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退職金制度の設計として、
- 退職金の目的
- 退職金の支給の対象者
- 退職金の計算方法
- 退職金の発生時期
- 退職金の支払時期
- 退職金の支払方法
など様々な内容を検討しなければなりません。
そして何より重要なのが、退職金規程として明確に書面にしておくことです。
退職金は賃金や賞与と比べて高額であるため、曖昧・不明瞭な状態ではトラブルになる確率が高いものと言えます。
今回は、トラブルになりやすく裁判例も多い退職金・退職手当に関する基本的な内容を解説します。
退職金とは
退職金とは、文字どおり、退職した労働者に支払われるものです。
ただ、現在の法制度では、60歳定年、65歳まで再雇用という会社が多い状況です。そのため、60歳定年時に退職金を支給し、再雇用が開始してからは退職金の適用なしという会社も多いでしょう。
たまに、従業員から要求されたら退職金を支払わなけれならないのか? つまり、退職金制度は必須なのか、と質問されることがありますが、
退職金に法的な義務はありません。
賃金と異なり、退職金の支払いは労働基準法で義務づけられていません。
会社の裁量で退職金の有無を決めることができます(東京貨物運送健保組合事件、東京高裁昭52.11.30判決)。
ただし、会社が、採用時に雇用契約書や労働条件通知書で「退職金あり」と書いていたり、期待を持たせるような発言をしたのであれば、従業員から退職金の請求をされるでしょうし、結果的に支払わなければならないと判断される可能性があります。
そのため、会社に退職金制度があるのか、ないのか、まずはその点を明確にしておくことが重要です。
なお、退職金の支給形態として、
- 一括して支払う退職一時金
- 定期的に一定額を支払う退職年金
の形態があります。
退職金制度がある会社は80.5%
次に、どれくらいの会社が退職金制度を有しているのか、実態を見ておきましょう。
厚生労働省による調査「平成30年就労条件総合調査結果の概況」によると、
80.5%の会社、5社のうち4社が退職金制度を有しています。
会社の規模が大きいほど退職金制度を有している割合が高い状況ですが、30-99人規模の会社でも77.6%が退職金制度を有しているため、大半の企業に退職金制度があることがわかります。
以下は本来であればグラフが表示されます。
もしグラフが表示されていない場合はページの更新をしてください。
会社の規模別に見たとき、明確に異なるのが、退職金制度の中で、一時金制度と年金制度の違いです。
従業員規模が1000人以上の会社では、退職一時金制度と退職年金制度はそれぞれで見るとほぼ同じ割合ですが、両制度がかなり多い状況です。
それに比べて、従業員30-99人規模の会社になると、退職一時金制度のみという会社が圧倒的に多い状況です。
なお、従業員10〜299人規模の会社に特化した退職金制度に関する調査が東京都によって行われています。
厚生労働省の調査に比べて、退職金の積立方法や退職金の算出方法などより詳しい項目があり、以下の記事にまとめていますので併せてご参考ください。
関連:中小企業の退職金制度の調査結果:退職金ありは71.5%
退職金制度の設計
退職金制度を設計する際には、最低限、以下の点を明確にしておく必要があります。
- 退職金の目的
- 退職金の支給の対象者
- 退職金の計算方法
- 退職金の発生時期
- 退職金の支払時期
- 退職金の支払方法
既存の退職金制度があるにも関わらず、明確になっていない会社が意外と多いのでご注意ください。
退職金の目的と3つの性質
退職金制度を導入する際には、そもそも退職金を支給する目的が何なのかという点を明確にしておくことが重要です。
退職金制度の有無が会社の自由である以上、退職金の目的をどのように設定しても構いません。
参考までに、少し専門的な解説にはなりますが、裁判例で示された退職金の3つの性質を紹介します(中島商事事件、名古屋地裁昭49.5.31判決)。
- 賃金後払的性質
- 功労報償的性質
- 生活保障的性質
それぞれの性質を簡単に説明すると以下のとおりです。
- 賃金後払的性質:毎月支払う賃金と別に退職金として会社が積み立てるという考え方
- 功労報償的性質:今まで会社に貢献してくれてありがとうという考え方
- 生活保障的性質:退職後の生活に役立ててくださいという考え方
退職金の目的がこれら3つの性質に厳密に分かれることはありませんが、退職金制度を設計する際には、なぜ退職金を支給するのか、その目的を明確に設定し、退職金規程に定め、従業員に共有しておくことが後々のトラブル防止のためにも重要となります。
「今まで会社に貢献してくれてありがとう、退職後の人生に退職金を役立ててね」という功労報償的性質・生活保障的性質といった福利厚生目的から退職金制度を考えている経営者は多いのですが、実際に退職金規程を見てみると、全く異なる目的が定められている場合も多くあります。
既存の退職金制度がある会社では、退職金規程に目的が明確に定められているのかを確認しておいてください。
退職金の支給の対象者
退職金を支給する対象者の明確化は極めて重要です。
長年の勤続に対する感謝という考え方から退職金を支給する会社が多い印象があるため、支給対象は正社員のみ、契約社員、パート・アルバイトは対象外という会社は多いのではないかと思います。
もちろん、契約社員、パート・アルバイトなど正社員以外も対象にするのも会社の自由ですし、今後はそうなっていくと私は予測しています。
いずれにしても、退職金の支給対象者は誰なのか、正社員だけなのか、正社員であれば勤続3年以上など勤続年数を設定するのかなど明確にする、そして退職金規程にきちんと書いておくことが重要です。
もし、単に「従業員に支給する」と書いていて、その従業員がすべての従業員を指すことになっていれば、以下の記事のように思わぬ支払いにつながります。
関連:就業規則の不備によりパートや再雇用者に退職金を支払うことになる?
退職金の計算方法
退職金の計算方法も、会社が自由に設計することができますが、多くの会社で導入されているのは以下の3つの計算方法に分けられます。
- 定額制:勤続年数などに応じて退職金額が固定
- 給与連動制:退職時の基本給に一定率をかけて算出
- ポイント制:独自に定めたポイントにポイント単価をかけて算出
以下の記事で紹介していますが、中小企業を対象にした東京都の調査によると、圧倒的に多いのが「退職金算定基礎額 × 支給率」、そしてこの「退職金算定基礎額」は基本給に連動している会社が多いことが調査結果で示されています。
つまり、給与連動制を導入している会社が大半ということです。
「基本給を上げると退職金が増える」とよく言われますが、それはこの調査結果からもわかります。個人的にはポイント制がオススメなのですが。
関連:中小企業の退職金制度の調査結果:退職金ありは71.5%
退職金の発生時期
退職金は、退職した労働者に支払われるものですが、退職は何を指し、退職金の支払い義務がいつの時点で発生するのかという退職金の発生時期を明確にしておく必要があります。
退職金の一般的なイメージは定年退職や自己都合退職かもしれませんが、死亡退職による死亡退職金もあります。
専門的に言えば、退職とは労働契約の終了を指します。
例えば、労働者が役員に就任したときも、兼務役員を除けば、労働契約が終了し、委任契約になります。
いつの時点で退職となり、いつの時点で退職金の支払義務が発生するのかという退職金の発生時期について、退職金規程に明確に書いておくことが重要です。
退職金の支払時期
そして、退職金の発生時期が来てから、いつまでに退職金を支払うのか、つまり退職金の支払時期も明確にしておかなければなりません。
退職金の支払時期については賃金と異なり労働基準法による規制がないため、あらかじめ退職金規程に定めておけば、支払時期は会社の自由です。
- 行政通達(昭26.12.27基収第5483号、昭63.3.14基発第150号)
- 退職手当は、通常の賃金と異なり、あらかじめ就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りるものである。
なお、定年退職の場合には、退職金の支払時期が事前にわかっているため準備できますが、自己都合退職の場合は突然、退職金の支払いが必要になります。
退職された → 退職金の支払義務が発生 → 退職金の原資となるお金がない → 訴えられた、といった笑えない事態が発生しないようにご注意ください。実際に相談された経験があります・・・。
退職金の支払方法
退職金の支払方法は、労働基準法施行規則第7条の2により、本人の同意を得た場合には、口座振込など様々な支払い方法が認められています。
退職金の時効
労働基準法における請求権の消滅時効は原則2年間ですが、退職金の時効は5年となっています。
- 労働基準法第115条(時効)
- この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。
退職金規程で定める内容
退職金制度は労働基準法による義務ではありません。
しかし、会社として退職金制度を定める場合は、労働基準法第89条に基づく相対的必要記載事項に該当するため、以下の項目を就業規則または退職金規程に定めなければなりません。
多くの会社では、退職金制度を専門に定めるものとして、就業規則ではなく、退職金規程を作成していると思います。
- 適用される労働者の範囲
- 退職金の決定・計算方法
- 退職金の支払方法
- 退職金の支払時期
- 労働基準法第89条(作成及び届出の義務)第3の2号
- 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
退職金規程がない場合の取扱い
- 退職金制度はあるが退職金規程がない
- 退職金制度の有無を明確にしていないが過去に退職金を支払ってきた実態がある
このような場合はどうすれば良いだろうかといった相談をいただくことがあります。
「退職金は恩恵的なものであり義務として支払うものではない」という考え方で退職金規程を作っていない、といった明確な理由があるのかもしれませんし、そもそも退職金規程の必要性を知らなかった、という場合もあります。
問題は、退職金規程がなくても労使慣行、つまり退職金の過去の支払いの実態がどうだったのか、社員に周知・約束していないかという点から、退職金の支払義務があるとみなされるリスクが残ります。
高額である退職金の取り扱いを不明瞭にしておくのはトラブルの元であり、早急に退職金規程を作成することを強くオススメします。
まとめ
退職金は、賃金や賞与に比べて高額であるためトラブルになりやすく、実際に多くの裁判例があります。
すでに退職金制度のある会社は、今回の記事を参考に、退職金規程の内容を確認しておいてください。トラブルが発生してから慌てて退職金規程を修正しても手遅れです。
退職金制度の見直しを行う場合には、既得権と期待権をコントロールしつつ変更をしていく必要がありますし、退職金規程の変更、特に不利益変更に該当する場合には、事前に弁護士や社労士に相談することを強くオススメします。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
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