この点は、後述する常時雇用労働者や常時雇用労働者との大きな違いです。
まとめると「常時使用する労働者」とは以下のように解釈できます。
- 常時使用する労働者とは、常態として働く人数であり、この場合の労働者には、いわゆる正規社員のほか、パートタイム労働者やアルバイト等会社に雇用されるすべての人が含まれる。
では、常態として働いているのは8人で、繁忙期等においてさらに2、3人雇い入れ、時期によって10人を超える場合はどうなるでしょうか?
これは上の理解から考えると、瞬間的に10人以上となるだけですから、常時10人以上とはなりません。
関連:本当は怖い就業規則! よくある間違い・落とし穴を徹底解説!
労働安全衛生法における常時使用する労働者
次に、労働安全衛生法の「常時使用する労働者」の定義・解釈を解説します。
労働安全衛生法は、元々、労働基準法から分かれて制定されたものです。そのため労働基準法に共通する部分が多くあります。
労働安全衛生法における「常時使用する労働者」については、行政通達である昭和47年9月18日基発第602号により以下の解釈が示されています。
「常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する」とは、日雇労働者、パートタイマー等の臨時的労働者の数を含めて、常態として使用する労働者の数が本条各号に掲げる数以上であることをいうものであること。
これだけを読んだ方は、何を言っているのかわからないかもしれませんが、労働安全衛生法では、常時使用する労働者の人数によって、労働安全衛生に関する資格者の選任を義務付けています。
例えば、詳しくは以下の記事で解説していますが、常時50人以上のすべての事業場には、衛生管理者や産業医の選任義務があります。
関連:50人以上の事業場に義務化される人事労務関係の資格・職務
逆に言えば、衛生管理者や産業医の選任義務が課される常時50人とは、正社員だけで50人ということではなく、日雇労働者、パートタイマー等の臨時的労働者の数を含めて、常態として使用する労働者の数が50人以上、ということになります。
この考え方は、やはり労働基準法と同じです。
定期健康診断の対象となる「常時使用する労働者」に要注意
労働安全衛生法の「常時使用する労働者」の定義・解釈は以上のとおりですが、たまに法律の解釈方法を勘違いしている専門家がいるので、念のため補足しておきます。
労働安全衛生法第44条では「常時使用する労働者」に対し、定期健康診断を義務付けています。
- 労働安全衛生法第44条(定期健康診断)
- 事業者は、常時使用する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
この「常時使用する労働者」について、東京労働局ウェブサイトでは以下のように解説されています。
パート労働者等の短時間労働者が「常時使用する労働者」に該当するか否かについては、平成19年10月1日基発第1001016号通達で示されています。
その中で、一般健康診断を実施すべき「常時使用する短時間労働者」とは、次の(1)と(2)のいずれの要件をも満たす場合としています。
- 期間の定めのない契約により使用される者であること
- 期間の定めのある契約により使用される者の場合は、1年以上使用されることが予定されている者、及び更新により1年以上使用されている者
- その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること
上記(1)と(2)のどちらも満たす場合、常時使用する労働者となりますが、上記の(2)に該当しない場合であっても、上記の(1)に該当し、1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の概ね2分の1以上である者に対しても一般健康診断を実施するのが望ましいとされています。
なお、労働者派遣事業法に基づく派遣労働者についての一般健康診断は、労働者の派遣元の事業場で実施し、有害業務従事労働者についての健康診断は派遣先の事業場で実施することとなります。
この解釈を見て、以下のように考えるのは間違いです。
- 「通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3未満」の労働者は「常時使用する労働者」には該当しない、と書いてある。
- つまり「4分の3未満」の労働者は、労働安全衛生法全体の適用においても「常時使用する労働者」には該当しない。
ここで示している解釈は、定期健康診断の対象となる「常時使用する労働者」に限定するものであり、労働安全衛生法全体に適用されるものではありません。
法律の構造を理解した上で解釈する方法に慣れていればこのようなミスをすることはありませんが、解釈の一部だけを見て全体を理解したつもりにならないように注意しましょう。
なお、2015年12月から実施が義務づけられたストレスチェックの実施も、義務の対象となっているのは「常時使用する労働者50人以上」の事業場です。
障害者雇用促進法における常時雇用労働者
障害者雇用促進法では「常時雇用労働者」と「常用雇用労働者」という2種類の用語が出てきます。
用語の違いがわかりにくいかもしれないのですが、「常時」と「常用」という部分に違いがあります。ただ、常時雇用労働者と常用雇用労働者に厳密な違いはなさそうです。
「厚生労働省による平成22年7月の政策レポート」で、短時間労働者の扱いに関する制度改正を解説しています。
この中で「常時雇用労働者」と「常用雇用労働者」が同じ意味で使用されています。法律では、「雇用する労働者・・・の数が常時・・・」となっているので、常時雇用労働者という略が適切かと思いますが、まあ同じことです。
本題の「常時雇用労働者」の定義に戻りますが、厚生労働省の関連法人である独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の資料によると、以下のとおりです。
- 雇用期間の定めがなく雇用されている労働者
- 雇用(契約)期間を定めて雇用されている労働者であって、その雇用(契約)期間が反復更新され、雇入れのときから1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる労働者
- 過去1年を超える期間について引き続き雇用されている労働者であって、1週間の所定労働時間が20時間以上の労働者
労働者派遣法における常時雇用労働者
労働者派遣法では、先程の障害者雇用促進法と異なり、常時雇用労働者と常用労働者について意識的に違いを示しています。
厚生労働省作成の労働者派遣事業関係業務取扱要領では、以下のように常時雇用される労働者を定義しています。そして、常用労働者については、いわゆる「正社員」と括弧書きを入れています。
「常時雇用される労働者」とは、労働契約の形式の如何を問わず、事実上期間の定めなく雇用されている労働者のことをいう。 具体的には、次のいずれかに該当する場合に限り「常時雇用される労働者」に該当する。
- 期間の定めなく雇用されている者
- 一定の期間(例えば、2か月、6か等)を定めて雇用されている者であって、その雇用期間が反復継続されて事実上1と同等と認められる者。すなわち、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者
- 日日雇用される者であって、雇用契約が日日更新されて事実上1と同等と認められる者。すなわち、2の場合と同じく、過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者又は採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者
- なお、雇用保険の被保険者とは判断されないパートタイム労働者であっても、1から3までのいずれかに該当すれば「常時雇用される」と判断するものであるので留意すること。
まとめ
今回は専門的かつ細かな部分の解説になりましたが、冒頭にも書いたとおり、実務上、労働法を正確に理解することは重要です。
実際、私自身も今回の記事を書く上で、整理してみて改めて気づいた点もあります。法律により対象となる範囲が微妙に異なっていたり、言葉は違うのに実質的に同じだったり・・・。
最後にポイントをまとめておきます。
- 常時使用する労働者、常時雇用労働者、常用雇用労働者、常用労働者、様々な用語が出てくるが、法律の定義や解釈によって対象者は異なる。
- 必ず、それぞれの法律の定義・解釈、そして一次情報を調べるべし。わからなければ信頼できる専門家に相談すべし。
法規制の内容には関心が向きますが、その対象者が誰なのかという点までしっかり理解しておく必要があります。
なお、今回の「常時使用する労働者」の微妙な違いと同じようにややこしいのが、企業(法人)と事業場の違いです。法令による規制の対象となっているのが、企業なのか、それとも事業場なのか、人事労務を行う上で正確に理解しておかなければならない点です。
関連:労働基準法における事業場とは?「事業場」と「企業」はどう違う?
また、「労働者」の定義というのは簡単なようで実は結構難しいものです。「労働者性」の判断基準については、以下の記事で詳細を紹介していますので、併せてご参考ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
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