就業規則の不備によりパートに退職金を支払うことになる?

ありがたいことに、最近は就業規則の作成・変更・内容確認のご依頼が増えてきました。

そんな中、意外に多いミスとして気づくのが、

  • 就業規則の中で職種の定義がなされていない
  • 未定義の職種の人が社内にいる
  • 適用範囲が不明瞭

ということです。

はっきりいって、これは基本中の基本です。

例えるなら、今から野球の試合が始まるのに、ピッチャー、キャッチャー、サードなど、各選手の守備を決めないまま、グラウンドに出ているようなものです(^0^)

今回は、代表的な雇用形態の種類、就業規則における職種の定義、適用範囲を明確に定めなければならない理由、適用範囲を放置していために、想定していなかった人に退職金を支払わざるを得なくなった悲劇について裁判例をもとに解説します。

雇用形態の種類

代表的な雇用形態の種類は以下のとおりです。

  1. 正社員
  2. 限定正社員
  3. 契約社員
  4. 嘱託
  5. パートタイマー
  6. アルバイト

実は、法的な面で見ると、パートタイマー以外の雇用形態には特に法的な定義がありません。

パートタイム労働法、正式名称は「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」ですが、厚生労働省でも堂々と「パートタイム労働法」と呼んでいますが、この中でパートタイマーについては定義がなされています。

また、限定正社員というのは最近増えてきた雇用形態で、転勤などのない正社員です。

ちなみに、派遣労働者は自社の雇用ではなく派遣元の雇用になるため、上の種類には入れていません。

法的な面で雇用形態を見るときは、雇用契約期間が有期または無期、所定労働時間が長いまたは短い、この2つの軸で考えます。まとめると以下の図のようになります。

以下の記事では、「契約社員とは」という切り口で、正社員やパートタイム労働者との違いを含めて解説していますのでご参考ください。特にパートタイム労働者との違いは混乱しやすいので注意が必要です。

https://worklifefun.net/difference-of-contract-workers/

就業規則では適用範囲を明確に!

上で解説したように雇用形態の類型には法的な定義がありません。

そのため、就業規則を作成する際には、雇用形態の種類、つまり社内の職種の定義を明記しておかなければなりません。

モデル就業規則の適用範囲の例

社労士に依頼せず、就業規則を自社で作成するときに参考になるのは、厚生労働省が示しているモデル就業規則でしょう。

実は、このモデル就業規則の中には、職種の定義がなく、適用範囲のみが以下のように例示されています。

モデル就業規則(適用範囲)
  1. この規則は・・・株式会社の労働者に適用する。
  2. パートタイム労働者の就業に関する事項については、別に定めるところによる。
  3. 前項については、別に定める規則に定めのない事項は、この規則を適用する。

この例では、会社の中の職種として、正社員とパートタイム労働者(アルバイトを含む)の2種類のみが想定され、就業規則を2つに分けることで対応しようとしています。

しかし、必ずしも就業規則を2つに分ける必要はありません

適用する内容がほぼ同じ、例えば勤務時間が同じ、適用される賃金テーブルも正社員とパートで明確に分かれている、となっていれば、就業規則を1つにしておいた方が、実務的にも管理が簡単ですし、修正する場合も1回の修正ですみます。

また、このような運用をしていると、正社員とパートタイム労働者以外の雇用形態、例えば契約社員の場合はどちらの就業規則が適用されるのか、といったことも考えていかなければなりません。

ちなみに、契約社員には正社員タイプとパートタイム労働者タイプがあります。

この場合、どちらの就業規則が適用されるのかという問題が生じます。

なお、モデル就業規則を含め、テンプレートを利用する際のメリット・デメリットについては以下の記事をご参考下さい。

https://worklifefun.net/merit-and-demerit-model-company-rules/

1つの就業規則で適用範囲を変える場合

先程、契約社員の例を出しましたが、勤務時間の形態も今後は多様化します。

特に、今後は、育児や介護を行う社員のために短時間勤務制度の導入が増えていきます。

短時間勤務制度では、1日の所定労働時間が6時間未満になります。労働時間だけ見ると、パートタイム労働者と同じようにも見えますが、扱いは正社員? それともパートタイム労働者? どちらになるのでしょうか?

これは会社が就業規則の中で定めることができます。通常は正社員扱いになるでしょうけど。

ただ、職種の定義を明確にしておかないと適用範囲、つまり適用される労働時間、賃金・手当、(あれば)退職金などが変わってきます。

特に、2交代制、3交代制のようなシフトを組む病院や小売業のような業種では、どの職種にシフト制が適用されるのか、どの職種にどの手当が支払われるのか不明瞭になりがちなので要注意です。

最も金額が大きく、そして明確にしておかないと会社経営に思わぬ影響が生じてしまう退職金の規定を参考までに例示しておきます。

退職金の規定例
会社は、勤続○年以上の従業員(第○条の正社員に限る)が退職したとき、別に定める退職金規程により、退職金を支給する。

この規定例で注目していただきたいのは、対象を「第○条の正社員に限る」と限定していることです。

単に正社員と書いてしまうと、定義が曖昧になってしまう可能性があります。

また、個々の労働者には、労働条件通知書などの活用により、どの職種が適用されるのかを明示しておく、退職金の対象でないのであれば「なし」と明記しておくことで、将来のトラブルを避けることもできます。

https://worklifefun.net/labor-document/

勤務年数にもよりますが、退職金というのは大きな金額になります。

平成25年の厚生労働省の調査によると、大学卒の定年退職金は約2000万円、中小企業に限定した調査として東京都産業労働局労働相談情報センターが平成26年に発表した金額は約1200万円です。

もし、定義や適用範囲が不明瞭で、争えばもらえる可能性があるとわかったら、あなたは会社に要求しませんか?

1000万円を超えているわけです。私なら争う価値があると考えます(^0^)

そして、もしあなたが会社の責任者として、1人当たり1200万円の支払いリスクを抱えた就業規則があったら、そのまま放置しますか?

適用範囲を曖昧にしていた結果、予定していなかった社員に退職金を支払うことになった事例

就業規則の職種の定義・適用範囲を曖昧なまま放置していた結果、会社として支払い対象としていなかった高齢者への退職金の支払いを命じられた例として、以下の裁判例があります。

大興設備開発事件(大阪高裁平成9年10月30日判決)
  • 労働基準監督署に届け出た就業規則は、適用対象を正社員に限定しておらず、高齢者を適用対象とする就業規則も別に制定されていなかった。
  • 就業規則には、「従業員が退職したときは退職金を支給する、ただし勤続3年未満の者については退職金を支給しない」旨の定めがあった。
  • 雇用された当時すでに60歳を超えていたAは、退職後会社に対して退職金の支払を請求した。
  • 会社は、訴訟を提起された後に、正社員を対象とする就業規則、高齢者及びパートタイム従業員を対象とする就業規則の2つを制定し、高齢者及びパートタイム従業員に対しては退職金を支給しない旨の定めをした。
  • 判決は退職金の支払いを命じた。

この裁判で、会社側は、確かに就業規則では分けていなかったけれども、退職金の支給対象としている意図がなかったことを説明したようですが、「就業規則には法的規範性が認められており、その解釈適用に当たって、就業規則の文言を超えて会社の意思を過大に重視することは相当ではない。」と退けられ、退職金の支払いを命じられています。

まとめ

あなたの会社の就業規則は職種の定義、適用範囲が明確になっていますか?

また、就業規則の中に書いていないから安全だ、と思ってもいけません。

確かに一義的には就業規則によって判断されるものですが、さらに実態部分も判断要素に加味されるためです。

つまり、あなたの会社の就業規則が、もし退職金に関する適用範囲が曖昧、または規定されていなかったとしても、実態として長年勤めてくれたパートタイム労働者に対して退職金を支払っているケースがあるのであれば、

  • あなたの会社にはパートタイム労働者に対する退職金制度がある

とみなされる可能性が高くなります。これが実態による判断ということです。

ぜひ、これまでの実態とあわせて、現在の就業規則の内容をチェックしてみてください。

なお、誤解のないように付記しておきますが、パートタイマーに退職金を支払わないことを推奨しているわけではありません。

実際、私のクライアントの多くはパートタイマーに退職金を支払っています。この記事の趣旨は、支払う意図がないなら明確にしておかないと危ないですよ、ということです。

また、就業規則に関する基本的事項は以下の記事で解説していますのでご参考ください。

https://worklifefun.net/company-rules/

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