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年次有給休暇を取得した際の皆勤手当の取扱い

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「年次有給休暇を取得した月に皆勤手当を支払わない」とする運用は認められるのでしょうか、という点について、行政解釈・裁判例を引用して解説します。

年次有給休暇の皆勤手当の取扱い

多くの会社には基本給以外に様々な手当があるのが一般的であり、その中に「皆勤手当」があります。

皆勤手当の定義は会社によって異なりますが、多くは「1か月の中で欠勤せずすべての所定労働日に出勤した場合に対象とする」としているでしょう。

このとき、年次有給休暇を取得した際の皆勤手当の取扱いには要注意です。以下の2つについてどちらが正しいと思いますか?

  • 年次有給休暇は労働基準法で認められた休暇であり欠勤ではない。そのため、皆勤手当の対象とすべきではないか?
  • 年次有給休暇は欠勤ではないが、出勤しているわけでもない。そのため、皆勤手当の対象とするのはおかしいのではないか?

年次有給休暇の取得に対する不利益な取扱いの禁止

まず、年次有給休暇の取得については、労働基準法附則第136条により、不利益な取扱いが禁止されています。

労働基準法附則第136条
使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

実は、先程の2つの例は違うことを言っているようで、同じことを言っています。

  • 年次有給休暇は欠勤ではない
  • 欠勤ではない → 出勤扱い

つまり、皆勤手当の支給基準が、一般的によくある「すべての勤務日に出勤したこと」であれば、年次有給休暇は出勤扱いになり、皆勤手当を支給しなければなりません。

この問題を回避するため、皆勤手当の支給要件として「年次有給休暇を取得せず、すべての勤務日に出勤したこと」としてしまうと、年次有給休暇の取得を阻害しているとみなされ、労働基準法附則第136条違反に該当しますし、後述のとおり「不利益な取扱い」として違法と判断された裁判例もあります。

年次有給休暇を取得した日は出勤扱い

そもそも年次有給休暇の取得には出勤率8割以上という付与の条件があります。

そして、出勤率の計算では年次有給休暇を取得した日は出勤扱いとみなすことが必要です。

行政通達(昭和63年1月1日付け基発第1号)は以下の解釈を示しています(部分的に簡単な説明に変更しています)。

精皆勤手当及び賞与の額の算定等に際して、年次有給休暇を取得した日を欠勤として、または欠勤に準じて取り扱うことなど年次有給休暇の取得を抑制するすべての不利益な取扱いはしないようにしなければならないものである。

年次有給休暇の取得に伴う不利益取扱いについては、従来、

  • 年休の取得を抑制する効果を持ち、法第39条の精神に反するものであり、
  • 精皆勤手当や賞与の減額等の程度によっては、公序良俗に反するものとして民事上無効と解される場合もあると考えられるという見地に立って、

不利益な取扱いに対する是正指導を行ってきたところであるが、今後は、労働基準法上に明定されたことを受けて、上記趣旨を更に徹底させるよう指導を行うものとすること。

この行政解釈を踏まえてまとめると、年次有給休暇を取得した日は出勤したものとみなし、皆勤手当の支給は必要ということになります。

年次有給休暇を取得した月に皆勤手当を支払わないことは違法

実際、年次有給休暇を取得して休んだ日のあることを理由として皆勤手当を支給しなかったことは不利益取扱いであると判決した裁判例があります。

大瀬工業事件、横浜地裁、昭51.34.判決
使用者が賃金体系上、賃金の一部を皆勤手当等の諸手当とし、その諸手当の全部又は一部を「年休を取得して休んだ日」のあることを理由にして支給しない旨就業規則等で明定することは、不支給となる当該手当が、労働者が現実に出勤して労働したことの故に支払われる実費補償的性格の手当(たとえば、通勤費の実額支給を内容とする通勤手当など)でない限り、前記年次有給休暇制度の趣旨に反する賃金不払として法的に許されないものというべき。

ただし、この考え方の一部を否定した最高裁の判決もあります。

沼津交通事件(最高裁第2小法廷 平5.6.25判決)
労基法136条は、使用者の努力義務を定めたものであって、労働者の年次有給休暇の取得を理由とする不利益取扱いの私法上の効果を否定するまでの効力を持つとは解されない。

しかし「最新重要判例200 労働法 第4版(P114)」の解説によると、上の判旨については学説上批判的な見解が多く、また、労基法等に基づく権利の行使を抑制し、その権利を保障した趣旨を実質的に失わせるものと認められれば、控除違反として無効となる判例法理は適用されるとのことです。

沼津交通事件では、勤務予定表を作成した後に有期休暇を取得した場合に皆勤手当を支給しなかったこと、その皆勤手当の額の占める割合が最大1.85%に過ぎなかった点の影響が大きいとも考えられています。

まとめ

年次有給休暇を取得した際の皆勤手当の取扱いは、裁判例を見ても判断が分かれている状況ではありますが、実務的な対応としては無用なトラブルを避けるためにも、年次有給休暇を取得した日は出勤したとみなし、皆勤手当を支給することをオススメします。

年次有給休暇の取扱いはただでさえトラブルになりやすい部分です。皆勤手当の場合は賃金の問題も加わってくるため、適切な就業規則の定めとなっているか、適切な運用がなされているかという点はチェックしておきましょう。

関連:年次有給休暇の対象、条件、付与日数、罰則等の詳細解説

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