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朝から晩まで手続きや問い合わせに追われ、気づけば専門家ではなく「作業員」になっている。業務を増やすほど忙しくなるのに、事務所の価値が上がっている実感はない。
もしあなたがそう感じているなら、足りないのは努力ではなく「整理」かもしれません。
私の事務所経営の原点になった1冊が「佐藤可士和の超整理術」です。
出会ったのはシンガポールで働いていたときで、当時はまだ国家公務員でしたが、読んだときは衝撃を受けました。それ以来、何度も読み返しています。
本記事では、この本から学んだ「徹底的に整理すること」「シンプルに徹すること」を、一人社労士事務所の経営にどう活かしてきたかを紹介します。
整理術の基本
同書の推奨する整理術は、レベル1からレベル3までの3段階に分けられています。
- レベル1:空間の整理術
- レベル2:情報の整理術
- レベル3:思考の整理術
整理術とは、いかにプライオリティ(優先順位)をつけ、本質的な部分を追求するかということです。
整理術とは、整理のための整理ではなく、快適に生きるための本質論。
デスク周りなどの空間から仕事上の問題、人間関係に至るまであらゆる場面に応用できるのです。
優先順位をつけるということは、裏を返せば「優先しないもの」を決めることです。私がこの本から学んだ最も大きなことは、整理とは手放すものを決めることだという点でした。
レベル1 空間の整理:手ぶら通勤から「1台に集約」へ
始めやすいのは、レベル1の空間の整理術です。
空間の整理術とは、身近なカバンの中身の整理から、デスク周りなど物理的な部分の整理を示します。
同書の中では以下のように記されています。
- カバンの中身を整理し、本当に必要なものだけを厳選した結果、手ぶらで通勤しても構わないことに気づいた
- 手ぶら通勤をはじめたら、信じられないほどの開放感を得た
私も日本に帰国してから「手ぶら通勤」を実践しました。当時は片道1時間半もの通勤時間で、手ぶら状態に不安はありつつも、持ち物を減らした開放感は想像以上で病み付きになりました。
この感覚は、独立した今の仕事環境にもつながっています。
- 書類は原則ペーパーレス
- メインの仕事道具はノートパソコン(MacBook Air)1台に集約
- フォルダは細かく分けず、ファイル名のルールと検索で探す
ポイントは、完璧に分類しようとしないことです。分類に悩む時間そのものが無駄であり、必要なのは「すぐに見つかる」シンプルな仕組みです。
レベル2 情報の整理:頭の中を空っぽにする
レベル2は情報の整理術です。
レベル1の空間の整理術を実践するには、1つ1つのモノに対してプライオリティをつけていくことが必要です。
それを情報にも応用していくという考え方で、GTD(Getting Things Done)の「頭の中を空っぽにして、やるべきことを外部のシステムに預ける」という考え方とも共通しています。
公務員時代、中間管理職として多くの厄介事を抱え、頭がパンクしそうになっていた時期がありました。そのとき、やるべきことをすべてメモ帳に書き出して頭の外に追い出したことで、やはり大きな開放感を得たことを今でも覚えています。それ以来、社労士として開業してからもこの方法を続けています。
また、情報の扱い方も可能な限りシンプルにしています。
業務の文書はほぼすべてテキストファイル(Markdown)で作成し、検索・置換で必要な情報にすぐたどり着けるようにしています。
レベル3 思考の整理:自分が提供できる価値に絞る
レベル3は思考の整理術です。
私の事務所経営に最も大きな影響を与えたのが、このレベル3でした。
情報が溢れ、できることが無数にある時代だからこそ、本質的な部分のみを抜き出す作業が欠かせません。
これを社労士事務所の経営に当てはめると、自分自身が本当に提供できる価値は何かという問いになります。
社労士業務を絞る
社労士の業務は幅広く、社会保険・労働保険の手続き業務、給与計算、助成金など、引き受けようと思えばいくらでも引き受けられます。
しかし、何でも引き受けていては、一人事務所の時間はすぐに埋まり、専門家としての価値を磨く時間がなくなってしまいます。
私が自分自身に問い続けたのは「自分にしか提供できない価値は何か?」ということでした。
厚生労働省で労働基準法・労働安全衛生法の政策立案に携わった経験を有する私にとって、最も価値を提供できるのは、就業規則の作成・修正と労務監査です。
そこで、手続き業務・給与計算・助成金業務は「やらない」と決めたのです。
Not To Doリストから「しないこと5か条」へ
業務を絞るにあたって役立ったのが、Not To Doリストです。
「やるべきこと」のリストを作る人は多いですが、「やらないこと」のリストを作る人はあまりいません。私は、やりたくないこと、やるべきではないと思うことを、思いつく限り箇条書きにしていきました。
最初は数多くの項目が並びましたが、それを何度も見直し、優先順位をつけて整理していった結果、生まれたのが事務所のWebサイトにも掲載している「しないこと5か条」です。
まさに整理術のレベル3を、自分の経営方針に当てはめた作業だったと言えます。
やらないことを決めると迷いがなくなります。
依頼を引き受けるかどうかの判断が容易になり、事務所のWebサイトでも何をして何をしないかを明確に伝えられるため、合わない依頼が自然と減っていった経緯については「一人社労士事務所のほどほど経営術」に書いたとおりです。
整理を忘れたときの失敗
ただ、このように偉そうなことを書いている私も、一度この原則を見失ったことがあります。
開業当初、ブログのアクセス数が伸びていくことが楽しくなり、いつの間にか「PVを増やすこと」自体が目的になってしまいました。その結果、届いたのは理想の顧客からの相談ではなく、従業員個人からの無料相談ばかり・・・。その対応に追われ、本来の業務に支障が出るほどでした。
手段が目的にすり替わったのは、優先順位の整理を怠ったからです。この失敗があったからこそ、「何のためにやるのか」「誰に価値を届けるのか」、一度作成したら終わりではなく、常に整理し直すことの大切さを身をもって学んだ次第です。
整理の行き着いた先:「ほどほど」で満足できる価値観
徹底的に整理し、シンプルに徹した結果、私がたどり着いたのは「ほどほど」で十分満足できるという価値観でした。
同業者の「顧問先100社突破!」「従業員10名体制!」という話を聞くと、焦りや不安を感じることがあるかもしれません。しかし、規模を追うことは、多くの選択肢の中の1つに過ぎません。
私にとっての「ほどほど」とは、時間の長さや売上の大きさではなく、自分が満足できる働き方かどうかという基準です。
自分が提供できる価値に集中し、やらないことを決め、その範囲で質を高めていく。他人の基準ではなく自分の基準を持てたことで、他の社労士事務所と比べるといった気持ちがまったくなくなりました。
伝え方もシンプルに
当時、この本で私が感じた最もすごいところは、この本自体がまるで1つのプレゼンのように理路整然と構成されている点です。数多くの本を読んできましたが、この本ほどすっきりした読後感を味わったことはありません。
文章を書くとき、プレゼンをするときなど、思考を言語化する上で、いかに相手にポイントを伝えることができるかが勝負になります。
リップサービスも含まれていると重々承知していますが、顧問先やセミナーの参加者から「説明がわかりやすい」と言っていただけるのは、伝える前に、伝えるべきことを整理しているからだと思います。
なお、文章力向上に役立つ本については以下の記事で紹介しています。
関連:文章力の向上に絶対オススメ「入門 考える技術・書く技術」
まとめ
「佐藤可士和の超整理術」から私が学んだのは、整理とは優先順位をつけて手放すものを決めること、そしてシンプルに徹することの大切さです。
- 空間の整理:持ち物と仕事道具を最小限にする
- 情報の整理:頭の中を空っぽにし、すぐ見つかる仕組みを作る
- 思考の整理:自分が提供できる価値に絞り、やらないことを決める
忙しさから抜け出したいなら、新しいことを始める前に、まず「やらないこと」を書き出してみてください。それが、規模を追わずに質を高める事務所経営の第一歩になります。

この整理術を、一人社労士事務所の経営方針・業務設計・集客にまで落とし込んだ全体像は、拙著「一人社労士事務所のほどほど経営術」にまとめました。事務所の「しないこと5か条」も本書で紹介しています。
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そんな想いから、少しでも社労士業界全体のレベルアップに貢献できればと考えています。
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