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年次有給休暇の時効は2年であり、余った年休は翌年に繰り越されます。ただこの繰越ルールに関する悪質めいたアドバイスには疑問があります。
年次有給休暇の時効
年次有給休暇の時効は2年です。
労働者の権利に関する時効は労働基準法第115条により定められており、退職手当の請求権は5年間ですが、それ以外の請求権は2年間とされています。
年次有給休暇の付与の要件を満たしている、そして1日も年次有給休暇を利用していないという前提で、わかりやすく説明すると以下のようになります。
- H29/4/1入社の場合、H29/10/1に10日間の年次有給休暇が付与
- H30/10/1に11日間の年次有給休暇が付与(合計21日間 = 10 + 11)
- H31/10/1に12日間の年次有給休暇が付与、ただしH29/10/1付与の10日が消滅(合計23日間 = 21 + 12 - 10)
- 労働基準法第115条(時効)
- この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
年次有給休暇の繰越ルールと消化の順番
先程の例を用いて、H31/9/30までに5日間の年休を消化した場合を考えてみます。
余っている年次有給休暇の日数は、H29/10/1に付与された10日間、 H30/10/1に付与された11日間の合計21日間です。
(1) 繰越分から消化する場合
H29/10/1に付与された10日間から5日間を消化したと考える場合、H31/10/1の年次有給休暇の日数は、以下の計算により23日になります。
- H29/10/1に10日間の年次有給休暇が付与
- H30/10/1に11日間の年次有給休暇が付与(合計21日間 = 10 + 11)
- H29/10/1に付与された10日間から5日を消化(合計16日間 = 10 - 5 + 11)
- H31/10/1に12日間の年次有給休暇が付与、ただしH29/10/1付与の残り5日が消滅(合計23日間 = 16 +12 - 5)
(2) 新規付与分から消化する場合
H30/10/1に付与された11日間から5日間を消化したと考える場合、H31/10/1の年次有給休暇の日数は、以下の計算により18日になります。
- H29/10/1に10日間の年次有給休暇が付与
- H30/10/1に11日間の年次有給休暇が付与(合計21日間 = 10 + 11)
- H29/10/1に付与された10日間から5日を消化(合計16日間 = 10 + 11 - 5)
- H31/10/1に12日間の年次有給休暇が付与、ただしH29/10/1付与の残り10日が消滅(合計18日間 = 16 +12 - 10)
このように新規に付与された年次有給休暇から消化すると、先に付与された10日間がまるまる時効で消滅してしまうため、繰越分から消化する場合に比べて、従業員に残る年次有給休暇の日数は5日間少なくなります。
年次有給休暇の正当な消化の順番
年次有給休暇の消化の順番について、労働基準法では特段の定めがありません。
そのため、会社と従業員が双方で合意をしているのならば(1)(2)のどちらでも問題はありません。もちろん、その扱いを明確にしておくために就業規則に定めておくべきというのは、私も同意見です。
しかし、このような場合、繰越分から利用すると考えるのが一般的ではないでしょうか?
正直に言えば、私自身、この年次有給休暇の消化の順番について意識したことはなかったのですが、質問を受けて調べてみると、弁済の充当に関する民法第489条を引用して、新規付与分から消化する方法を紹介している社労士もいます。
ただ、そもそもの疑問として、年次有給休暇の日数を減らすことで、誰が喜ぶのか、というより誰か得することはあるでしょうか?
なお、専門家であれば必ず参照する菅野和夫先生の「労働法(第11版補正版)」では、以下のように解説されています(P544)。
労働者が繰越し年休と当年度の年休の双方を有する場合は、労働者の時季指定権行使は繰越し分からなされていくと推定すべきである(弁済の充当に関する民489条2号を引用して、当年の年休の時季指定と推定すべしとの反対説があるが、同号によるべき必然性はない)。
まとめ
法律で認められた権利なので年次有給休暇はきちんと利用してください、でも働くときは一生懸命に、そして一緒に会社を発展させましょうというのが、社長・従業員に関わらず、会社という組織で働く人たちの本来のあるべき姿でしょう。
年次有給休暇の日数を減らして喜ぶ経営者やそんなアドバイスをしている社労士がいるとしたら、私は関わりたくないですね。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
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