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労働基準法改正により、企業は2019年4月から年5日以上の年次有給休暇の付与を義務づけられますが、それに伴い、年次有給休暇の計画的付与制度に注目が集まっています。
年次有給休暇の計画的付与制度
年次有給休暇の計画的付与制度とは、年次有給休暇のうち5日を超える分について、労使協定を結ぶことで計画的に休暇取得日を割り振ることができる制度です。
「5日を超える分について」という部分をわかりやすく書くと、年次有給休暇の付与日数が
- 10日の従業員に対しては5日まで
- 20日の従業員に対しては15日まで
を計画的付与の対象とすることができるということです。
これは、年次有給休暇の日数のうち5日は従業員が自由に取得できる日数として必ず残しておかなければならないという法律の制度設計のためです。
なお、前年度取得されずに次年度に繰り越された日数がある場合には、繰り越された年次有給休暇を含めて5日を超える部分を計画的付与の対象とすることができます。
年次有給休暇の計画的付与制度の3つの活用方法
年次有給休暇の計画的付与制度は、以下のように様々な方法で活用することができ、企業は実態に応じて選択できます。
- 企業または事業場全体の休業による一斉付与方式
- 班・グループ別の交替制付与方式
- 年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式
(1) 企業または事業場全体の休業による一斉付与方式
- 企業全体を一斉に休みにできる、または一斉に休みにした方が効率的
という業態については、全従業員に対して同一の日に年次有給休暇を与えるという一斉付与方式の導入がオススメです。
製造業などラインをストップさせて全従業員を休ませることのできる事業場などでは、この方法が有用でしょう。
また、企業全体を休みにしても顧客に迷惑にかからない時期を選んで、この一斉付与方式を導入するケースもあります。
(2) 班・グループ別の交替制付与方式
企業全体で一斉に休みを取ることが難しい業態については、班・グループ別に交替で年次有給休暇を付与する方法の導入を検討します。
流通・サービス業など定休日を増やすことが難しい企業では、この活用方法が多くなっています。
(3) 年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式
年次有給休暇の計画的付与制度は、個人別に導入することもできます。
夏季、年末年始、ゴールデンウィークのほか、誕生日や結婚記念日など従業員の個人的な記念日を優先的に充てるケースも多いようです。
年次有給休暇の計画的付与制度の4つの導入例
年次有給休暇の計画的付与制度を検討する際の4つの導入例を参考までに紹介しておきます。
- 夏季、年末年始を利用して大型連休にする
- ブリッジホリデーとして3連休、4連休など連休にする
- アニバーサリー(メモリアル)休暇制度を設ける
- 閑散期を利用する
(1) 夏季、年末年始を利用し大型連休にする
盆(8月)や年末年始(12/30-1/3)を休日や休暇に設定する会社は多いでしょう。
これらの休日や休暇に、年次有給休暇の計画的付与制度を組み合わせることで、大型連休とすることができます。
例えば、以下のように8/14-8/16が夏季休日の場合、8/12、8/13、8/19の3日間を計画年休とすることで、8/10-8/19の10日間の大型連休にすることが可能です。
また、12/30、12/31、1/3が年末年始の休日の場合、12/24、12/27-12/29の4日間を計画年休とすることで、12/23-1/3の12日間の大型連休にすることも可能です。
(2) ブリッジホリデーとして3連休、4連休など連休にする
ブリッジホリデーとは、暦の関係で休日が飛び石となっている場合に休日の橋渡し(ブリッジ)をする休暇のことです。
例えば、土曜日と日曜日を休日とする事業場で、以下の図のように、祝日(23日)が木曜日にある場合、金曜日(24日)を計画年休とすることで4連休にすることができます。
また、ゴールデンウィークについても、祝日と土曜日、日曜日の合間に計画年休を設定することで、10日前後の連続休暇も実現できます。
これら(1)、(2)の方法は、企業または事業場全体の休業による一斉付与方式、班・グループ別の交替制付与方式で多く活用されています。
(3) アニバーサリー(メモリアル)休暇制度を設ける
従業員やその家族の誕生日、結婚記念日等のアニバーサリー(メモリアル)休暇として、年次有給休暇の計画的付与制度を活用する方法もオススメです。
この方法は、年次有給休暇付与計画表による個人別付与方式に該当します。
(4) 閑散期を利用する
年間で閑散期のある業種や企業に利用されている方法です。
土曜日が休日でない企業で、閑散期の土曜日に計画年休を設定する方法がありえます。
年次有給休暇の計画的付与制度の導入に必要な手続き
年次有給休暇の計画的付与制度の導入には以下の2つの手続きが必要です。
- 就業規則への規定
- 労使協定の締結
(1) 就業規則への規定
年次有給休暇の計画的付与制度を導入する場合には、まず、就業規則に以下のような規定をしなければなりません(あくまで例文です)。
- 5日を超えて付与した年次有給休暇については、従業員の過半数を代表する者との間に協定を締結したときは、その労使協定に定める時季に計画的に取得させることとする。
(2) 労使協定の締結
実際に計画的付与を行う場合には、従業員の過半数で組織する労働組合または労働者の過半数を代表する者との間で、以下について定めた書面による協定を締結する必要があります。
- 計画的付与の対象者(または対象から除く者)
- 対象となる年次有給休暇の日数
- 計画的付与の具体的な方法
- 対象となる年次有給休暇を持たない者の扱い
- 計画的付与日の変更
なお、この労使協定は所轄の労働基準監督署に届け出る必要はありません。
ただし、36協定と同様に、最近は過半数代表者の選出方法や協定項目の問題が後々発覚して、協定自体が無効扱いになるといったトラブルが最近起こっています。
以下で解説しているとおり、労使協定は正しく締結しましょう。
年次有給休暇の計画的付与制度の利用率
それでは、実際にどのくらいの企業が、年次有給休暇の計画的付与制度が利用しているのでしょうか?
詳細は以下でデータを示していますが、令和4年の調査では4割の企業が制度を利用しています(平成31年調査では利用率は2割程度)。
つまり、2019年4月から企業に義務づけられた「年5日以上の年次有給休暇の時季指定義務」との関係で利用率が倍増しているということです。
関連:年次有給休暇の計画的付与制度の利用率:厚生労働省令和5年調査
計画年休日を変更できるか?
労使協定を締結した後に、業務の都合(会社側の都合)または従業員側から別の日に変更したいと要望があった場合はどうなるのでしょうか?
結論を先に書くと、原則不可能です。
これは以下の記事で解説しているとおり、行政解釈により「計画的付与の場合には労働者の時季指定権及び使用者の時季変更権はともに行使できない」とされているためです。
ただし、労使協定の中で変更の場合がありえる点を記載しておく、または労使協定を再締結すれば可能です。
関連:年休の計画的付与に関する労使協定の締結後、業務の都合で計画年休日を変更できるか?
一部の従業員が指定日の休暇を拒否する場合は?
計画年休の導入によって「自由に取得できる年休の日数が減るのはイヤ」と、指定した計画年休日の休暇を一部の従業員が拒否することがあります。
ただ、前述のとおり、計画年休に関する労使協定を締結してしまうと、労働者の時季指定権は行使できなくなります。
つまり、一部の従業員による計画年休の拒否はできない、ということです。
もちろん、労使協定は適正な過半数代表者の選出があって成立するものなので、労使協定は正しく締結しましょう。
育児休業と計画年休はどちらが優先されるのか?
一般的に、計画年休は年間カレンダーの作成の際に決めることが多くなっています。
例えば、年度始めの4/1に計画年休の日を労使で決定し、その後、妊娠・出産が判明し、従業員から育児休業の申出がなされることがありえますが、その場合、育児休業と計画年休はどちらが優先されるのでしょうか?
結論を言えば、
- 「育児休業の申出」と「計画年休の成立」のどちらが先だったか
ということになりますが、注意すべき点がいくつかあります。詳しくは以下の記事で解説しています。
まとめ
年次有給休暇の計画的付与制度の導入に必要な手続き自体はそれほど難しくありません。
しかし、従業員のヒアリング、周知、労使協定の締結といった手続き面について、適切に行っておかなければ後々トラブルになります。
特に、最近は労使協定に関するトラブルが増えており、当事務所では適切な労使協定を締結するための従業員のヒアリングや周知の部分から支援を依頼されることが多くなっています。
年次有給休暇の計画的付与制度の導入に不安があれば、当事務所にご相談ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
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