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就業規則の見直しに関するご依頼を受けるときは、必ず雇用契約書または労働条件通知書も併せて確認しています。
なぜなら、9割以上の会社から同じ雛形を用いた「雇用契約書」という書類が出てきて、ほぼ同じところで間違いが見つかるためです。
ということで、今回は、そもそも雇用契約書とは何なのか、法的な定義、雇用契約書の雛形と記載事項について法的・実務的な観点から解説します。
雇用契約書とは
雇用契約書という言葉はよく聞くと思いますが、雇用契約書はそもそも法的に義務づけられているものではありません。
「雇用」は以下の民法第623条により定義されています。約することによって効力が生ずるわけで、これが雇用契約です。ただ、書面でとは言っていません。
- 民法第623条(雇用)
- 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。
その一方で、労働契約書というのがあります。これは労働契約法第4条を根拠にしており「できる限り書面により」と書面を求めています。
- 労働契約法第4条(労働契約の内容の理解の促進)
-
- 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
- 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
つまり、雇用契約書として一般的に利用されているものは、本来であれば労働契約書という名称の方がふさわしいことになります。ただし、重要なのは名称よりも記載されている項目であり、名称が異なっていても実務上大きな問題があるわけではありません。
雇用契約書の雛形・テンプレート
私が相談者のところで見せていただく「雇用契約書」というタイトルの書類は、9割以上の確率で上のような様式になっています。
この様式は行政が公開している以下の「労働条件通知書」の雛形のタイトルを変えただけのものです。
ちなみに、地域によって異なるのかもしれませんが、ハローワークが雇用保険の手続きの際に「雇用契約書」という名目でもっと簡単な様式を配布しているようです。困ったことに、この様式が後述する項目を満たしていなかったりするのですが。。。
また、多くの会社が利用している雇用契約書は、タイトルの他にもう一点だけ、モデル労働条件通知書と異なる点があります。
それは、使用者と労働者の署名・捺印があるという点です。
契約書ですから双方が了承したということで、後々のトラブルを防ぐためであり、これは一つの工夫です。
つまり、「雇用契約書 雛形」として検索して出てくるものは、そのほとんどが労働条件通知書の雛形に、タイトルを雇用契約書に変更し、署名・捺印欄を加えただけのものということです。
ここで注意しておくべき点は、常に最新の様式を利用する必要があるということです。
社労士に依頼している場合は大丈夫かと思いますが、自社で雇用契約書を準備している場合は様式が古くなっている可能性が高いです。もし、あなたの会社が利用している雇用契約書の様式が平成27年4月以前のものであれば違法状態を放置していることになります。
なお、雇用契約書と労働条件通知書については専門家ですら混同し、署名・捺印の違いだけと理解しているケースもあります。
以前ご質問いただいたことをきっかけにして法的な面からその違いを解説していますので、関心がありましたら以下の記事をご参考下さい。
雇用契約書の記載事項
次に、雇用契約書の記載事項を解説していきますが、使用者と労働者との間で労働条件を確認し合意するという目的のためには、以下の項目を記載しなければなりません。
なお、正社員と正社員以外(パートタイマー・アルバイト・契約社員などの短時間・有期雇用労働者)では項目が若干違います。
必須の記載事項(正社員の場合)
正社員と交わす雇用契約書の必須の記載事項は以下のとおりです。
- 労働契約の期間
- 業務を行う場所、業務内容
- 業務の開始・終了の時刻、残業の有無、休憩時間・休日・休暇など
- 賃金(退職金、賞与等を除く)の決定・計算・支払いの方法など
- 退職・解雇に関する事項
必須の記載事項(短時間・有期雇用労働者の場合)
パートタイマー・アルバイト・契約社員などの短時間・有期雇用労働者と交わす雇用契約書の必須の記載事項は以下のとおりです。正社員の場合と比べて4つの項目(昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無、雇用管理の改善等に関する相談窓口)が増えるため要注意です。
- 労働契約の期間
- 業務を行う場所、業務内容
- 業務の開始・終了の時刻、残業の有無、休憩時間・休日・休暇など
- 賃金(退職金、賞与等を除く)の決定・計算・支払いの方法など
- 退職・解雇に関する事項
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 雇用管理の改善等に関する相談窓口
ただ、繰り返しになりますが、雇用契約書は義務ではありません。そして、雇用契約書の記載事項というのも法的には何も定められていません。
労働者に書面で示すことが義務づけられているのは労働条件通知書であり、記載事項の義務があるのも労働条件通知書です。これは間違えないでください。
なぜ、こんなにしつこく言うのかというと、根拠となる法律を理解しておかないと、法改正等により記載項目が変わったときに混乱してしまうためです。
労働条件通知書の記載項目が変わっても、「当社では労働条件通知書でなく、雇用契約書を利用しているから関係ない」と思ってしまうためです( ← 実際に言われたことがあります・・・)。
平成24年10月に労働基準法施行規則の一部改正により、期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項が絶対的明示事項に含まれるようになりました。
また、平成27年4月施行のパートタイム労働法改正により、パートやアルバイトを雇う際に交付する労働条件通知書の記載項目が一部追加となっています。
つまり、平成27年4月以降に見直していない労働条件通知書(または雇用契約書)があれば、それは古い様式のままになっているということです。
頻繁ではないにしても記載項目が変わることにご注意ください。これまでの内容をまとめると以下の図のようになります。
なお、労働条件の明示義務として求められる項目と、書面で通知しなければならない労働条件通知書の項目にはわずかに違いがあります。上の図では「6.昇給」の部分に網掛けをしていませんよね?
この違いについては以下の記事で図解して説明していますのでご参考下さい。
「雇用契約書がない」は問題ない?
たまに、「当社には雇用契約書がないんですが・・・」と言われますが、それは問題ありません。義務ではないため、違法ではありません。
ただ、労働条件の明示や労働条件通知書の交付を行っていなければそれは違法です。労働基準監督署による行政指導を受け是正を求められることになりますし、罰則として罰金30万円、パートなど短時間・有期雇用労働者の場合は過料10万円も追加されます。
もし労働条件の明示をしていない場合は、すぐに以下の記事を参考に労働条件を明示するようにしてください。
まとめ
たまに、「就業規則があれば雇用契約書または労働条件通知書は不要である」と誤解する人がいますが、それは間違いです。
確かに、行政の見解として、以下の条件を満たせば、就業規則で代替することは認められています。
就業規則に当該労働者に適用される労働条件が具体的に規定されており、労働契約締結時に労働者一人ひとりに対し、その労働者に適用される部分を明らかにしたうえで就業規則を交付すれば、再度、同じ事項について、書面を交付する必要はありません。
ただ、実務的に見て、このようなことを行うのは面倒ですし、書面を残しておく方が後々の「言った」「言わない」トラブルの回避にもなります。
なお、雇用契約書にしろ、労働条件通知書にしろ、就業規則の条件を下回る労働条件は無効になりますし、上回る内容を契約書という形で交わせば、今度はその契約書の内容に拘束されることになります。
名称はともかく、会社の公式な文書になるという点にはくれぐれもご注意ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
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