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働き方の見直しの第一歩として、1時間単位で年次有給休暇が取得できる時間単位の年次有給休暇制度(時間単位年休)の導入はオススメです。時間単位年休の基礎知識について解説します。
時間単位年休とは?
時間単位年休制度とは、1年に5日を限度として時間単位で有給休暇の取得を認める制度です。
もともと、年次有給休暇は、まとまった日数の休暇を取得させることで労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を図るとともに、ゆとりある生活の実現にも資するという趣旨から、本来1日単位での取得が原則です。
しかし、仕事と生活の調和を図る観点から、年次有給休暇の有効活用を目的として、平成22年施行の改正労働基準法により時間単位年休制度が制定されました。
時間単位年休制度を導入することにより、
- 役所での手続きのため1時間だけ中抜けしたい
- 子供を病院に連れて行くため2時間だけ早く帰りたい
といった希望に対して年次有給休暇の原則である1日の取得ではなく、時間単位で取得させることができます。
時間単位年休の導入率は低調
年次有給休暇の取得率が低い理由として「周りに迷惑をかけることに罪悪感を感じる人が多い」という調査結果もあり、時間単位年休を活用して1時間だけの休暇取得であれば罪悪感を感じる人はそれほど多くないはずです。
ただ、平成29年「就労条件総合調査」によると、制度がある企業は18.7%、と時間単位年休の導入率は意外と低調な状況であり、企業規模別に見てもそれほど大きな差がない状況です。
企業規模 | 時間単位年休制度がある企業の割合 |
---|---|
平成29年調査計 | 18.7% |
1,000人以上 | 20.1% |
300-999人 | 19.4% |
100-299人 | 19.2% |
30-99人 | 18.4% |
(参考)平成28年調査計 | 16.8% |
時間単位年休のメリット
一般社団法人日本能率協会が2017年12月に発表した「全国のビジネスパーソン1000人を対象とした調査」によると「働き方改革」と聞いてイメージすることは何ですかという質問に対して「有給休暇が取りやすくなる」が最も多く、年次有給休暇の取得は働く人のニーズとして根強いものがあります。
働き方改革として、残業時間の減少、生産性向上、育児・介護と仕事の両立、テレワーク・在宅勤務制度の導入など、取り組むべき課題は様々ですが、「有給休暇が取りやすくなる」ことが最上位であれば、まずはそこから取り組むのが優先です。
そして企業にとっても年次有給休暇の取得促進は、率直に言えば、働き方改革の一環として行う施策の中でも、最も容易であり、それほど負担なく即効性のあるものです。
労働者のニーズが高く、企業にとっても負担がなければ、双方にメリットのある取り組みと言えます。
時間単位年休制度を導入する際の検討ポイント
時間単位年休制度を導入・実施するためには、従業員の過半数を代表する者と労使協定を締結する必要があり、以下の点について定めなければなりません。
- 対象とする従業員の範囲
- 時間単位年休の日数
- 時間単位年休1日の時間数
- 1時間以外の時間を単位とする場合の時間数
ただし、この労使協定により、個々の従業員に対して時間単位による年次有給休暇の取得を義務付けるものではない点には注意が必要です。
時間単位により取得するか、1日単位により取得するかは、個々の従業員の意思によります。
また、労使協定の締結によって時間単位年休を実施する場合には、就業規則にも記載する必要がある(平成21年5月29日付け基発第0529001号)のでご注意ください。
なお、労使協定の労働基準監督署への届出義務はありません。
(1) 対象とする従業員の範囲
年次有給休暇は、法定の要件を充たした場合、法律上当然に労働者に生ずる権利です。
ただし、例えば一斉に作業を行うことが必要とされる業務に従事する従業員など時間単位年休になじまない場合は、労使協定で時間単位年休の対象とする従業員の範囲を定めることで、対象者を限定することが可能です。
しかし、従業員がどのように年次有給休暇を利用するかは、本来従業員の自由であることから、取得目的によって対象とする従業員の範囲を定めることはできません。
- (例)対象とする従業員の範囲の定め方
- ◯ 工場のラインで働く従業員を対象外とする(事業の正常な運営が妨げられる場合は可)
-
- × 育児を行う労働者に限る(取得目的による制限なので不可)
(2) 時間単位年休の日数
前述の通り、まとまった日数の休暇を取得するという年次有給休暇制度本来の趣旨から、時間単位年休は年間5日が上限とされています。
そのため労使協定では時間単位年休として利用できる日数を5日の範囲内で定める必要があります。
なお、5日に満たない日数の年次有給休暇が比例付与される短時間勤務の従業員については、労使協定では比例付与される日数の範囲内で定めることになります。
また、その年に取得されなかった年次有給休暇の残日数・時間数は、翌年に繰り越されることになりますが、翌年の時間単位年休の日数は、前の年からの繰越分も含めて5日の範囲内となる点に注意が必要です。
さらに、以下の図のように、5日の時間単位年休を使い切り、最後に1日未満の端数が残った場合は、翌年に繰り越すのか、それとも端数を日単位に切り上げ1日として付与するのかを決めておく必要があります。
なお、以下の図は、所定労働時間が8時間で、1年目は10日、2年目は11日の年休が付与され、時間単位で年5日まで取得できるとしている場合の繰越の考え方の例です。
(3) 時間単位年休1日の時間数
1日分の年次有給休暇が何時間分の時間単位年休に相当するかを労使協定で定める必要があります。
通常は所定労働時間数により定めることになりますが、所定労働時間数で1時間に満たない時間数がある従業員がいる場合は不利益とならないようにするため、時間単位に切り上げて定めることになります。
例えば、1日の所定労働時間が7時間30分で5日分の時間単位年休とする場合は、7時間30分を切り上げて1日分の年次有給休暇を8時間とし、1年間における時間単位年休は8時間×5日=40時間となります。
7時間30分×5日=37時間30分を切り上げて38時間ではないことに注意してください。
また、日によって所定労働時間数が異なる場合には、
- 1年間における1日平均所定労働時間数を用いること
- 1年間における総所定労働時間数が決まっていない場合には所定労働時間数が決まっている期間における1日平均所定労働時間数とすること
が求められます。
さらに、労働者の所定労働時間数ごとにグループ化して定めることも認められています。
例えば、所定労働時間6時間以下の者は6時間、同6時間超7時間以下の者は7時間、同7時間超8時間以下の者は8時間といった労使協定の定め方も可能です。
(4) 1時間以外の時間を単位とする場合の時間数
1時間以外の時間を単位として時間単位年休を与える場合には、2時間や3時間など労使協定でその時間数を定める必要がありますが、30分など1時間未満の時間を単位とすることは認められていません。
まとめ
時間単位年休制度の基本と導入時のポイントは以上です。
時間単位年休を実施するためには、
- 従業員の過半数を代表する者と労使協定の締結
- 就業規則への記載
が必要です。特に就業規則への追加の際には、既存の年次有給休暇の規定との整合性に注意してください。
もし、就業規則の作成や見直しなどに不安があれば当事務所までご相談ください。
なお、時間単位年休制度の運用については、時間単位年休制度の運用時における注意点で解説しています。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
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