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令和2年9月に改定された副業・兼業のガイドラインのポイントを解説

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平成30年1月に作成され、報道等でも大きく取り上げられた「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が、令和2年9月に改定されましたので、内容を解説します。

そういえば一時期、副業解禁などと騒ぎになり、報道でも副業を推進する企業、特に「届出なしに自由に副業・兼業を推進」という企業がもてはやされましたが、どうなったんでしょうね。

自由と放置の単なる混同、もっと言えば単なる企業の責任放棄としか思えませんでしたが・・・

副業・兼業は原則自由

まず、以下の記事で解説していますが、副業・兼業自体への法的な規制は従来からありません。

そして、裁判例では、企業による副業・兼業の制限について限定的に認めているに過ぎません。

つまり、労働者が副業・兼業を行うことは原則として自由、しかし企業があくまで独自の判断で副業・兼業を禁止しているというのが実態ということです。

関連:副業・兼業は、法規制がなく、原則自由なのです

副業・兼業の際に企業・労働者が留意すべき労働契約上の義務

そのため、ガイドラインでは「裁判例を踏まえると、企業は、原則、副業・兼業を認める方向とすることが適当」としており、また、

  • 副業・兼業を禁止、一律許可制にしている企業は、副業・兼業が自社での業務に支障をもたらすものかどうかを今一度精査したうえで、
  • そのような事情がなければ、労働時間以外の時間については、労働者の希望に応じて、原則、副業・兼業を認める方向で検討することが求められる。

としています。なお、「副業・兼業に係る相談、自己申告等を行ったことにより不利益な取扱いをすることはできない。」とされている点も要注意です。

とは言っても、労働契約法第3条第4項では信義誠実の原則が定められ、使用者及び労働者は、労働契約上の主たる義務(使用者の賃金支払義務、労働者の労務提供義務)のほかに、多様な付随義務を負っており、副業・兼業の場合には以下に留意する必要があります。

  • 安全配慮義務
  • 秘密保持義務
  • 競業避止義務
  • 誠実義務
労働契約法第3条第4項(信義誠実の原則)
労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない。

これらの義務が履行されない場合、企業は副業・兼業について一定の制限ができることをガイドラインは明確化しています。

特に、安全配慮義務に関しては、副業・兼業を行う労働者を使用するすべての使用者が負います

使用者が労働者の全体の業務量・時間が過重であることを把握しながら、何の配慮もせず、労働者の健康に支障が生じるに至った場合等は、義務違反になり得ることをガイドラインは明記しています。

企業は、その対応策として、就業規則等において、長時間労働等によって労務提供上の支障がある場合には、副業・兼業を禁止または制限できるようにする規定を定めることが重要です。

関連:安全配慮義務の基本と3つのチェックポイント

企業が留意すべき労働時間管理

副業・兼業を認める際に、企業が最も留意すべき規制が労働時間の通算に関する規定(労働基準法第38条第1項)です。

労働基準法第38条第1項(時間計算)
労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する。

そして、この「事業場を異にする場合」とは、事業主を異にする場合をも含むと行政通達により示されています(昭和23年5月14日付け基発第769号、昭和61年6月6日付け基発第333号)。

「他の事業主による企業の労働時間まで把握できない」という言い訳は許されないものとなっています。

ただし、後述するとおり、他の使用者の事業場における実際の労働時間の把握は、労働者からの自己申告が基本とされています。

労働時間が通算される規定・通算されない規定

ガイドラインでは、現行の労働基準法に基づき、以下のように労働時間を通算する場合と通算しない場合を明確に整理しています。

まず、副業・兼業先(他の事業場)と通算される規定は以下のとおり。

  • 法定労働時間の適用(労基法第32条)
  • 時間外労働と休日労働の合計が単月100時間未満、複数月平均80時間以内とする上限規制(労基法第36条第6項第2号・第3号)

次に、副業・兼業先(他の事業場)と通算されない規定は以下のとおり。

  • 36協定による時間外労働の限度時間、特別条項を設ける場合の1年の延長時間の上限(労基法第36条第1項、第4項、第5項)
  • 休憩(労基法第34条)の規定
  • 休日(労基法第35条)の規定
  • 年次有給休暇(労基法第39条)の規定

なお、当然ですが、次のいずれかに該当する場合、時間は通算されません。

  • 労働基準法が適用されない場合(フリーランス、独立、起業、共同経営、アドバイザー、コンサルタント、顧問、理事、監事等)
  • 労働基準法が適用されるが、労働時間規制が適用されない場合(農業・畜産業・養蚕業・水産業、管理監督者・機密事務取扱者、監視・断続的労働者、高度プロフェッショナル制度)

副業・兼業を行う労働者に企業が確認すべき事項

労働時間の通算をするためには、副業・兼業先の労働時間を確認する必要があります。

ガイドラインでは、その方法は労働者の申告を基本とし、就業規則等において副業・兼業に関する届出制を定め、労働者の副業・兼業の有無、内容を確認するための仕組みを設けておくことが望ましいとしています。

まず、労働者から確認する事項は、

  • 他の使用者の事業場の事業内容
  • 他の使用者の事業場で労働者が従事する業務内容
  • 労働時間通算の対象になるか否かの確認

そして、労働時間通算の対象となる場合は、

  • 他の使用者との労働契約の締結日、期間
  • 他の使用者の事業場での所定労働日、所定労働時間、始業・終業時刻
  • 他の使用者の事業場での所定外労働の有無、見込み時間数、最大時間数
  • 他の使用者の事業場における実労働時間等の報告の手続
  • これらの事項について確認を行う頻度

を確認し、各々の会社と労働者で合意しておくことが望ましいとされています。

労働者から副業・兼業の申告がなかった場合の労働時間の通算

労働者から副業・兼業の申告がなかった場合の労働時間の通算については、以下の方針が行政解釈(令和2年9月1日基発第0901第3号)により示されています。

  • 労働者から副業・兼業の申告がなかった場合には労働時間の通算は要しないこと
  • 労働者からの申告により把握した他の使用者の事業場における労働時間が事実と異なっていた場合、労働者からの申告等により把握した労働時間によって通算していれば足りること

企業が留意すべき時間外労働の割増賃金の取扱い

労働時間の通算が行われるため、時間外労働の割増賃金の取扱いには注意を要します。

例えば、事業主Aのもとで働いていた労働者が、後から事業主Bと労働契約を締結したとします。

  • 事業主Aの所定労働時間が5時間
  • 事業主Bの所定労働時間が4時間

の場合、いずれの事業主のもとでも1日の法定労働時間8時間を下回っていますが、労働時間の通算により、事業主Bにおいて法定時間外労働が1時間発生しているため、事業主Bには法定の割増賃金の支払い義務があります。

これは、後から契約を締結する事業主は、その労働者が他の事業場で労働していることを確認したうえで、契約を締結すべきとの考え方によるものです。

なお、この例は、事業主A、Bともに原則の労働時間制度(1日の法定労働時間8時間)の場合であり、変形労働時間制度の場合はもっと複雑になります。

また、念のため、このブログでは何度も書いていますが、労働時間規制と賃金規制はまったくの別物です。

法定労働時間を超える時間外労働が認められるには36協定の締結が必要であり、それは労働時間規制の話、法定労働時間を超える時間外労働を行わせた場合は割増賃金の支払いが必要というのは賃金規制の話です。

企業が留意すべき健康管理

労働時間の通算により懸念されるのが健康管理の問題です。

副業・兼業にかかわらず、使用者には、労働安全衛生法第66条等に基づき

  • 健康診断
  • 長時間労働者に対する面接指導
  • ストレスチェック

の結果に基づく事後措置(健康確保措置)の実施が求められていますが。健康確保措置の実施対象者の選定に際して、副業・兼業先の労働時間の通算は求められていません

ただし、ガイドラインでは、使用者の指示により副業・兼業を開始した場合は、通算した労働時間に基づき健康確保措置を実施することが適当であるとされています。

まとめ

本記事では取り上げていませんが、ガイドラインでは、副業・兼業に関する留意点として、

  • 労災保険の給付(休業補償、障害補償、遺族補償等)
  • 雇用保険、厚生年金保険、健康保険

に関しても触れていますので、ぜひご一読ください。

ただ、本記事ではガイドラインにあわせて副業・兼業と書きましたが、今後ダブルワークが当たり前になってくると本業・副業という棲み分けがそもそもなくなるのかもしれません。

参考:副業・兼業の促進に関するガイドライン(厚生労働省)

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