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あなたの会社では安全配慮義務に伴う対応をしていますか?
今回は、安全配慮義務とは何か、関連する判例・労働契約法の趣旨・内容、そして会社として安全配慮義務を遵守しているかチェックするための3つのポイントを解説します。
安全配慮義務とは
安全配慮義務とは、使用者は労働者が安全に働くことができるように配慮しなければならない義務のことです。
これは判例によって確立された考え方であり、その後、平成20年3月に施行された労働契約法により、法律でも明文化されています。
安全配慮義務と関連する判例
労働者は、使用者から指定された場所に配置され、使用者の提供する設備、器具等を用いて労働に従事することが一般的です。
こうしたことから、判例では以下のように解されています。
- 労働契約の内容として具体的に定めなくても、労働契約に伴い信義則上当然に、使用者は労働者を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っている
この安全配慮義務の考え方を確立した有名な判例は、陸上自衛隊八戸車両整備工場事件(最高裁三小、昭50.2.25判決)と川義事件(最高裁三小、昭59.4.10判決)です。
なお、労働者のメンタルヘルスについても、この安全配慮義務の対象になると最高裁による判決で示されたのが電通事件(最高裁二小、平12.3.24判決)です。この有名な事件があったから、昨年も大きな話題・非難となったわけです。
安全配慮義務と労働契約法の関係
前述のとおり、安全配慮義務については判例で確立され、その後、平成20年3月に施行された労働契約法、具体的には労働契約法第5条により、明文化されています。
- 労働契約法第5条(労働者の安全への配慮)
- 使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。
この条文の趣旨・内容については、行政通達(平成24年8月10日付け基発0810第2号)により以下のとおり示されています。
労働契約法第5条の趣旨
- 通常の場合、労働者は、使用者の指定した場所に配置され、使用者の供給する設備、器具等を用いて労働に従事するものであることから、判例において、労働契約の内容として具体的に定めずとも、労働契約に伴い信義則上当然に、使用者は、労働者を危険から保護するよう配慮すべき安全配慮義務を負っているものとされているが、これは、民法等の規定からは明らかになっていないところである。 このため、法第5条において、使用者は当然に安全配慮義務を負うことを規定したものであること。
労働契約法第5条の内容(解釈)
- 法第5条は、使用者は、労働契約に基づいてその本来の債務として賃金支払義務を負うほか、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に安全配慮義務を負うことを規定したものであること。
- 法第5条の「労働契約に伴い」は、労働契約に特段の根拠規定がなくとも、労働契約上の付随的義務として当然に、使用者は安全配慮義務を負うことを明らかにしたものであること。
- 法第5条の「生命、身体等の安全」には、心身の健康も含まれるものであること。
- 法第5条の「必要な配慮」とは、一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではないが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められるものであること。
- なお、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)をはじめとする労働安全衛生関係法令においては、事業主の講ずべき具体的な措置が規定されているところであり、これらは当然に遵守されなければならないものであること。
安全配慮義務に関する3つのチェックポイント
会社として安全配慮義務に関して具体的な対応が難しいのは「必要な配慮」という部分です。
この必要な配慮の内容については上で示したとおり、「一律に定まるものではなく、使用者に特定の措置を求めるものではないが、労働者の職種、労務内容、労務提供場所等の具体的な状況に応じて、必要な配慮をすることが求められるものである」とされており、具体的な配慮は会社で考える必要があります。
そのため、会社が安全配慮義務を尽くしていると言えるかチェックするためのポイントというのは会社によって異なるわけですが、今回はすべての会社に共通する以下の3つのポイントをご紹介します。
- 労働時間管理
- 健康診断とその後の対応
- 安全衛生管理体制
1. 労働時間管理
労働時間の管理を怠り、労働者の心身の健康を損ねる長時間労働を放置するのは極めて危険です。
昨今、働き方改革として長時間労働対策の是正に大きな焦点が当てられていますが、安全配慮義務の観点から労働時間管理は以前から最も重要な課題とされています。
労働時間の管理を行う上で参照すべきものは、厚生労働省が発出している「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」であり、以下の記事で解説しています。
2. 健康診断とその後の対応
健康診断には、雇入れ時の健康診断、定期健康診断、有害作業のための特殊健康診断があり、労働安全衛生法により義務づけられています。
ただ、健康診断は行って終わりではありません。
異常所見があった者については、医師の意見を聴取した上で以下の措置を講ずることが求められています。
- 就業場所の変更
- 作業の転換
- 労働時間の短縮
- 深夜業の回数の減少等
事業者が医師の意見を聴取しなかったり、聴取した意見を無視して業務軽減措置を行わなかったりして、労働者に健康上の問題が生じた場合は安全配慮義務違反として問題になります。
有名な事例が、以下のシステムコンサルタント事件です。
裁判所は「労働者の問題もあるが会社として労働者の健康管理のための安全配慮義務を負う」と判断を示しています。
- システムコンサルタント事件(東京高裁、H11.7.28判決)
- コンピュータソフトウェア関連業務に従事し、脳出血により死亡した労働者について、使用者は、高血圧症に罹患する労働者が致命的な合併症を生ずる危険があるときは、持続的な精神的緊張を伴う過重な業務に就かせないようにしたり、業務を軽減すべき配慮義務を負うにも関わらず、特段の負担軽減措置をとることなく過重な業務を継続させたことから会社の安全配慮義務違反が認められるとして認容された事例
参考:システムコンサルタント事件・脳出血(厚生労働省運営サイト「こころの耳」)
3. 安全衛生管理体制
労働安全衛生法は、会社の安全衛生管理体制の整備を求めています。
常時使用する労働者の数に応じて「総括安全衛生管理者」「安全管理者」「衛生管理者」「産業医」、そして労使の代表から構成される安全衛生委員会の設置など、様々な資格・職務を義務付けています。
- 資格者はいる、委員会も設置されている
- しかし資格者が職務を果たしていない、委員会が定期的に開かれていない、開かれていても適切な議題が設定されていない
など、運用面での問題を多く聞きます。
このような安全衛生管理体制が整備されていない、または機能していない状態で、長時間労働などにより労働者に健康上の問題が生じた場合、安全配慮義務違反とされる可能性は高いでしょう。
まとめ
安全配慮義務について、総論として反対する人はいないでしょうが、具体的にどのように配慮すればよいのかと考えると、実務上悩ましい問題になります。
会社ごとに配慮すべき状況は異なるため、悩んだときには人事労務の実務に慣れている弁護士や社労士に相談できる体制をつくっておくことでしょう。
なお、今回の記事のような人事労務関係の法律をわかりやすく解説し、実務にも使える本としていつもオススメしているのが以下の本です。人事労務担当者の必読の書です。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
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