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従業員への貸付金を賃金と相殺するときの注意点と限度額

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生活資金、住宅ローンなど従業員にも様々な理由があり、会社として福利厚生目的から貸付金のような支援をしたいと考えることもあります。

従業員への貸付金(従業員から見ると前借金)を賃金と相殺(賃金控除)するときには注意が必要です。

従業員への貸付金と賃金の相殺は原則禁止

まず、従業員への貸付金と賃金の相殺は、労働基準法第17条により原則禁止とされています。

労働基準法第17条(前借金相殺の禁止)
使用者は、前借金その他労働することを条件とする前貸の債権と賃金を相殺してはならない。

労働基準法第17条のポイントは労働することを条件とするという点で、例えば、貸付金を返還するまでは退職禁止という措置は許されません。

専門的に言うと、金銭賃貸関係と労働関係を完全に分離することで、金銭賃貸に基づく身分的拘束の発生を防止するための規定ということです。

もちろん、退職後であっても、従業員には貸付金の返還義務はあるわけですから、それは別問題です。

従業員の自己の意思による相殺は可能

以上のように、従業員への貸付金と賃金の相殺は原則禁止ですが、行政通達では原則として労働者の自己の意思による相殺までは禁止されていません

行政通達(昭63.3.14 基発第150号)
法第17条の規定は、前借金により身分的拘束を伴い労働が強制されるおそれがあること等を防止するため「労働することを条件とする前貸の債権」と賃金を相殺することを禁止するものであるから、使用者が労働組合との労働協約の締結あるいは労働者からの申出に基づき、生活必需品の購入等のための生活資金を貸付け、その後この貸付金を賃金より分割控除する場合においても、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合には、本条の規定は適用されない。

従業員への貸付金と賃金の相殺時には控除額に注意

従業員への貸付金と賃金の相殺について、労働者の自己の意思による相殺であれば許されるわけですが、上で「原則として」と書いた理由は、行政通達の中にも、

  • この貸付金を賃金より分割控除する場合においても、その貸付の原因、期間、金額、金利の有無等を総合的に判断して労働することが条件となっていないことが極めて明白な場合

という条件があるためです。なお、この行政通達を拡大解釈しないように注意してください。

労働基準法第17条のポイントは労働することを条件とする貸付金と賃金の相殺はたとえ1円であっても許されないということです

それでは、住宅ローンなど高額な金額の貸付の場合、賃金の相殺、控除額はどのように設定すればよいのでしょうか?

極端な話、貸付後の賃金の支給が毎月ゼロとなってしまうのは間違いなく問題があるでしょう。

そして、労働基準法や行政通達において、従業員への貸付金と賃金を相殺する際の限度額は定められていません。その際に参考になるのが民事執行法第152条(差押禁止債権)です。

民事執行法第152条(差押禁止債権)
次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。 二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権

民事執行法第152条を踏まえると、賃金の1/4を限度に、貸付金と相殺していくのが現実的と考えることができます。

従業員への貸付金と賃金を相殺する際に必要な労使協定

さて、ここまではそもそも従業員への貸付金と賃金を相殺することはできるのか、相殺するとしたらどの程度の金額か、といった解説をしてきました。

しかし、もう1つ注意点があります。

従業員への貸付金と賃金を相殺する際の手続きとして、労働基準法第24条に基づき労使協定が必要になります

賃金には全額払いという原則があり、例外として賃金から控除できるのは、

  • 法令による定めがある場合(税や社会保険など)
  • または労使協定がある場合

のみとされているためです。

労働基準法第24条(賃金の支払)
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(略)また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
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