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冒頭からいきなり質問しますが、
- 割増賃金の計算で、なぜ年間休日数が重要なのかわかりますか?
賃金計算をしたことがない人だと、全然関係ないと思ってしまうかもしれませんが、実は関係大、すごく重要なのです。
今回は、多くの企業が間違いがちな「割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金の計算方法」について解説します。
割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金とは?
まずは、割増賃金の計算方法の基本的からおさらいをしておきます。
割増賃金は、労働基準法第37条に基づき、以下のように計算されます。
- 割増賃金 = 通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額 × 割増率
ここでポイントとなるのが
- 通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額
であり、具体的には、労働基準法施行規則第19条第1項に規定されています。
- 労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
- 使用者が、労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内で割増賃金を支払わなければならない。
- 労働基準法施行規則第19条第1項(一部表現を変更)
- 通常の労働時間又は通常の労働日の賃金の計算額は、次の各号の金額に時間外労働、休日労働または深夜労働の時間数を乗じた金額とする。
これらをまとめると、以下の計算式になります。
- 通常の労働時間又は通常の労働日の賃金 = 次の各号の金額 × 時間外労働、休日労働または深夜労働の時間数
今回解説するのは、上の「次の各号の金額」の部分、簡単に言えば、割増賃金の計算の基礎となる賃金の1時間当たりの賃金額です。
つまり、上の計算式をわかりやすくすると、以下のようになります。
- 通常の労働時間又は通常の労働日の賃金
= 割増賃金の計算の基礎となる賃金の1時間当たりの賃金額
× 時間外労働、休日労働または深夜労働の時間数
先程の労働基準法施行規則第19条第1項には続きがあり、「時給制」「日給制」「月給制」など賃金の支給方法によって計算方法が具体的に定められています。
労働基準法は最低基準を定めた法律であるため、法律により計算される金額を下回ってしまうと違法となる点にご注意ください。
時給制の計算方法
時給制は簡単です。そもそも「1時間当たりの賃金」を示すのが時給制ですから。
- 労働基準法施行規則第19条第1項第1号
- 時間によって定められた賃金については、その金額
日給制の計算方法
日給制の場合は、1日の所定労働時間数で割ります。
ただし、日によって所定労働時間数が異なる場合には、1週間における1日平均所定労働時間数で割った金額になります。
- 労働基準法施行規則第19条第1項第2号
- 日によつて定められた賃金については、その金額を一日の所定労働時間数(日によつて所定労働時間数が異る場合には、一週間における一日平均所定労働時間数)で除した金額
週給制の計算方法
週給制の場合は、週における所定労働時間数で割ります。
ただし、週によって所定労働時間数が異なる場合には、4週間における1週当たりの平均所定労働時間数で割った金額になります。
- 労働基準法施行規則第19条第1項第3号
- 週によつて定められた賃金については、その金額を週における所定労働時間数(週によつて所定労働時間数が異る場合には、四週間における一週平均所定労働時間数)で除した金額
月給制の計算方法
多くの日本企業が、正社員に月給制を採用しているでしょう。そのため、重要なポイントです。
月給制の場合は、月における所定労働時間数で割ります。
ただし、月によって所定労働時間数が異なる場合には、1年間における1月当たりの平均所定労働時間数で割った金額になります。
土日祝日に関係なく、1か月単位の変形労働時間制を採用し、1月当たりの所定労働日数・所定労働時間数を固定させていれば、問題にはなりません。
しかし、多くの企業では、土日など曜日によって休日を決めています。
その場合、月によって所定労働日数、結果として所定労働時間数が変わるため、以下の計算式から、1年間における1月当たりの平均所定労働時間数を算出しなければなりません。
記事の冒頭で、
- 割増賃金の計算で、なぜ年間休日数が重要なのかわかりますか?
と質問しましたが、これが回答です。そして多くの企業がこの部分を間違えています。
就業規則の割増賃金の計算方法をきちんと定めていますか? 毎月の所定労働日数が異なるのに、その月の所定労働日数で計算していませんか?
- 労働基準法施行規則第19条第1項第4号
- 月によつて定められた賃金については、その金額を月における所定労働時間数(月によつて所定労働時間数が異る場合には、一年間における一月平均所定労働時間数)で除した金額
旬給制の計算方法
旬給制というのはあまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、月給や週給以外の「一定の期間ごとに支払われる賃金」のことで、半月給などがあります。
旬給制の場合、日給制、週給制、月給制に準じて算定することが求められており、行政通達(昭23.4.17基収第1077号)では
- 期間における所定労働時間数が異なる場合には、1か月、1年等の一定期間における平均所定労働時間数をもって除すること
とされています。
- 労働基準法施行規則第19条第1項第5号
- 月、週以外の一定の期間によつて定められた賃金については、前各号に準じて算定した金額
請負給制の計算方法
出来高払制などの請負給の場合は、賃金算定期間、賃金締切日がある場合には賃金締切期間で割ります。
なお、労働基準法第27条の保障給も請負給の一種になるため、この方法を用いて計算することとされています。
- 労働基準法第27条(出来高払制の保障給)
- 出来高払制その他の請負制で使用する労働者については、使用者は、労働時間に応じ一定額の賃金の保障をしなければならない。
- 労働基準法施行規則第19条第1項第6号
- 出来高払制その他の請負制によつて定められた賃金については、その賃金算定期間(賃金締切日がある場合には、賃金締切期間、以下同じ)において出来高払制その他の請負制によつて計算された賃金の総額を当該賃金算定期間における、総労働時間数で除した金額
日給制や週給制など混在している場合の計算方法
日給制や週給制など、2つ以上の賃金の支払方法が混在している場合は、それぞれの計算式により算出し、最後に合計しなければなりません。
- 労働基準法施行規則第19条第1項第7号
- 労働者の受ける賃金が前各号の二以上の賃金よりなる場合には、その部分について各号によつてそれぞれ算定した金額の合計額
その他の計算方法
これまで説明してきた賃金の支払方法以外については、行政通達(昭29.5.17基収第772号)では、
- 月によって定められた賃金とみなし、月給制の方法によって算出する
とされています。
- 行政通達(昭29.5.17基収第772号)
- 休日手当(休日労働について支払われる割増賃金ではなく、所定休日に労働すると否とにかかわらずその日について支払われる賃金)その他、上記に含まれない賃金は、これを月によって定められた賃金とみなし、月給制の方法によって算出する。例えば、勤務を要しない時間に支払われる中休み手当は、この方法による。
まとめ
「給与計算ソフトを使っているので大丈夫」という経営者や人事労務担当者が多いのですが、それは間違いです。
というより、以前は私自身も大丈夫だろうと思っていたのですが、実際に企業のM&Aの場面で人事労務DDをして驚きました。
- 実際には月の所定労働日数が異なるのに、手間を省くために、ソフトには22としか入れていない
という会社が多かったのです。割増賃金の計算に必要という認識がなかったのでしょう。
給与計算ソフトは正しく使えば、正しく計算してくれます。
しかし、間違って入力すれば、ソフトは延々と間違った計算をし続けるだけ、つまり無知な人の問題ということです。
「残業代なんか払うつもりはない」という悪質な企業であれば、一斉に未払い残業代請求を受けて、世の中から淘汰されればよいと個人的に思っていますが、「払っているつもりだったのに間違っていた」となるのは気の毒です。
日本企業は手当の種類が多い傾向にあります。賃金制度の設計に際しては、割増賃金のことを考えて精査しておかなければ、後々未払い賃金を請求されるリスクを抱えることになります。
この機会に、就業規則の賃金に関する規定の確認、そして実態との整合性を確認しておきましょう。
なお、今回は「割増賃金の基礎となる1時間当たりの賃金」を解説しましたが、実は、他の部分でも多くの企業が間違っているポイントがあります。
以下の記事で解説していますのでご参考ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
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