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なぜ10/1に多くの会社で内定式が行われるのか、内定に法律の定義がないことをご存知ですか?
また、内定に関して以下のような質問をされたとき正しく回答できますか?
- 内定とは? 内定の法律による定義はあるのか?
- 内定と内々定の違いは?
- 内定通知書は必要なのか?
- 内定取消が有効になる場合と無効になる場合の違いは?
今回は、人事労務担当者として知っておきたい採用内定に関する法律・裁判例、実務的に生じる問題点を解説します。
内定とは
まず、内定を定義・明文化している法律はありません。
しかし、裁判例の蓄積により、内定とは始期付の解約権を留保した労働契約と法的に見なされています。
これは日本で長年続いてきた長期雇用システムに大きく関係しています。
企業は入社前に内定を出すことで、優秀な人を他の企業に取られないように一種の拘束をかけているわけです。
この企業側による一種の拘束があるからこそ、内定は以下のような法的性質を有することになります。
- 内定の法的性質
-
- 企業の募集に対する労働者の応募:労働契約の申込み
- これに対する企業からの採用内定通知:労働契約の承諾
内定と法律の関係:内定は労働契約の一種
内定を単なる慣行的なものと考えている経営者や人事労務担当者は甘いと言わざるを得ません。
前述のとおり、企業からの採用内定通知は労働契約の承諾を意味します。原則として本採用と変わらないわけなので、内定取消は解雇と同等になります。
この認識がなく、本採用前なのでいつでも取り消すことができると安易に考えていると思わぬトラブルになります。
もう少し専門的に解説すると、裁判所は、採用内定の法的性質は事案により異なるとしつつも、採用内定通知のほかに、労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていない事案の場合、
内定を出すことで始期付の解約権を留保した労働契約が成立するという考え方に立っています(大日本印刷事件、最二小判昭和54年7月20日)。
- 解説:始期付の解約権を留保した労働契約
- 入社するまでの間に、採用内定通知書や誓約書に定めた採用内定取消事由が生じた場合や学校を卒業できなかった場合には、労働契約を解約することができる旨の合意を含んだ労働契約
内定通知書
前述のとおり、内定という行為は、法的に、労働者が行なった労働契約の申し込みに対して、企業が承諾する意思表示を示すものです。
そして、企業が労働者に送付する内定通知書はその意思表示を証拠として示す書類になります。
ただし、内定通知書の発行に法的義務はありません。
そのため、内定通知書の様式や記載項目、発行時期も法的に定まっていません。
ここで注意しておきたいのが、内定通知書を出そうが出すまいが、口頭やメールで内定の連絡をすればそこで内定の法的効果は成立するということです。
であれば、人事労務担当者としては内定者に内定通知書をきちんと示しておいた方が後々のトラブル回避につながるということです。
内定の時期
内定の時期として有名なのが、新卒の内定式が行われる10月1日です。
実はこれは法律による規制ではなく、あくまで業界団体である経団連(一般社団法人 日本経済団体連合会)による業界ルールです。
経団連による「採用選考に関する指針」で、
- 大学卒業予定者・大学院修士課程修了予定者等に対する「正式な内定日は卒業・修了年度の10月1日以降とする。
と記載されており、加盟している企業がそれに従っているわけです。
では「中途採用者の内定はいつ出すべきか?」という疑問があるかもしれませんが、それはあなたの会社が決めれば良いだけです。何もルールはありません。
内定と内々定の違い
次に、内定と内々定の違いですが、この点はよく質問されます。
内定が始期付の解約権を留保した労働契約の成立を意味することは前述のとおりですが、内々定というのは単なる口約束に過ぎません。
それでは、なぜ内々定という考え方・言葉があるのかという点ですが、これは上で解説した10月1日以降という内定時期に大きく関係します。
経団連による業界ルールに従うのであれば、10月1日以前に内定は出せません。
- 10月1日以降にしか内定が出せない・・・
- しかし企業側としては入社を早く約束して拘束をかけたい・・・
- よし内々定という口約束をして他の会社に行かないようにしよう
これが内々定の真実です。
では、業界ルールのない「中途採用者への内々定」というのは必要かということですが、そんなものは不要です。
改めて、内定と内々定の違いをまとめると以下のとおりです。
- 内定と内々定の違い
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- 内定:始期付の解約権を留保した労働契約の成立
- 内々定:業界ルールに従う中で生まれた法的効果のない口約束
内定取り消し
内定に関しては毎年のように内定取り消しが大きな問題になります。
先程解説したとおり、内定とは「始期付の解約権を留保した労働契約の成立」となるわけですから、原則として、内定取り消しと解雇は同等ということになります。
ただし、「始期付の解約権を留保した」という条件がついています。
そのため、判例でどのように判断されているのか、ということですが、判例では内定取り消しの適法性について以下に限られるとしています。
- 判例における内定取り消しの適法性
-
- 採用内定当時知ることができず、
- また知ることが期待できないような事実であり、
- これを理由として採用内定を取り消すことが解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認することができるもの
最後の「客観的に合理的と認められ、社会通念上相当として是認」という部分は解雇の適法性を判断される際の要件と同じです。
内定取り消しが無効となった事例
それでは、具体的な事例を見ていきます。
先程、内定取り消しの適法性に関する要件を解説しましたが、逆にいえば、内定当時にもわかっていたことで、それをわかった上で、内定を出したのであれば、後になって取り消しは認められないということです。
内定を出せば、一般的に、学生は就職活動を停止させますからね。
つまり、内定取り消しというのは、通常の解雇と同様に、社会の常識に照らして納得できる理由がなければできない ということです。
これに関する有名な事案が以下の大日本印刷事件です。
- 大日本印刷事件(最二小判昭和54年7月20日)
-
- 学校卒業予定者が企業から内定通知を受け、誓約書を企業に提出したが、その後、企業が突然内定取消通知をしたことについて、裁判所は内定取消しを無効とし労働契約上の地位を確認する判決を下した事案
- 内定取消しの理由とされた本人がグルーミー(陰気)な印象であることは当初からわかっており、労働者としての適格性の有無を判断することができたのに、不適格と思いながら採用を内定し、不適格性を打ち消す材料がなかったので内定を取り消すことは、解約権留保の趣旨、目的に照らして社会通念上相当として是認することはできない
内定取り消しが有効となった事例
次に、内定取り消しが有効となった事例を紹介します。
先程解説したように、内定取り消しについては、社会の常識に照らして納得できる理由がなければできないわけです。
例えば、新卒の場合は学校を卒業するという前提で内定を出すわけですから、学校を卒業できなければそれは取り消しになっても仕方ありませんし、判例では、誓約書を期日までに提出しない場合にも採用を取り消しうるとされています。
大事なことは、内定取消事由の要件を定めておくことです。内定通知書、誓約書はもちろん、就業規則にも規定しておくことが必要です。
- 電電公社近畿電話局事件(最二小判昭和55年5月30日)
-
- 採用内定後に、内定者が現行犯として逮捕され、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことが判明したことから、企業が内定を取り消したことについて、裁判所は内定取消しを認めた事案
- 誓約書等を所定の期日までに提出しない場合には採用を取り消しうるものとしていたが、解約権の留保はこれらの場合に限られるものではない
中途採用者の内定取り消し
これまで解説してきた内定取り消しの事例は、新卒に関するものでしたが、中途採用者についても考え方は同様です。
特に、中途採用者の場合は、内定が出れば、その時点で勤務している会社に退職届を提出し、もはや後戻りできない状況になります。
つまり、現実には就労していなくても、労働契約に拘束され、他に就職することができない地位に置かれると判断されます。
以下の裁判例は、企業が経営の悪化等を理由に採用内定取り消しをする場合には、いわゆる整理解雇の有効性の判断に関する法理が適用されるべきとされたものです。
ちなみに、整理解雇の有効性の判断とは、
- 人員削減の必要性
- 人員削減の手段として整理解雇することの必要性
- 被解雇者選定の合理性
- 手続の妥当性
という4要素を総合考慮のうえ、客観的に合理的と認められ、社会通念上相当と是認することができるかどうかというものです。
- インフォミックス事件(東京地決平成9年10月31日)
-
- ヘッドハンティングによって採用内定した労働者に対し、企業が業績悪化を理由として内定を取り消したことについて、裁判所は内定取消しを無効とし、労働契約上の地位を確認する仮処分決定を下した事案
- 採用内定に至る経緯、内定者の期待、入社の辞退勧告などがなされた時期が入社日のわずか二週間前であり既に前の会社を辞職していること等から、解約留保権の趣旨、目的に照らしても、内定取消しは客観的に合理的なものとはいえず、社会通念上相当として是認することはできない
新卒の内定取り消しの際に注意すべき法律
企業が、新卒の内定を取り消す場合や内定期間を延長する場合には、職業安定法施行規則第35条第2項に基づき、公共職業安定所長及び学校長に通知する義務があります。
そして、内定取消に関しては、同規則第17条の4に基づき、公表される場合があるため要注意です。
実際「事業活動縮小を余儀なくされているとは明らかに認められない」などの判断をされ、平成30年8月には3社の事業所名が公表されています。
報道発表では「求職活動をする学生の適切な職業選択に役立つように」と書いてあるので、今後学生はこんな会社を選ばないようにというメッセージを出しているのと同じです。
- 職業安定法施行規則第35条第2項
-
新規学卒者を雇い入れようとする者は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、あらかじめ、公共職業安定所及び施設の長にその旨を通知するものとする。
- 新規学卒者の卒業後当該新規学卒者を労働させ、賃金を支払う旨を約し、又は通知した後、当該新規学卒者が就業を開始することを予定する日までの間(内定期間)に、これを取り消し、又は撤回するとき。
- 新規学卒者について内定期間を延長しようとするとき。
まとめ
毎年10/1近くになると内定に関するご相談が増えますが、最近は1年中採用活動を行なっている企業もあるため、年中ご相談を受けている印象です。
また、最近は内定通知書の記載内容や連絡方法など手続きに関するご相談も増えています。
事例の中でも紹介しましたが、採用内定というのは労働契約の一種です。契約ですから理由もなく一方的に解除するということは難しいわけです。
そのため、採用内定通知書、誓約書はもちろん、就業規則にも取消事由というのをきちんと規定しておくことが必要です。
就業規則の見直しのご依頼を受けていると、内定に関して、規定がない、あっても曖昧といったものをよく見ますが、契約を交わすのに、契約の要件や取消事由がないというのはおかしいですよね?
なお、実際に内定を出してからはいよいよ採用となりますが、多くの会社では本採用前に試用期間を設けています。
しかし、試用期間に関しても多くの誤解もあって、トラブルになりがちです。
以下の記事では、試用期間の長さ、賃金、社会保険、解雇の法的性質について解説していますので、併せてご参考ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
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