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前回、会社に求められる安全配慮義務の基礎知識について書きましたが、今回は労働者に求められる自己保健義務(自己安全義務)について法令・裁判例を踏まえて解説します。
自己保健義務とは
自己保健義務とは、自身の安全・健康を確保するために労働者に課される義務です。
職場の安全を確保するためには、使用者による不安全状態の解消だけでなく、労働者自身の不安全行為の防止も必要です。
また、近年増加傾向にある脳心臓疾患、精神疾患などについては、職場における長時間労働やストレスに加え、労働者本人の喫煙、飲酒、業務外の行動による睡眠不足などの生活習慣も発症要因の一つとされています。
そのため、使用者(会社)には長時間労働の是正や労働者のストレス緩和のための対策が当然必要ですが、労働者自身も自らの健康管理を行うことが重要になります。
自己保健義務と労働安全衛生法の関係
労働安全衛生法は、原則として事業者に対する各種の措置義務を定めている法律ですが、同時に、労働者に対しても遵守義務を課している部分があります。
例えば、労働安全衛生法第26条では「労働者は、事業者が講ずる措置に応じて必要な事項を守らなければならない。」と定めています。
また、同規則第110条第1項では、事業者に対して「労働者に作業帽を着用させなければならない」と定める一方で、労働者に対しては同条第2項で「作業帽の着用を命じられたときは,これらを着用しなければならない」と定めています。
また、健康管理については、労働者自身の身体や心の内面の問題もあるため、労働者自身が自分の健康を自分で守る行動をとらなければ、いくら使用者側が配慮しても無意味です。
そのため、健康診断について、事業者に対して定期健康診断を義務づけるとともに、労働者に対しては、労働安全衛生法第66条第5項により「労働者は、事業者が行う健康診断を受けなければならない」と労働者自身の義務を定めています。
自己保健義務に関する裁判例
労働安全衛生法における労働者の自己保健義務については前述のとおりですが、これは業務上の話です。
業務外の日常生活における健康確保、これは当然ながら労働者自身の自己責任であり、以下の裁判例でも示されています。
- NHK事件(東京地裁、昭48.5.23判決)
- 使用者として、具体的な労務指揮又は機械、器具の提供に当たって、右指揮又は提供に内在する危険に因って労働者の生命及び健康に被害が発生しないように配慮する義務があると解するのが相当であり、右労務指揮の場面を離れて、労働者の健康一般につき無制限の配慮義務が使用者にあると解することはできない。労務指揮に関係がない場面における健康確保は労働者自身がその責任においてなすべき事柄であると解するのが相当である。
また、高血圧で死亡したSEについて、定期健康診断で高血圧症を指摘されていながら治療を受けなかったこと(ただし、仕事が多く受診しにくい環境にあった)を指摘し、「自らの健康の保持について何ら配慮を行っていない」とし、使用者の安全配慮義務を認める一方で、労働者本人の過失5割を認めた裁判例もあります。
- システムコンサルタント事件(東京高裁、平11.7.28判決)
- コンピュータソフトウェア関連業務に従事し、脳出血により死亡した労働者について、使用者は、高血圧症に罹患する労働者が致命的な合併症を生ずる危険があるときは、持続的な精神的緊張を伴う過重な業務に就かせないようにしたり、業務を軽減すべき配慮義務を負うにも関わらず、特段の負担軽減措置をとることなく過重な業務を継続させたことから会社の安全配慮義務違反が認められるとして認容された事例
このようなことから「労災事案等において労働者が使用者に対し、民事損害賠償請求を行う際、過失相殺の局面において法解釈上、当該義務は肯定され得る」(実務コンメンタール 労働基準法・労働契約法・P530)とされています。
まとめ
職場の安全と健康を確保するためには、使用者と労働者の双方による以下の義務の履行が重要です。
- 使用者による安全配慮義務 + 労働者による自己保健義務(自己安全義務)
では、会社として労働者自身に自己保健義務を履行させるためにどうすべきでしょうか?
それは、就業規則に自己保健義務を規定し、労働者に周知していく以外に方法はありません。
問題が生じたときに、すべて会社がその責めを負うものではなく、自己保健義務を就業規則に規定し、労働者側の過失がなかったかどうか問えるようにしておくことがリスク防止の観点から必要です。
その1つが定期健康診断です。健康診断は会社の実施義務と同時に、従業員にも受診義務があります。
参考:年に1回の定期健康診断に関して就業規則で定めておくべき内容は?
なお、使用者に求められる安全配慮義務と3つのチェックポイントについては以下の記事で解説していますので、併せてご参考ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
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