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一時期流行した「年俸制」ですが、なぜか「年俸制にすれば割増賃金を払わなくてよい」という誤解が蔓延しています。
ちなみに年俸制の読み方にはご注意ください。
年俸制にも割増賃金は必要
年俸とは1年単位で支払われる報酬のことであり、年間の報酬額を決めて契約するのだから、
- 時間外割増賃金は不要で良い
- 年俸の中に割増賃金を含んでいる
と思い込んでいる人が多いのですが、これは間違いす。
まず、1点目についてですが、そもそも労働基準法令の中で年俸制について定められていません。
そのため、年俸制にしたからといって、労働基準法に基づく時間外労働に対する割増賃金の支給義務は、免除されません。
- 創栄コンサルタント事件(大阪地判平成14年5月17日)
- 年俸制を採用することによって、直ちに時間外割増賃金等を当然支払わなくともよいということにはならない。
年俸の中に割増賃金を含むなら明確化が必要
次に、2点目の「年俸の中に割増賃金を含んでいる」というのは、いわゆる固定残業代に関係します。
固定残業代とは、
- あらかじめ時間外の割増賃金を月の賃金に含めて支給する方法
であり、年俸の中に、固定残業代を組み込んでおくこと自体は可能です。
しかし、年俸の中に含まれている固定残業代の額が、何時間分の時間外労働なのかを明確にしておく必要があります。
- 創栄コンサルタント事件(大阪地判平成14年5月17日)
- 割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は、同法同条に違反するものとして、無効と解するのが相当。
例えば、1か月30時間の時間外労働を含めた年俸額なのであれば、月に30時間を超えた時間外労働に対しては、年俸とは別に割増賃金を支給する必要があります。
つまり、これは、月給いくらと決める普通の雇用契約と何ら変わりはなく、別に年俸制だから特別なことは何1つない、ということです。
年俸制の場合の賃金の支給時期
さすがに、年俸制だからといって「年に1回支給すれば良い」と考える人に出会ったことはありませんが、年俸制だろうが、労働基準法第24条第2項は適用されるため、
- 賃金の支払いは毎月1回以上、一定の期日を定めて支払う
ことが義務です。そのため、年俸制の場合は、
- 年俸の総額を12分割にして支払う
- または、賞与を2回支給する場合、14分割にした額を支払う
といった方法で、毎月、一定の期日に支払わなければなりません。
- 労働基準法第24条第2項(賃金の支払)
- 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。
まとめ
こうして見ると、年俸制にするメリットがどの程度あるのかは疑問ですが、労使による賃金交渉という習慣がほぼない中小企業では、年間の報酬額を明確にする行為が定期的に発生するという意味で、年俸制を導入するメリットはあるのかもしれません。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
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