※当サイトはリンクに広告ページが含まれている場合があります
突然ですが、法令と法律の違いを説明できますか?
最近、様々な業種の経営者の方々と交友関係が広がり話をすることが多くなってきました。ただ、法律 = 難しい、と思っている方が多く、もったいないと感じます。
今回は、基本中の基本である法令と法律の違い、併せて政令と省令の違いについて解説します。
法案と法律の違い
まずは、簡単なところから、ということで、法案と法律の違いを説明します。
法律というのは、国会(衆議院と参議院)で審議され、可決されることで効力を持ちます。
つまり、可決される前のものは効力がない状態であり、あくまで「案」、だから法案(法律案)です。法案は、行政や国会議員が提出します。ここまでは中学生のときに習ったはずです。
上ではわかりやすく説明しましたが、この流れは憲法によって以下のように定められています。
- 日本国憲法第59条
-
- 法律案は、この憲法に特別の定のある場合を除いては、両議院で可決したとき法律となる。
- 衆議院で可決し、参議院でこれと異なつた議決をした法律案は、衆議院で出席議員の3分の2以上の多数で再び可決したときは、法律となる。
- 前項の規定は、法律の定めるところにより、衆議院が、両議院の協議会を開くことを求めることを妨げない。
- 参議院が、衆議院の可決した法律案を受け取つた後、国会休会中の期間を除いて60以内に、議決しないときは、衆議院は、参議院がその法律案を否決したものとみなすことができる。
法律と法令の違い
次が、本題の「法律」と「法令」の違いです。
法律の下には政令や省令があり、まとめると以下のようになります。
- 法律:国会(衆参両議員)の議決を経て制定されるもの
- 政令:内閣が制定する命令
- 省令:各府省の大臣が発する命令
- 通達:行政内部の命令
図示すると以下のようになります。憲法があって、国会(法律)、内閣(政令)、各府省(省令)となります。そして、法律・政令・省令をあわせて「法令」と言います。
例えば、労働基準法といえば法律になりますし、労働基準法令といえば、労働基準法、労働基準法施行令(政令)、労働基準法施行規則(省令)など関係する規則のすべてを含むわけです。
ちなみに、関係する法律などの規則を引っくるめて関係法令という言い方をしますが、関係法律とは言いませんのでご注意を。
政令と省令の違い
政令と省令の違いについて、改めて整理すると以下のようになります。
- 政令:内閣が制定する命令
- 省令:各府省の大臣が発する命令
政令の根拠となるのは、日本国憲法です。政令は内閣が制定します。内閣は厚生労働省など様々な府省によって構成されています。
- 日本国憲法第73条
-
内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
六 この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
- 日本国憲法第74条
- 法律及び政令には、すべて主任の国務大臣が署名し、内閣総理大臣が連署することを必要とする。
省令の根拠となるのは、憲法の下に置かれる法律・国家行政組織法です。各省の大臣は、法令の施行又は法令の特別の委任に基づいて省令を発します。
- 国家行政組織法第12条
- 各省大臣は、主任の行政事務について、法律若しくは政令を施行するため、又は法律若しくは政令の特別の委任に基づいて、それぞれその機関の命令として省令を発することができる。
実務は法律だけ読んでもわからない
ここまで「法令」の構造を解説してきましたが、以降は、実務との関係として、賃金の支払い方法に関する大原則である「賃金支払い5原則」を用いて、解説します。
労働基準法第24条では、使用者は以下の原則により賃金を支払わなければならないとされています。
- 通貨で
- 直接
- 全額を
- 毎月1回以上
- 一定期日に
- 労働基準法第24条(賃金の支払)
-
- 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について・・・(略)・・・賃金の一部を控除して支払うことができる。
- 賃金は、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第八十九条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。
これが法律の条文です。この条文だけを読むと、実際に賃金をもらっている方の多くは不思議に感じますよね?
昔は、賃金の手渡しが当たり前でしたが、今は金融機関への振込が多いはずです。しかし、労働基準法には「直接労働者に・・・支払わなければならない」と書いてあり、この部分だけを読むと、会社は賃金を直接労働者に手渡ししなければならないことになっています。
それでは多くの企業は、法律を厳密に解釈すると、法違反をしているのでしょうか?
法令=法律と関係する諸々の規制
法律だけを読むと???ということがあるかもしれませんが、大半の場合、法律の下にある施行規則の中で具体的・実務的な方法が定められています。
先程例示した労働基準法第24条の中に「厚生労働省令」とありましたが、この省令とは施行規則など「規則」という名称になっています。
今回の賃金の振込については、労働基準法施行規則第7条の2によって認められています。そのため、法違反にならないわけです。
- 労働基準法施行規則第7条の2
- 使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払について、当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込みによることができる。
まとめ
今回は、法律と法令の違いについて解説しました。一度理解すれば、それほど難しい話ではないはずです。
もちろん、普通に生活をしている中で、法律の定めなのか、政令・省令なのかといった点を意識することはなく、意識する必要もないでしょう。
ただ、人を雇用し、人事労務管理を行う際には法令を熟知し、いかに自由に経済活動を展開できるかといった点は重要なポイントになります。スポーツでも、ルールを熟知することは重要であり、いかにルールを味方につけるかが勝負の秘訣と言われますよね?
スポーツ選手がコーチをつけるように、人事労務であれば社労士をコーチ(顧問)につけるといった状態がもっと浸透していけば良いと考えています。
もちろん、ヤブ医者ならぬ「ヤブ社労士」に引っかからないようにご注意ください。
なお、抑えておきたい法律用語は多々ありますが、社労士でもよく間違えているのが「規程」と「規定」の使い方です。以下の記事で詳しく解説していますので、興味があればご参考ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
過去の配信分は公開しません。
情報が必要な方は、いますぐ以下のフォームから購読の登録をしてください。購読して不要と思ったら簡単に解除できますのでご安心ください。