※当サイトはリンクに広告ページが含まれている場合があります
毎月欠かさず読んでいるハーバード・ビジネス・レビューの特集「戦略人事」が、ぜひ多くの方に知っていただきたい内容満載だったので紹介します。
「戦略人事」、サブタイトルは「人事は管理部門から脱却できるか」ですが、まさに本サイトにぴったりのテーマであり、人事労務管理に関するご相談に対応する中で日々感じていた違和感にも、大胆な提言を示してくれています。
企業の価値を生み出すのは事業ではなく人材
今回の特集の中で、一貫して取り上げられているのが、
- 価値を生み出すのは事業ではなく人材
という点です。経営者が事業を考えるとき、通常は以下の順番で考えるのではないでしょうか?
- どんな新規事業を行うか(何を?)
- どのような方法で行っていくか(どのように?)
- 誰が担当するか?
しかし、成功する企業、特に「偉大」な企業はその順番が違うようです。
世界的名著である「ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則」のp66では、過去の偉大な企業に関する検証から、以下のように結論づけています。
このバスでどこに行くべきかは分からない。しかし、分かっていることもある。
適切な人がバスに乗り、適切な人がそれぞれふさわしい席につき、不適切な人がバスから降りれば、素晴らしい場所に行く方法を決められる。
まず「人」を決め、その後に「目的地・方法」を決めるわけです。
今回の特集でサイバーエージェントの藤田社長のインタビューがありますが、そのタイトルも「人材が先、事業は後」となっています。
CHROは経営者たれ!
「戦略人事」の中で、特に経営者にオススメしたいのが、「CHROは経営者たれ」という特集です。
ちなみに原文のタイトルは、People Before Strategy(戦略の前に人): A New Role for the CHRO(CHROの新しい役割)です。
先程の「ビジョナリー・カンパニー2 飛躍の法則」と同じことを言っています。
企業活動の業績を左右するのは人そのものです。
しかし、現実的に行っている人事の業務は管理的な業務が中心となり、とても戦略的な機能を担っているとは言いがたい状況ではないでしょうか?
これからの人事はどんな役割が求められていくのか、人事部門の仕事と経営戦略をリンクさせていくためには何が必要なのか。
この特集の中では、企業の事例を盛り込みながら、以下の2つの提言を示しています。
- CHROの責務を見直し、真のパートナーにするのはCEOの重要な役割である
- CEOが主導し、CFO、CHROによる三頭体制を築き、三者による定期的な会合を持つべき
1. CEOはCHROを真のパートナーに
日本ではほとんど知名度がありませんが、米国などの海外企業では、戦略的人事を担当する責任者としてCHRO(最高人事責任者)を設置しています。
しかし、CHROの役割に不満を持つCEOは米国でも多いようです。
CHROの役割を簡単に解説すると以下のようになります。
CFOが資金を調達、配分してCEOの采配を助けるように、CHROは人材、特に核となる人材を育成、配置し、組織の活力や熱意を引き出すことで、CEOを補佐する。
模範的なCHROは、従業員の満足度や仕事への熱意、報酬、福利厚生などの管理を行います。
しかし、CEOがCHROに与える役割はそれだけでは足りないと指摘しています。
CHROは、結果の予測、問題の原因究明、事業価値の向上につながる施策も役割として担うべきであると提案しています。
そして、この特集の筆者は大胆にも、
人事プロセスにおいて、全社員を同じように扱う例が多いが、筆者の見解では、2%の人材が影響力全体の98%を占める。
と断言しています。
人事考課・人事評価制度といった制度的な話に加えて、CHROには、まさに「職人的な」人材の見極めを行う役割が求められるということです。
CFOが数字の裏を読むのを得意とするのと同じく、CHROには人材を品定めする鋭い目が求められる。
CHROの具体的な役割については以下の記事でも解説していますのでご参考ください。
2. CEO・CFO・CHROによる三頭体制の確立と定期会合
もう一つの提言が、CEO・CFO・CHROによる三頭体制の確立と、三頭体制による定期会合の開催です。
提言では、CHROは、CTO(最高技術責任者)、CRO(最高リスク責任者)とは同格にせず、CEO・CFO・CHROによる三頭体制(特集ではG3と呼ばれています)が核となって舵取りを担うべきであり、3人だけの会合を持つことが望ましいと断言しています。
もちろん、少人数と多人数の会議は二者択一ではなく、それぞれの利点はあります。
その少人数の利点ゆえに、このG3は3人だけという制約を加えています。役割と責任というのは両輪です。
人数を増やせば増やすほど責任というのは希薄になりがちであり、この提言には同意できるところです。
大きな企業になればなるほど役員が多くなり、様々な意見が出てさぼ盛り上がっているように見えますが、じゃあ誰が責任を持って主導するかとなると「しーん」となるものです。
私が前職で受けた教えで今でも心に残っているのが、決して「評論家」になるなという言葉です。
御前会議に意味はないということです。
一例として、保険会社とリスクマネジメントの世界的リーダー、マーシュのG3が紹介されていますが、CHROの以下の言葉は面白いと思いませんか?
G3会合では、人事理論を持ち出す余地などない、業績を高めるために組織は何をしなくてはならないか、主な変動要因をどう整合させるか、これがすべてである。
G3は、週に1度くらいのペースで会合を持つこと、三者が異なるレンズを通して事態を眺め、見解を出し合えば、状況をより正確に把握できる、と推奨されています。
まとめ
たまたま1つの会社で成功した事例を、何の検証もなく、さも他社でも活用できるかのように、一般化した本というのはたくさんあります。
私は経営とは科学だと思っています。
科学というのは再現性があってはじめて認められるものです。多くの事例の中から共通点を見出し検証し理論化する作業が必要です。
そして、その理論を、実際に経営に活用していくためには、今度は、その理論を会社の状況に合わせてカスタマイズする作業が必要になります。
このカスタマイズする作業の際に、汗を流すことになります。専門家の支援を受ければ、その作業は大部分を省力化できますが、0にはなりません。
経営者であれば「株で1億円儲けた主婦の投資法」なんかを読んで、その本のとおりに株の運用をすることなんてありえませんよね? 英語でも「文法なんて理解不要」なんて謳っている業者がいますが、それを信じていると、ビジネスでは聞くのも恥ずかしいような「お子さま英語」を話す人ができあがります。
真の経営とは、野生の勘や思いつきで行うものではなく、理論化された成功事例を学び、試し、自社にカスタマイズして実践を続けることだと考え、当事務所もそのように運営しています。
なお、「戦略人事」の特集の中で、他に参考になったものは以下の2つです。
- なぜ人事部は嫌われるのか
- 魅惑的な人事手法に飛びつくな
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
過去の配信分は公開しません。
情報が必要な方は、いますぐ以下のフォームから購読の登録をしてください。購読して不要と思ったら簡単に解除できますのでご安心ください。