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労働基準法などの法令を読むときには、言葉の定義を確認しておくことが重要です。
定義を誤解してしまうと、必要のない作業をムダに行ったり、逆に法的な義務を放置してしまったり、意図せず法令違反となってしまうことがありえます。
そこで、今回は、労働基準法令における「事業場」の定義、「企業」と「事業場」の違い、「部門」との違いを解説します。
企業単位と事業場単位
企業というのは、一般用語なので理解しやすいでしょう。
例えば、トヨタ自動車株式会社というのは、企業単位で見ると1つです。ウェブサイトの会社概要を見ると、愛知県に本社があり、東京本社、名古屋オフィスというのがあります。
そして、もちろん大会社ですので、国内外の販売拠点、生産拠点、それこそ数え切れないほどの「事業場」があります。
事業場とは?
さらっと「事業場」という言葉を使いましたが、事業場とは「一定の場所での組織的な作業のまとまり」を指します。つまり、
- 原則として、同じ場所にあれば、1つの事業場とみなす
ということです。ただし、これには例外があり、
- 同じ場所であっても、労働状態や業態が違えば、別の事業場とみなす
ということです。例えば、工場で生産にあたる労働者と、工場内の食堂で食事を作る労働者とでは業態が全く異なります。その場合は、別々の事業場とみなします。
離れた場所の事業場
「同じ場所にあれば1つの事業場とみなす」のが原則なので、離れた場所に2つのオフィスがあれば、当然2つの事業場となります。
ただし、これにも例外があります。
例えば、本社と営業所が離れた場所にあるが、営業所に常駐しているのは1人のみで、業務は営業のみで管理的な業務を一切行っていない、このような場合は、本社と一括した1事業場として取り扱うことも可能です。
ここで注意していただきたいのは、支店や営業所といった言葉の問題ではないということです。
あくまでも支店や営業所で行っている実態によって判断されるということです。ここまでの説明は、厚生労働省が示している以下の通達をわかりやすく、かみ砕いたものなので、原文を示します。
事業場の解釈としては、昭和47年9月18日発基第91号通達の第2の3「事業場の範囲」で示されています。
その中で、労働安全衛生法は、事業場を単位として、その業種・規模等に応じて適用することとしており、事業場の適用範囲は、労働基準法における考え方と同一です。
つまり、一つの事業場であるか否かは主として場所的観念(同一の場所か離れた場所かということ)によって決定すべきであり、同一の場所にあるものは原則として一つの事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場とされています。
例外としては、場所的に分散しているものであっても規模が著しく小さく、組織的な関連や事務能力等を勘案して一つの事業場という程度の独立性が無いものは、直近上位の機構と一括して一つの事業場として取り扱うとされています。
企業と事業場の違い
以上をまとめると、企業に複数の拠点・支店がある場合、以下のようになります。
- 企業 = 事業場(本社) + 事業場(支店) + 事業場(支店)・・・
事業場と部門の違い
また、事業場と部門の違いについてご質問を受けることもあります。
例えば、会社の規模が大きくなると、同じ建物の中にあっても、○○事業部などの部門に分けられ、基本的にその部門単体で業務を行っていることがあります。
この場合でも、事業場は、「原則として、同じ場所にあれば、1つの事業場とみなす」という考え方を適用します。
ただし、やはり例外はあります。先程引用した通達の中にも以下の文章があります。
同一の場所にあっても、著しく労働の態様を異にする部門がある場合には、その部門を主たる部門と切り離して別個の事業場としてとらえることにより労働安全衛生法がより適切に運用できる場合には、その部門は別個の事業場としてとらえることとしています。
この例としては、工場の診療所などがあげられます。
つまり、以下の条件を満たせば、同じ建物内にある部門であっても、2つの事業場としてみなすことは可能ということです。1つの目安としては、業種の分類が大きく異なるかどうかです。
- 著しく労働の態様を異にする部門
- 別個の事業場としてとらえることにより労働安全衛生法がより適切に運用できる
事業場の定義を運用する際の注意点
さて、ここからは具体的に、実務的な運用について解説します。
労働安全衛生法第12条では、常時50人以上の労働者を有する事業場は、衛生管理者を選任しなければならないと定めています。
この常時○○人以上というのは、企業単位ではなく、事業場単位です。
つまり、
- 各事業場で労働者が50人以上いれば、各事業場で衛生管理者を選任する義務がある。
- 企業全体で50人以上いたとしても、各事業場が50人未満であれば、衛生管理者の選任義務はない。
ということです。
- 労働安全衛生法第12条(衛生管理者)
- 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、都道府県労働局長の免許を受けた者その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該事業場の業務の区分に応じて、衛生管理者を選任し・・・(以下、略)
関連:50人以上の事業場に義務化される人事労務関係の資格・職務
まとめ
このように「事業場」という言葉1つの例であっても、その定義を理解していないと、本来不要な対応をしてしまう、必要な対応を逃してしまい法令違反となることがありえます。
法令を読むときは、その中で使われている用語の定義をしっかり抑えるようにご注意ください。
なお、法律では「常時」という言葉もよく出てきます。
常時使用する労働者、常時雇用労働者、常用雇用労働者と法律によって表現が微妙に異なります。この点については以下の記事で解説していますのでご参考ください。
関連:常時使用する労働者とは? 常時雇用労働者、常用雇用労働者の違い
余談ですが、法令を正しく理解するという行為は、英語の勉強に似ている気がします。
英語で仕事をしていたときに痛感したのですが、英語を使えば使うほど、難しい単語よりもgetやtakeのような基本的な単語で何度も辞書を引いていました。基本的な単語を利用した言い回しって幅広いんですよね。。。
労働基準法などの法令も同じで、事業場とは何か、常時労働者とは何を指すのか、そもそも労働者性とは何か、こういった基本的なことでも、というより基本であるがゆえに、人事労務の専門家である社労士は念のために何度も確認しますし、そうあるべきです。
今やインターネットで調べれば膨大な情報を入手できます。しかし、中には、生半可な知識で間違った解説をしている記事がたくさんあるためご注意ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
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