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特定の季節(夏季・冬季)、特定の月に業務が忙しい場合は、1年単位の変形労働時間制の活用が適しています。
ただし、1年単位の変形労働時間制に関しては、法令上による制約が多く、制度の導入・運用には注意が必要です。
1年単位の変形労働時間制とは
1年単位の変形労働時間制とは、1年以内の期間を平均して1週間当たりの労働時間を40時間以内にすることで、忙しい時期に労働時間を長めに設定して、比較的余裕がある時期に労働時間を短めに設定することが可能な制度です。
1年単位の変形労働時間制は、年間を通じて特定の季節(夏季・冬季)や特定の月に業務の繁閑がある場合などに導入が適している制度です。
なお、月初は比較的業務に余裕があるが、月末締めであるため月末の1週間が忙しい場合など、1か月以内で労働時間の長短を設定をする際には、1か月単位の変形労働時間制の方が適しています。
関連:1か月単位の変形労働時間制の基本と導入・運用時の注意点
- 労働基準法第32条の4
使用者は、労働組合または労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、次に掲げる事項を定めたときは、その協定で第2号の対象期間として定められた期間を平均し1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において、特定の週または特定の日において40時間または8時間を超えて、労働させることができる。
- 対象労働者の範囲
- 対象期間・起算日
- 特定期間
- 労働日・労働日ごとの時間
- 労使協定の有効期間
1年単位の変形労働時間制の導入・運用時の注意点
1年単位の変形労働時間制は、1か月単位の変形労働時間制に比べて、規制による制約や必要な手続きが多くあり、導入時だけでなく、運用時にも注意すべき点が多々あります。
- 労使協定の締結・労働基準監督署への届出
- 1日・1週間の労働時間の限度
- 就業規則の整備
1. 労使協定の締結・労働基準監督署への届出
まず、1年単位の変形労働時間制の導入には、以下の5つの項目を定めた労使協定を締結し、所轄の労働基準監督署に届け出ることが必要です。
- 対象労働者の範囲
- 対象期間・起算日
- 特定期間
- 労働日・労働日ごとの時間
- 労使協定の有効期間
以下、それぞれを具体的に解説していきます。
(1) 対象労働者の範囲
法令上、対象労働者の範囲について制限はありません。
- 本社の労働者は1年単位の変形労働時間制を適用
- 支社の労働者は他の制度を適用
としても構いませんし、部署ごとの適用でも構いません。
しかし、対象労働者の範囲は、労使協定で明確に定めておく必要があります。
また、勤務期間が対象期間に満たない中途採用者や中途退職者などについても、賃金の精算を条件に、1年単位の変形労働時間制を適用することは認められています。
ただし、年少者と妊産婦に関しては以下の注意点があります。
- 年少者には、原則として1年単位の変形労働時間制を適用できない。ただし、1週48時間、1日8時間以内であれば可能。
- 妊産婦が請求した場合、1週40時間、1日8時間の範囲内でしか労働させることができないため、1年単位の変形労働時間制で労働させることはできない。
(2) 対象期間・起算日
1年単位の変形労働時間制の対象期間は、その期間を平均して1週間当たりの労働時間を40時間を超えない範囲内で労働させる期間であり、1か月を超え1年以内の期間に限られます。
逆に言えば、1年間が最長期間になるため、対象期間を3か月や4か月、半年などとすることも可能です。
また、対象期間を4/1-9/30など具体的な期日でなく、半年などと期間で定める場合には、その期間の起算日を定めることが必要です。
(3) 特定期間
特定期間とは、対象期間のうち特に業務が繁忙な時期として労使協定により定めることができる期間です。
1年単位の変形労働時間制において、連続労働日数は原則として最長6日です。
しかし、特定期間を設定することで、以下のように、連続労働日数を1週間に1日の休日が確保できる日数(最長12日)とすることができます。
ただし、対象期間のうち相当部分を特定期間として定める労使協定は、法の趣旨に反するとして認められません。
また、一旦協定した特定期間を対象期間の途中で変更することも認められません。
(4) 労働日・労働日ごとの時間
対象期間を平均して1週間の労働時間が40時間以内になるように、対象期間内の各日、各週の所定労働時間を定めることが原則です。
ただし、対象期間を1か月以上の期間に区分することとした場合には、
- 最初の期間における労働日・労働日ごとの労働時間
- 最初の期間を除く各期間における労働日数・総労働時間
を定めればよいことになっています。
この場合でも、最初の期間を除く各期間における労働日数・労働日ごとの労働時間については、その期間の始まる30日以上前に、労働組合または過半数代表者の同意を得た書面による定めが必要です。
具体的に以下の図を用いて解説すると、4/1-4/30は「最初の期間」になるため労使協定の締結時に労働日・労働日ごとの労働時間を定める必要があります。
次の対象期間になる5/1-5/31の労働日・労働日ごとの労働時間は、3/31までに定めればよいということです。
対象期間で設定できる労働時間の総枠の上限
対象期間において設定できる労働時間の総枠は、以下の計算式によります。
この計算式を用いて計算すると、対象期間に応じた所定労働時間の総枠の上限は以下の表のとおりです。
対象期間 | 所定労働時間の総枠の上限 |
---|---|
1年(365日の場合) | 2,085.71時間 |
6か月(183日の場合) | 1,045.71時間 |
4か月(122日の場合) | 697.14時間 |
3か月(92日の場合) | 525.71時間 |
必要な年間休日数
1日の所定労働時間を一定とした場合、1週平均40時間以内とするための1日の所定労働時間数と年間休日数の関係は以下のようになります。
1日の所定労働時間 | 必要な年間休日数 (1年365日の場合) |
必要な年間休日数 (1年366日の場合) |
---|---|---|
8時間00分 | 105日 | 105日 |
7時間45分 | 96日 | 97日 |
7時間30分 | 87日 | 88日 |
これは以下の計算式によるもので、小数点以下は切り上げます。
なお、次に解説しますが、年間の所定労働日数の限度は原則として280日であり、上の計算式に当てはめると、1日の所定労働時間は7時間27分が限度となります(1年365日の場合)。
ただし、年間労働日数を280日以下にするのであれば、1日の所定労働時間を7時間26分以下とすることも可能です。
労働日数の限度
対象期間における所定労働日数の限度は、原則として1年間で280日です。
ただし、対象期間が3か月以内の場合は制限がありません。
また、対象期間が1年未満の場合は、以下の計算式で上限の日数が決まります(1年が365日の場合、小数点以下は切り捨て)。
$$ 280日 \times \frac{対象期間中の暦日数}{365日}$$
具体例として、対象期間が4/1から10/31までの7か月(総暦日数214日)の場合を考えてみると、以下の計算から上限日数は164日となります。
$$ 280日 \times \frac{214日}{365日} = 164.16 \fallingdotseq 164日$$
この部分は混乱しがちなので、労働日数の限度についてまとめると以下のようになります。
- 対象期間が1年の場合:280日
- 対象期間が3か月を超え1年未満の場合:280日 × 対象期間中の暦日数 / 365日
- 対象期間が3か月以内の場合:制限なし
そして、労働日数の限度に関して混乱が生じる点が、次の条件です。
- 前年度に1年単位の変形労働時間制を協定している場合(以下「旧協定」という。)で、旧協定の1日または1週間の労働時間よりも新協定の労働時間を長く定め、及び1日9時間または1週48時間を超えることとしたときは、280日または旧協定の労働日数から1日を減じた日数のうちいずれか少ない日数としなければならない。
一読しただけでは理解するのが難しいので、具体例を示して解説します。
- 前年度に対象期間が1年間、総労働日数が252日の1年単位の変形労働時間制を導入していた。
- 前年度において1日の労働時間の最も長い日は8時間50分、1週間の労働時間の最も長い週は48時間であった。
- 今年度も1年単位の変形労働時間制を導入予定であり、1日の労働時間の最も長い日は8時間30分、1週間の労働時間の最も長い週は51時間とする予定。
- この場合、今年度の総労働日数は、280日または前年度の労働日数(252日)から1日を減じた日数のうち、少ない日数としなければならない。
- 前年度の労働日数は252日なので、1日を減じた日数は251日となり、280日より少ない。
- そのため、今年度の総労働日数は251日としなければならない。
(5) 労使協定の有効期間
労使協定では必ず有効期間を定める必要があります。一般的なのは起算日から1年間です。
2. 1日・1週間の労働時間の限度
1年単位の変形労働時間制では、1日・1週間の労働時間の限度が以下のように決まっています。
- 1日の労働時間の限度:10時間
- 1週間の労働時間の限度:52時間
ただし、隔日勤務のタクシー運転手の1日の限度時間は16時間です。
また、対象期間が3か月を超える場合、限度時間を設定できる範囲には以下のような制限があります。ただし積雪地域の建設業の屋外労働者などについては制限はありません。
- 対象期間中に、週48時間を超える所定労働時間を設定するのは連続3週以内とすること。
- 対象期間を初日から3か月ごとに区切った各期間において、週48時間を超える所定労働時間を設定した週の初日の数が3以内であること。
なお、上の制限の「週」とは、対象期間の初日の曜日を起算とする7日間です。
3. 就業規則の整備
始業・終業の時刻、休憩時間、休日については、就業規則に必ず記載しなければならない事項である「絶対的必要記載事項」です。
そのため、1年単位の変形労働時間制を導入する場合には、労使協定を締結しただけでは十分ではなく、変形期間中の各日の始業・終業の時刻等を就業規則に定め、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。
関連:本当は怖い就業規則! よくある間違い・落とし穴を徹底解説!
まとめ
本記事で紹介したとおり、1年単位の変形労働時間制は、年間を通じて特定の季節(夏季・冬季)や特定の月に業務の繁閑がある場合などに導入が適している制度です。
ただし、以下のように様々な法令による厳しい制約があり、導入よりも運用面でかなり注意を要する制度です。
- 労働日・労働日ごとの時間を30日以上前に決定
- 労働時間の総枠の上限
- 1日・1週の労働時間の限度
- 必要な年間休日数と労働日数の限度
正直、きちんと人事労務管理を行っていないような会社は利用すべきではないと思っています。
以前の社労士から1年単位の変形労働時間制度を勧められ、就業規則に定められていたのですが、運用時の注意点を社長がまったく理解しておらず、労働基準監督署から制度の適用を全否定されて困ったこともあります。。。
制度を否定された場合は、未払賃金などで会社に大きな損害が生じることになります。
1年単位の変形労働時間制を導入したい、または1年単位の変形労働時間制を導入しているが適切な運用になっているかといった不安な点があれば、当事務所にご相談ください。
なお、どのような業種・規模の会社が、1年単位の変形労働時間制を導入しているのかについては以下の記事で紹介しています。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
といった悩みを抱える企業の経営者・人事労務担当者向けに、公開型のブログでは書けない、本音を交えた人事労務に関する情報・ノウハウ、時期的なトピックに関するメールマガジンを「無料」で配信しています。
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