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残業時間の削減に関するご相談が増えていますが、そもそも労働時間の定義が曖昧だと、残業時間の正確な把握ができません。法的に確立されている労働時間の定義を解説します。
労働時間の定義
まず、法定労働時間については、1日8時間・1週間で40時間と労働基準法により定められています。
しかし実は、労働基準法などの労働法には、労働時間の定義が明文化されていません。
労働時間とは、どこからどこまでの時間なのか、それは最高裁の判例(三菱重工長崎造船所事件、最高裁・平12.3.判決)により、以下の考え方が確立されています。
労働時間とは、労働者が実際に労働に従事している時間だけでなく、労働者の行為が何らかの形で使用者の指揮命令下に置かれているものと評価される時間。
そして、判決では、労働時間に該当するか否かの判断は、以下のように決定されると示されています。
- 労働時間に該当するか否かの判断
- 労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かによって定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない。
つまり、会社が就業規則などで、9:00-18:00(休憩1時間)と始業時刻・終業時刻・所定労働時間を定めていても、労働時間は実態によって判断されるということです。
例えば、始業時刻前の8:30から社内掃除を義務にしていれば、実際の労働時間は8:30-18:00の8時間30分となり、毎日30分の残業があることになります。
ポイントは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かによって定まる という部分です。
法定労働時間と所定労働時間の違い
次によく混同されがちな法定労働時間と所定労働時間の違いを解説します。
- 法定労働時間:法律で定められた労働時間、原則として1週40時間・1日8時間
- 所定労働時間:会社で定める労働時間
法定労働時間である1日8時間以内であれば、会社は所定労働時間を何時間に定めても構いません。
このときに注意しておきたい点、そして多くの会社が誤解している部分を以下の図で示しています。
会社が所定労働時間を7時間と定めた場合、法定労働時間の8時間との差である1時間については、その会社にとっては残業となります。
しかし、その1時間分については、法律上、法定の25%以上の割増賃金を払う義務はありません。
もちろん払うのは自由ですし、就業規則に「所定労働時間を超えた労働について割増賃金を支払う」と規定していれば、支払う義務が生じます。
労働時間に該当する・該当しない具体的ケース
次に、よく労働時間に該当する・該当しないのトラブルになる具体的ケースを紹介していきます。
(1) 着替えなどの準備時間
業務内容によっては、業務前後に作業服・保護具の着脱等が必要な場合があり、この場合の着替えなどの準備時間は労働時間とみなされます。
労働災害防止の観点から会社の義務として保護具等の着脱を課しているためです。
ただし、着替えの時間が一律に労働時間に認められるかというとそれは違います。
一般的に職場までの歩行や着替えは労働力提供のための準備行為であり、労働力の提供そのものではないためです。
これらの点について実際の裁判例を用いて以下の記事で解説していますのでご参考ください。
関連:業務前後の着替えなどの準備時間は労働時間に該当するのか?
(2) 待機などの手待時間
手待時間とは、以下のように労働者が使用者の指揮監督の下で時間的・場所的に拘束されている状態です。
この手待時間を休憩時間と扱ってしまい、トラブルになることがよくあります。
- 貨物の積み込み作業を行う労働者が、貨物自動車の到着を待機して待っている時間
- 2名の運転手が交替で運転する場合に、助手席で休息・仮眠している時間
また上の例では業種が限られますが、すべての業種に関係する例として、昼食休憩時間中の電話当番もよく問題になります。
しかし、これは実際に来客がなくても労働時間であると行政解釈で明確に示されており、名称が休憩時間であっても、実際は手待時間とみなされているためこのように判断されます。
これらの点について実際の裁判例を含めて、以下の記事で解説していますのでご参考ください。
関連:待機などの手待時間は労働時間? 休憩時間との違いも解説!
(3) 研修時間
研修時間が労働時間になるかどうかは、強制なのか任意なのかによって異なります。
労働安全衛生法に基づく安全衛生教育など法定の研修については、会社による義務として実施する研修であるため、その時間は労働時間になります。
その一方、会社が主催する研修であっても、本人の自由な意思に基づく参加のものであれば労働時間には該当しません。
当然、終業時刻以降に行われた研修でも労働時間に該当しないため、時間外労働にはならず、残業代の対象にもなりません。
ただし、自由参加は名目、実態は義務という場合はダメです。これらの点について実際の裁判例を含めて、以下の記事で解説していますのでご参考ください。
関連:研修時間は労働時間に該当する? 行政解釈・裁判例から解説
(4) 出張先までの移動時間
出張先までの移動時間については、従業員から、会社の命令による出張であり、労働時間に該当するのではないかと指摘されることがあります。
しかし「特別の指示がある場合以外は労働時間と取り扱わなくても構わない」という行政解釈が示されており、実務的にも労働時間として取り扱わない会社が多い状況のようです。
以下の記事では裁判例も含めて解説していますのでご参考ください。
まとめ
冒頭にも書きましたが、最近は残業時間の削減方法に関するご相談が増えています。
働き方改革関連法による残業時間の上限規制が来年から施行されることもありますが、残業時間の議論の前に、そもそも、どこからどこまでが労働時間なのか、何が労働時間に該当するのかという労働時間の定義の理解が必要です。
今回の労働時間の定義を解説したとき、ある社長は「良かれと思って多額の研修費用を出しているのに残業代の対象になるなんて・・・」と絶句していましたが、もちろん方法はあります。
労働時間の定義を解説すると「法律は実態を踏まえていない。法律通りに運用なんてできない。」と言われることがよくあります。まあ、あえて言わせている部分もありますが。
そこからが、法律に縛られるのか、それとも法律を駆使して実態通りに運用していくのかという専門家の力量によるのかなと最近は思っています。
なお、これらの裁判例や行政解釈を踏まえて、平成29年1月20日に発出されたのが「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」です。
以下の記事で詳しく解説していますのでご参考ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
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