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障害者雇用促進法における差別禁止と合理的配慮とは?

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平成25年に改正され、平成28年4月から施行されている障害者雇用促進法(障害者の雇用の促進等に関する法律)の改正内容について、指針・Q&Aを活用して詳細に解説します。

障害者雇用促進法の改正のポイント

まず、平成25年の法改正内容のポイントは以下の3つです。

  1. 障害者の権利に関する条約の批准に向けた対応
  2. 法定雇用率の算定基礎の見直し
  3. 障害者の範囲の明確化その他の所要の措置

このうち、3の「障害者の範囲の明確化」だけが公布日の平成25年6月19日に既に施行されており、1の施行が平成28年4月1日、2の施行が平成30年4月1日となっています。

法改正対応を行うときは、施行日がいつなのかを意識し、前もって準備することが重要です。

それでは、平成28年4月施行の改正内容、つまり先程の1の部分を詳しく解説していきます。具体的には以下の3点がポイントになります。

  1. 障害者に対する差別の禁止
  2. 合理的配慮の提供義務
  3. 苦情処理・紛争解決援助

対象となる事業主

この法律の対象となる事業主は、常時雇用する労働者を1人以上雇用するすべての事業主です。

ただし、実質的に義務の対象となるのは、現時点では従業員43.5人以上の事業主になります。

この意味を理解するには障害者雇用率の知識が不可欠です。以下の記事で解説していますのでご参考ください。

関連:障害者雇用義務と障害者雇用率の基礎知識:令和3年3月から43.5人以上に

また常時雇用する労働者という表現は労働関係法令では頻繁に出てきます。以下の記事で解説していますのでご参考ください。

関連:常時使用する労働者とは? 常時雇用労働者、常用雇用労働者の違い

1. 障害者に対する差別の禁止

障害者に対する差別の禁止とは、募集・採用、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用など、障害者であることを理由に排除したり、障害者に対してのみ不利な条件としたりするなど不当な差別取扱いを禁止するということです。

ただし「職業能力等を適正に評価した結果といった合理的な理由による異なる取扱いまで禁止されるものではない」とされています。

禁止される差別の具体的な内容は指針で定められていますが、主なものは以下のとおりです。

  • 身体障害、知的障害、精神障害、車いすの利用、人工呼吸器の使用などを理由として採用を拒否すること
  • 障害者であることを理由として以下のような不当な差別的取扱いを行うこと
    • 賃金を引き下げること、低い賃金を設定すること、昇給をさせないこと
    • 研修、現場実習を受けさせないこと
    • 食堂や休憩室の利用を認めないこと

ただし、例えば運送業で運転手を採用する際に一定の視力を条件とすることなど、業務遂行上特に必要なものと認められる場合はこの差別には当たりません

この「業務遂行上特に必要」という部分については「改正障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A」で、以下のように回答されています。

「業務遂行上特に必要」とは、当該措置を講じなければ業務遂行上不都合が生じる場合であり、単にあった方が望ましいという程度のものではなく、客観的にみて真に必要である場合をいいます。

なお、障害者のみを対象とする求人は、障害者を有利に扱うものであるため、法律で禁止される差別には該当しません。

2. 合理的配慮の提供義務

合理的配慮というのは、障害者と障害者でない者との均等な機会や待遇の確保、障害者の有する能力の有効な発揮の支障となっている事情を改善するための措置ということです。

具体例があった方がわかりやすいかと思いますので、行政が示している法改正の概要を参照すると以下のとおりです。

募集・採用の配慮としては、

  • 問題用紙を点訳・音訳すること
  • 試験などで拡大読書器を利用できるようにすること
  • 試験の回答時間を延長すること
  • 回答方法を工夫すること

施設の整備・援助を行う者の配置などでは、

  • 車いすを利用する方に合わせて、机や作業台の高さを調整すること
  • 文字だけでなく口頭での説明を行うこと
  • 口頭だけでなくわかりやすい文書・絵図を用いて説明すること
  • 筆談ができるようにすること
  • 手話通訳者・要約筆記者を配置・派遣すること
  • 雇用主との間で調整する相談員を置くこと
  • 通勤時のラッシュを避けるため勤務時間を変更すること

などが該当します。この合理的配慮についても具体的な内容は指針で定められています。

ただし、このいずれについても「事業主に対して過重な負担を及ぼすときは提供義務を負わない」とされています。

また、あくまでもここで求められている合理的配慮は、職務の円滑な遂行に必要な措置であり、日常生活のために必要な眼鏡や車いすなどの提供まで求められているわけではありません。

3. 苦情処理・紛争解決援助

上の1及び2で解説した障害者に対する差別や合理的配慮の提供に関して、障害者である労働者から苦情の申出を受けたとき、企業内で自主的に解決することが努力義務とされています。

また、自主的な解決が困難な場合には、都道府県労働局長などによる助言・指導や紛争調停委員会による調整などを受けることができます。

参考:平成28年4月(一部公布日又は平成30年4月)より、改正障害者雇用促進法が施行されます。

まとめ

法改正自体は既に数年前に行われていたものですが、いざ施行日が過ぎて慌てていませんか?

今回の施行内容は、義務(ポイントの1と2)、努力義務(ポイントの3)がありますが、障害者差別禁止又は合理的配慮の提供義務に違反した事業主に対する罰則はありません

その理由について「改正障害者雇用促進法に基づく障害者差別禁止・合理的配慮に関するQ&A」では以下のように回答しています。

障害者である労働者が継続して勤務できることが重要であることを踏まえれば、事業主に罰金等を課すよりも、助言、指導及び勧告といった行政指導により、継続的に雇用管理の改善を促すことが有効であると考えられることから、罰則規定は設けておりません。

具体的には、障害者雇用促進法において、厚生労働大臣は、障害者に対する差別の禁止や合理的配慮の提供に関し、必要があると認めるときは、事業主に対して、助言、指導又は勧告を行うことができる旨、規定されています。

ただし、罰則がないといっても、不法行為に基づく損害賠償請求権の余地はありますので注意しましょう

以下の記事でも解説しているとおり、労働関連法や労働保険・社会保険制度は頻繁に改正や変更があります。総務・人事担当者はこれらの最新情報に常に目を配っておく必要があります。

特に、専門家に依頼せず、自ら情報収集を行うときは、必ず一次情報を確認するようにしてください。一次情報というのは行政による発表など公式情報のことです。

たとえ士業による運営であってもブログ記事をそのまま鵜呑みにしてはいけません。それはこのブログ記事も同様です。

このブログでは、その時点での最新・正確な情報を提供するようには努めていますが、更新漏れなどはありえます。ブログなどで人事労務情報を得たときは、必ずその真偽の確認した上で実務を行う姿勢を持ち続けてください。

追記1:怪しいセミナー案内

先日「行政から明確な情報が出ずに困っている企業も多いかと思います。 本セミナーでは講師がわかりやすく法改正の背景や具体的対応を説明します。」という案内を見て驚きました。

おそらく「行政から出ている膨大な情報をわかりやすく説明します。」の書き間違いでしょうし、そう信じたいところです。

**行政から出ていない法改正の内容を講師が勝手に解釈し、具体的な対応を説明するのは単なる講師の「思い込み」**を説明するセミナーに過ぎません。

法改正の内容に関しては、必ず行政解釈、Q&Aといった根拠を確認する、または行政に問い合わせをした上で判断するようにしましょう。

追記2:障害者雇用に関するオススメの本

障害者雇用についてわかりやすい本をお探しなら以下の2冊がオススメです。

今日からできる障害者雇用」は、Q&A形式でわかりやすく解説しており、はじめて障害者雇用を検討する企業の総務・人事担当者にとってオススメの本です。

他社の障害者雇用制度の調査を行う際のポイント、経営層の了解を取り付けるための準備など実務的な視点を踏まえています。

また、「詳説 障害者雇用促進法―新たな平等社会の実現に向けて」は障害者雇用政策の歴史、裁判例、障害者雇用促進の解説、障害者基本法・障害者差別解消法との関係、これからの障害者雇用政策など多岐に亘る内容を含んだ本です。

特に私が驚いたのは、法改正を担当した厚生労働省の課長が執筆していることです。

特にP320の脚注では以下のように記載がありますが、その思いはよくわかります。

政策形成過程はマスメディアが絵解きするほど単純な図式にはなっていない。政策形成過程に関わるプレイヤー(行政実務者だけでなく審議会委員等を含む)が、七転八倒、試行錯誤して議論を収束させていることを広く理解してほしいとの思いが筆者にはあった。

障害者雇用のみならず、政策がどのように形成されるのかご関心がある方なら一読の価値がある良書です。

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