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顧問先からの質問に丁寧に答えたつもりなのに、「結局どうすればいいんですか?」と聞き返される。ブログを書いても、なかなか反応がない。生成AIに文章を作らせてみたものの、どこか伝わらない。
もしあなたがそう感じているなら、見直すべきは知識の量ではなく「書き方」かもしれません。
社労士の仕事を振り返ってみると、顧問先への回答メール、就業規則、労務監査の報告書、Webサイトやメルマガでの発信など、成果物の多くは文章です。どれだけ法令に詳しくても、文章で伝わらなければ、専門家としての価値は相手に届きません。
この記事では、私が文章の「型」を学んだ1冊「入門 考える技術・書く技術」と、それを社労士の実務にどう活かしているかを紹介します。
「お前の書く文章は幼稚だ」と言われた1年目
最初に、私が文章にこだわるようになった経緯をお話しします。
大学卒業後、厚生労働省に入省した1年目、上司から「お前の書く文章は幼稚だ」とよく叱られました。A4一枚の文書で5回以上やり直しを求められたこともあります。
国家公務員の仕事は幅広いものですが、共通して要求されるスキルの1つが文章力です。
法令や通達は、文章によって国民や現場に内容を周知するものであり、読み手によって様々な解釈を生み出す文章を書くことは論外です。
思い返すと、他人の文章を何度も修正することは、自分で一から書くよりもずっと大変なことです。今となっては根気強く修正を求めて鍛えてくれた上司には感謝しかありません。
国家公務員時代に鍛えられたおかげで、私はそこそこの文章力はあった方だと思います。ただ、今となって思うのは、私が10年以上の役所時代に培ってきたのは、役所流の独特な文章だったのです。
私の書く文章は一般的なのか・・・社労士として独立後、そんな問題意識を持ちながら出会ったのが、今回紹介する「入門 考える技術・書く技術」です。
「入門 考える技術・書く技術」とは
「入門 考える技術・書く技術」は、日本人向けのロジカルライティングの入門書です。
著者は、長年読み継がれているバーバラ・ミントの「考える技術・書く技術 - 問題解決力を伸ばすピラミッド原則」の翻訳者である山﨑康司氏です。原著の考え方をもとに、以下のような日本語特有の問題を踏まえて書かれた、まさに日本人のための実践ガイドとなっています。
- 日本語の文章の多くは主語が省略されている
- 接続詞があいまいで、文と文の関係がわかりにくい
文章を作成する上で押さえておきたい3つのポイント
本書のエッセンスを、私なりに3つにまとめると以下のとおりです。
- 常に「読み手」を想定する
- 読み手が何を知りたいのか(読み手の疑問)から考える
- 結論を先に書く
- 一番伝えたいメッセージを頂点に置き、その下に根拠を並べる(ピラミッド構造)
- 根拠は漏れなくダブりなく(MECE)
- 根拠をグループに分け、抜けや重複がないかを確認する
自分の頭の中で考えるロジカルシンキングと異なり、ロジカルライティングは常に「読み手」が存在する点が重要です。
文章を書く前に構造を考える、という順番を身につけるだけで、文章は見違えるほど伝わりやすくなります。
社労士の実務で活かす例
ここからは、本書の考え方を一人社労士の実務にどう活かしているかを紹介します。
1. 顧問先への回答メール:結論→根拠→対応
最も効果を実感しやすいのが、顧問先からの相談に対する回答メールです。
社労士は法令に詳しいがゆえに、つい条文の解説から書き始めてしまいがちです。しかし、顧問先が知りたいのは「結局どうすればいいのか」です。
顧問先から次のような質問を受けたとします(簡単な質問内容ですがあくまで例です)。
繁忙期にも関わらず、従業員から年次有給休暇の申請がありました。忙しいので拒否することにし、別の日にしてもらってもいいでしょうか?
良くない回答例
年次有給休暇については、労働基準法第39条において、使用者は労働者の請求する時季に有給休暇を与えなければならないとされています。ただし、同条第5項ただし書きにより、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができるとされており、これを時季変更権といいます。この「事業の正常な運営を妨げる場合」については……
法律の説明としては間違っていませんが、読み手は最後まで読まないと答えがわかりません。
良い回答例
結論から申し上げると、「忙しい」という理由だけで別の日に変更してもらうことは難しいです。
理由は以下の2点です。
- 会社が時季を変更できるのは「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます(労働基準法第39条第5項)
- 単に忙しいというだけでは足りず、代わりの人員を確保するなど、会社として配慮を尽くしたかどうかも問われます
対応としては、まず代替要員の確保やシフトの調整ができないかをご検討ください。それでも難しい場合は、ご本人と相談のうえ、拒否するのではなく、別の日への変更をお願いするという形でご対応ください。
結論 → 根拠 → 会社が取るべき対応の順に並べるだけで、同じ内容でもずっと伝わりやすくなります。
2. 情報発信:書く力が集客の土台になる
一人社労士事務所にとって、Webサイトやブログ、メルマガでの発信は、営業をせずに顧客と出会うための重要な手段です。
私の場合、ブログで書き続けた記事がきっかけとなり、専門雑誌への執筆依頼が続くようになりました。それが連載になり、合計で100回を超える執筆回数となり、今年は「一人社労士事務所のほどほど経営術」という書籍を出版する機会にも恵まれました。
また、Webサイトから就業規則の作成・見直しの依頼も受けています。
それもこれも、すべては私が書き続けていた文章がきっかけです。
情報発信をする上で、まず「誰に読んでほしいのか」「読み手は何に悩んでいるのか」を考えることが出発点になります。
これは本書で繰り返し強調されている「読み手を想定する」ことそのものです。
関連:なぜ社労士にWebサイトが必要か——7割が持っていない今こそ差別化のチャンス
生成AI時代こそ「構造を考える力」が問われる
最近では、生成AIを使えば、それらしい文章を一瞬で作れるようになりました。下書きや言い回しの調整にAIを使うことは、一人社労士事務所の業務効率化にとって大きな武器になります。
しかし、AIに任せられるのは「文章を書く」部分です。
- この文章は誰に向けたものか
- 結論は何か
- その根拠に抜けや重複はないか
といった構造を決め、出力された文章が正しいかを判断するのは、専門家である人間の仕事です。AIへの指示(プロンプト)も、結局は「読み手」であるAIに伝わる文章を書く作業と言えます。
AIが普及するほど、本書で学べる「考える技術」の価値はむしろ高まっていくと感じています。
まとめ
「入門 考える技術・書く技術」から学べるのは、単なる文章のテクニックではなく、読み手を想定して考えを組み立てる技術です。
社労士の価値は、文章を通じて相手に伝わります。日々の回答メール1通から、本書の考え方を試してみてください。

なお、伝える前に「伝えるべきことを整理する」という考え方については、以下の記事でも紹介しています。
関連:「佐藤可士和の超整理術」に学んだ一人社労士の"やらない"経営
拙著「一人社労士事務所のほどほど経営術」も、本書の考え方を意識して、結論から先に、できるだけシンプルに書きました。読者の方から「はじめて腹落ちした」という感想をいただけたのは、とてもうれしかったです。
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