※当サイトはリンクに広告ページが含まれている場合があります
最近、ある経営者から、雇用契約書と労働条件通知書の違いを聞かれました。確かに用語として似ていますし、利用状況も同じなのですが、専門的に言えば、根拠となる法令が異なるため、全くの別物となります。
最初は、検索して参考になる記事を送ればOK、と安易に考えていたのですが、「労働条件通知書 雇用契約書」で検索したところ、違いを明確に説明している記事がありません・・・
いくつか記事を見てみたところ、説明できないというより、そもそも理解できていない人が多いようです。ひどい記事になると、どっちを利用しても構わないとさえ書かれています・・・😵。
ということで、明確に説明できない専門家が多いようなので、今回は、労働条件通知書と雇用契約書の明確な3つの違いについて解説します。
働く = 労働契約
労働者と会社が契約をすることで、労働者は労務を提供し、会社はその対価として賃金を支払います。これが働くということです。
逆に言えば、労務の提供がなければ賃金を支払う必要がない、これをノーワーク・ノーペイ(No Work No Pay)の原則と言います。これが基本的な考え方です。
つまり、働くというのは、会社と労働者の間の立派な契約であり、だからこそ法律は、後々のトラブルを防ぐために、できる限り書面という言い方をしていますが、労働契約を結ぶことを求めています。
- 労働契約法第4条(労働契約の内容の理解の促進)
-
- 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
- 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
労働条件通知書と雇用契約書の違い
労働条件通知書は、法的根拠について後述しますが、使用者による一方的な通知です。
以下の記事で解説したとおり、使用者は労働条件の内容について書面で明示することが義務づけられています。
一方、雇用契約書は、使用者と労働者双方で押印又は署名を行い、契約を締結するものです。
ただ、雇用契約書の場合、使用者・労働者双方で押印又は署名を行うため、双方で合意した内容であることが明確になります。
労働条件通知書と雇用契約書の法的根拠
労働条件通知書は、労働基準法第15条が根拠です。
- 労働基準法第15条(労働条件の明示)
-
- 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。
- 前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
- 前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。
そして、雇用契約書、厳密に言えば労働契約書となりますが、労働契約法第4条が根拠です。
- 労働契約法第4条(労働契約の内容の理解の促進)
-
- 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
- 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。
根拠法が違うため、労働条件通知書を交付し、雇用契約書を締結しても構いません。その場合、雇用契約書の記載項目は任意になります。
ただし、労働条件通知書の内容を含む雇用契約書を交わし、労働条件通知書を交付しないのであれば、労働条件通知書の記載事項を雇用契約書の中に含めておく必要があります。
なぜなら、労働条件通知書の交付をしていなければ、労働基準法第15条違反(後述のとおり罰則あり)になってしまいますので。
労働条件通知書は罰金30万円、雇用契約書は罰金なし
労働条件通知書は、強行法規である労働基準法を根拠としています。
そのため、労働基準法違反には基本的に罰則があり、労働条件通知書の未交付の場合は、原則30万円の罰金、正社員以外のパートや有期雇用労働者に未交付の場合は、10万円の過料となります。
ちなみに、なぜかパートやアルバイトには労働条件の明示が不要と思っている会社がありますが、大きな間違いです。
以下の記事で解説していますが、むしろ正社員以上に明示しなければならない項目が多いのでご注意ください。
関連:【罰金あり】パート・アルバイトの労働条件通知書に必要な記載事項
その一方、雇用契約書は、労働契約法を根拠としています。
労働契約法にはそもそも罰則がありませんので、雇用契約書を交わさなくても罰則はありません。
まとめ
最後に、雇用契約書と労働条件通知書の違いをまとめると、以下の3点です。
- 労働条件通知書は会社からの一方的な通知、雇用契約書は契約という合意
- 労働条件通知書と雇用契約書は、根拠となる法律が異なる
- 労働条件通知書は罰金あり、雇用契約書は罰金なし
なお、雇用契約書または労働条件通知書というのは個々の労働者との契約ですが、その共通部分をまとめ、すべての労働者に適用されるのが就業規則です。
就業規則は、人事労務に関する土台であるにも関わらず、「簡単に」作ってしまい、後になってトラブルになり、当事務所にご相談が来る例が後を絶ちません。就業規則のよくある間違い・中小企業の実態などについて以下の記事をご参考ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
過去の配信分は公開しません。
情報が必要な方は、いますぐ以下のフォームから購読の登録をしてください。購読して不要と思ったら簡単に解除できますのでご安心ください。