労災保険の適用となる労働者と、雇用保険の適用となる労働者には、意外と違いがあります。
一般労働者(パートタイマーを含む)
労災保険の適用
時間・日数・期間を問わず、すべての労働者が適用されます。
雇用保険の適用
以下の労働者は、本人の希望の有無に関わりなく、適用されます。
- 週の労働時間が20時間以上
- 31日以上引き続き雇用されることが見込まれること
のいずれにも該当する労働者で、その人の労働時間、賃金その他の労働条件が就業規則(就業規則の届出義務が課せられていない事業所にあっては、それに準ずる規定等)において明確に定めていると認められた場合。
なお、当然ですが、労働者を雇用する場合、事業主には労働条件の明示義務があります。
また、雇用期間の定めがない契約の場合や1か月契約のほか、31日未満の有期雇用契約であっても、雇入れの目的や同様の契約で雇用されている他の労働者の状況などからみて、契約が31日以上にわたって反復更新することが見込まれる場合は、この要件に該当する、つまり雇用保険が適用されるということです。
アルバイト
労災保険の適用
すべてのアルバイトが適用されます。
雇用保険の適用
以下の労働者は適用されません。
- 4か月以内の期間を予定して行われる季節的事業に雇用される者
- 昼間、学生をしている者
- 臨時内職的に雇用される者
日雇労働者
労災保険の適用
すべての日雇労働者が適用されます。
雇用保険の適用
雇用保険日雇労働被保険者でない日雇労働者は適用されません。
派遣労働者
労災保険の適用
派遣元事業場で適用されます。
雇用保険の適用
派遣元事業場で適用されます。
ただし、以下の2つの要件が必要です。
- 1週の労働時間が20時間以上であること
- 反復継続して派遣就業する者であること
法人の役員
労災保険の適用
代表権・業務執行権を有する役員は、適用されません。
法人の取締役・理事等の地位にある者であっても、
- 法令・定款等の規定に基づいて業務執行権を有すると認められる者以外の者で、
- 事実上、業務執行権を有する取締役・理事等の指揮監督を受けて労働に従事し、
- その対償として賃金を得ている者
は、原則として「労働者」として取扱われます。
また、監査役及び監事は、法令上、使用人を兼ねることを得ないものとされていますが、事実上、一般の労働者と同様に賃金を得て労働に従事している場合は、「労働者」として取扱います。
逆に、法令又は定款の規定により、業務執行権を有しないと認められる取締役等であっても、取締役会規則その他内部規定によって業務執行権を有すると認められる者は、「労働者」として取扱いません。
以上が、行政解釈による内容です。ただ、実務的に考えると、代表権の話はわかりやすいものの業務執行権となると、どのような線引きになるか微妙と言えます。
例えば「専務取締役」という名称の場合、一般的には業務執行権を有すると考えられますが、以下で解説している記事のように、実態を重視し、労働者とみなした裁判例もあります。
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なお、労災保険の対象となる賃金は、法人の機関としての職務に対する報酬を除き、一般の労働者と同一の条件のもとに支払われる賃金のみとなります。
雇用保険の適用
取締役は原則として適用されません。
ただし、取締役であっても、同時に、部長・支店長・工場長など従業員としての身分を有する者(いわゆる「兼務役員」)は、報酬支払等の面から見て労働者的性格の強い者で、かつ、雇用関係があると認められる者に限り被保険者として取扱います。
なお、雇用保険の対象となる賃金は、法人の機関としての職務に対する報酬を除き、一般の労働者と同一の条件のもとに支払われる賃金のみとなります。
なお、以下の地位の方は被保険者とはなりません。
- 株式会社の代表取締役
- 合名会社・合資会社の代表社員
- 有限会社の取締役のうち、会社を代表する取締役
- 農協等の役員(雇用関係が明らかでない場合)
- その他法人・人格のない社団法人・財団法人の役員(雇用関係が明らかでない場合)
同居の親族
事業主と同居している親族については、労災保険、雇用保険のいずれについても、原則として労働者にはなりません。
ただし、法人・個人を問わず、同居の親族とともに一般労働者を使用し、次の3つの条件をすべて満たした場合のみ、労働者として扱われます。
- 就労の実態が、当該事業場における他の労働者と同様であり、賃金もこれに応じて支払われていること。
- 始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等並びに賃金の決定、計算方法、支払いの方法、賃金の締め切り、支払の時期等が就業規則などによって明確に定められており、かつ、その管理が他の労働者と同様になされていること。
- 業務を行うにつき、事業主の指揮命令に従っていることが明確であること。
また、雇用保険については、このほかに取締役など、事業主と利益を一にする地位にないことが条件となります。
まとめ
今回解説したように、労災保険と雇用保険の適用となる労働者には意外と多くの違いがありますが、労災保険・雇用保険の対象となる賃金の範囲は以下の記事で解説しているとおり共通しています。
ただ、手当の多い会社では混同する場合もあるため、ご注意ください。
- 毎年のように改正される労働法令への対応に頭を悩ませている
- 総務や経理などの他の業務を兼務しているので、人事労務業務だけに時間を割けない
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