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年5日の年次有給休暇の義務化と企業の実務的な対応のポイント

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労働基準法改正により、企業は2019年4月から年5日以上の年次有給休暇の付与を義務づけられ、義務を果たさなければ罰則の対象になります。企業が実務的に対応すべきポイントを解説します。

年5日の年次有給休暇の義務化の背景・概要

まず、今回の年5日の年次有給休暇の時季指定義務に関する背景は以下のとおりです。

  • 労働基準法では、労働者の心身のリフレッシュを図ることを目的として、毎年、一定日数の年次有給休暇を与えることを義務付けている。
  • 年次有給休暇は、原則として、労働者が請求する時季に与えなければならないが、職場への配慮やためらい等の理由から取得率が低調な現状にあった。
  • そのため、労働基準法の改正により、2019(平成31)年4月から、全ての企業に対して、年次有給休暇の日数のうち年5日については、使用者が時季を指定して取得させることが義務化された。

日本における年次有給休暇の取得率は世界でも最低というデータもあり、実際、「年次有給休暇の取得率は62%! 会社にも年休の取得が重要な理由」でもグラフを示していますが、近年になってようやく50%を超えている状況です。

年次有給休暇の原則は労働者からの請求ですが、今回の時季指定義務化により、使用者は労働者に対して意見を聴取し、時季を指定し休ませなければならなくなります。

対象となる労働者とその条件

それでは、ここから年次有給休暇の年5日の時季指定義務に関する細かな点を解説していきます。

年次有給休暇の年5日の時季指定義務の対象者は、

  • 年次有給休暇が10日以上付与される労働者(管理監督者を含む)

です。正社員だけではなく、パート、アルバイト、契約社員、嘱託社員も、年次有給休暇が10日以上付与されていれば対象になります。

よく誤解されていますが、時給制のパートやアルバイトにも年次有給休暇の付与は義務です。

この基準を正確に理解するには、労働基準法に基づく年次有給休暇の付与日数の考え方を解説しておきます。

(1) 正社員などの有給休暇日数

まず、基本的な年次有給休暇の日数は、法律によって以下の表のとおり定められています。この表は、年次有給休暇を付与する日数の原則の表です。

雇われた日からの勤続期間 付与される休暇の日数
6か月 10日
1年6か月 11日
2年6か月 12日
3年6か月 14日
4年6か月 16日
5年6か月 18日
6年6か月 20日

タイトルには、わかりやすく「正社員などの有給休暇日数」と書きましたが、この表が適用されるのは、正確に言えば

  • 労働時間が週30時間以上、労働日数が週5日以上の労働者、又は1年間の労働日数が217日以上の労働者

であり、従業員の呼び名が、正社員であろうが、パートタイム労働者であろうが、アルバイトであろうが関係ありません。

そして、今回の時季指定義務の対象者は、「年次有給休暇の日数が10日以上である労働者」になりますので、この原則の表が適用される従業員はすべて、年次有給休暇の時季指定義務の対象となります。

(2) パートタイム労働者などの有給休暇日数

次に、一般的にはパートタイム労働者と呼ばれる、週3日、週4日勤務など、週の中で働く日数(所定労働日数)が少ない労働者の場合を解説します。

こちらは、少し複雑になりますが、以下の表のように年次有給休暇が比例付与されます。

具体的に解説すると、この表が適用される労働者は、「労働時間が週30時間未満で、かつ、週の労働日数が4日以下」の場合です。

週の労働日数 雇入れた日から起算した継続勤務期間(単位:年)
0.5 1.5 2.5 3.5 4.5 5.5 6.5以上
4日 7 8 9 10 12 13 15
3日 5 6 6 8 9 10 11
2日 3 4 4 5 6 6 7
1日 1 2 2 2 3 3 3

年次有給休暇の年5日の時季指定義務の対象者は、

  • 年次有給休暇が10日以上付与される労働者

であるため、上の表で青色で塗っている条件に該当する人で、具体的には以下のようになります。

  • 週3日勤務、勤続期間が5.5年以上の従業員
  • 週4日勤務、勤続期間が3.5年以上の従業員

なお、こちらも、タイトルにはわかりやすく「パートタイム労働者などの有給休暇日数」と書いていますが、正確には、「労働時間が週30時間未満で、かつ、週の労働日数が4日以下の場合の労働者」になるのでご注意ください。

パートタイム労働者という名称の雇用形態であっても、労働時間が週30時間以上であれば、適用される表は、上の比例付与の表ではなく、原則の表になるためご注意ください。

基準日の考え方:年5日はいつからいつまでなのか?

会社は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日、取得時季を指定して与える必要があります。

この年次有給休暇を付与した日を基準日と言います。

労働基準法では、以下の2つの条件を満たすとき、会社は従業員に年次有給休暇を付与しなければなりません。これが原則です。

  • 雇われた日から6か月継続経過していること
  • その期間の中の全労働日の8割以上出勤したこと

原則どおりに年次有給休暇を付与した場合は以下のようになります。

  • 4/1入社、10/1基準日、10/1-翌年9/30までに5日の年次有給休暇の取得時季を指定

(1) 入社日に10日の年次有給休暇を付与した場合

では、法定の基準日と異なり、入社日から年次有給休暇を付与する場合はどうなるのか、これは入社日が基準日となるため、以下のようになります。

  • 4/1入社・基準日、4/1-翌年3/31までに5日の年次有給休暇の取得時季を指定

(2) 全社的に年次有給休暇の起算日を合わせるために2年目以降に基準日を変える場合

特に中途採用の従業員が多い場合、入社日ごとではなく、全社的に年次有給休暇の起算日を合わせることは実務的によくあります。

従業員数が多い場合、起算日がバラバラの管理をするのは担当者にとって負担になりますし。

4/1入社で、初年度は10/1から年次有給休暇を付与、翌年度は他の従業員に合わせて4/1から付与する場合は以下のように比例按分することも認められます。

そして3年度目からは、先程の(1)のパターンも同様ですが、1年以内に5日の時季指定義務という通常の流れになります。

(3) 入社日に前倒して5日を付与する場合

企業によっては入社日に前倒して年次有給休暇を数日付与し、法定の基準日となる6か月後に10日付与する制度設計にしている場合もあります。

すでに従業員の請求により5日の年次有給休暇が取得されていれば、指定義務は控除されます。

時季指定が不要な場合

年5日の年次有給休暇の時季指定義務の目的は、少なくとも従業員に年5日の休暇を取得してもらおうということです。

そのため、年次有給休暇を5日以上取得済みの従業員に対しては、使用者による時季指定は不要です

時季指定が必要・不要な場合の例は以下のとおりです。

  • 労働者が自ら5日取得した場合 ⇒ 使用者の時季指定は不要
  • 労働者が自ら3日取得+計画的付与2日の場合 ⇒ 使用者の時季指定は不要
  • 労働者が自ら3日取得した場合 ⇒ 使用者は2日を時季指定
  • 計画的付与で2日取得した場合 ⇒ 使用者は3日を時季指定

年次有給休暇の時季指定義務と半休の関係

年次有給休暇の半日付与、いわゆる半休については特に法的な根拠のある制度ではありませんが、本来の1日単位の取得の阻害とならない範囲では問題がないとされています。

この取り扱いに変更はなく、平成30年9月7日付の行政通達では「労働者からの希望があった場合には時季指定を半日単位で行うことも差し支えない」とされています。

ただし「半日単位の年次有給休暇の日数は0.5日として取り扱うもの」とされている点にはご注意ください。

関連:年次有給休暇で半休を導入する際の注意点

年次有給休暇管理簿の作成

今回の時季指定の義務化に伴い、会社は、労働者ごとに時季、日数、基準日を明らかにした年次有給休暇管理簿を作成しなければなりません。

また、年次有給休暇管理簿は、期間の満了後、3年間の保存義務があります。

なお、年次有給休暇管理簿は、労働者名簿や賃金台帳とあわせて作成しても構いませんし、必要なときに出力できる仕組みであれば、システム上で管理することも問題ありません。

年次有給休暇管理簿の様式は任意なので、会社は様式を自由に作成することができますが参考として厚生労働省のパンフレットのp7では以下が参考として示されています。

年次有給休暇の時季指定義務に関する罰則

年次有給休暇の時季指定義務に違反した場合の罰則は、30万円以下の罰金です(労働基準法第120条)。

年次有給休暇を付与しない場合など、年次有給休暇に関する全般的な違反への罰則は「6箇月以下の懲役又は30万円以下の罰金」となっていますが、この時季指定義務については労働基準法第119条の適用を外れています。

企業の実務的な対応のポイント

最後にまとめとして企業が実務的に対応すべきポイントを解説しますが、対応の手順は以下のとおりです。

(1) 実務的な対応の流れ

  • 年次有給休暇の取得状況の把握
  • 業務の年間スケジュールとの調整・計画的付与の検討
  • 就業規則への追加・修正(年次有給休暇の条文)
  • 各従業員の年次有給休暇の取得時季の意見聴取
  • 各従業員の年次有給休暇管理簿の作成

この中で特に重要、そして時間を要する部分が「業務の年間スケジュールとの調整・計画的付与の検討」です。

各従業員の年次有給休暇の取得時季の意見聴取や年次有給休暇管理簿の作成は、法的な義務であり、作業自体に時間がかかります。

しかし、会社の経営という観点から考えたときに、本当に重要なポイントはそこではありません。

(2) 問題は年次有給休暇ではなく業務の進め方

すでに各従業員が年5日以上の年次有給休暇を取得している会社であれば対応は容易です。

また、現在年5日未満の取得状況の会社であっても、実はそれほど心配する必要はありません。年5日というのは、せいぜい2か月のうち1日の休暇の話です。

ただ、会社の本音としては「5日の年次有給休暇を付与すること自体は構わない」「でも人繰りは大丈夫だろうか」「業務は回るだろうか」という点でしょう。

つまり、問題は、年次有給休暇の取得日数や時季指定への対応ではなく、現在の業務の進め方 ということです。

年次有給休暇の取得の促進と聞くと「従業員が休暇を取得しやすい雰囲気をつくりましょう」といった、従業員のための制度であり、まるで企業は被害者であるといった意識になるかもしれませんが、それは間違いです。

会社経営の視点から考えても、従業員が休暇を取得しても業務に影響が出ない組織づくり というのは、人手不足が今後より一層進む日本社会の中で、重要な経営課題です。

つまり、これまで年5日の年次有給休暇の取得すらできていなかった会社というのは、業務の進め方や業務効率に問題を抱えている ということです。

(3) 年次有給休暇の計画的付与

とはいえ、年次有給休暇の時季指定義務への対応は2019年4月であり、業務効率化に取り組んだとしても時間がかかります。

そのため当面の対応としては年次有給休暇の計画的付与ということになるでしょう。

なお、年次有給休暇の計画的付与を行うためには労使協定の締結が必要になるため、協定の文面や手続きに漏れがないように十分注意してください。

関連:年次有給休暇の計画的付与制度の活用と導入方法

【2020/12/7追記】

以下の記事で解説していますが、やはり想像どおりと言うべきか、多くの企業が計画的付与を用いて、年5日以上の年次有給休暇の付与の義務化に対応したことが、厚生労働省の調査により明らかになりました。

関連:年次有給休暇の計画的付与制度の利用率:厚生労働省令和5年調査

まとめ

年次有給休暇の時季指定義務への対応として、最後に年次有給休暇の計画的付与について触れましたが、これはあくまで当面の対応と考えるべきです。

今後の会社経営で大事な点は、従業員が休暇を取得しても業務に影響が出ない組織づくり です。

年次有給休暇の時季指定義務への対応、年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定などの手続き面の対応に加えて、業務効率化に関するコンサルも行なっておりますので、ご関心があれば、当事務所にご相談ください。

関連:年次有給休暇の対象、条件、付与日数、罰則等の詳細解説

参考:年次有給休暇の時季指定義務(厚生労働省)

参考:年5日の年次有給休暇の確実な取得 - わかりやすい解説(厚生労働省)

しかし、以下の記事でも紹介しているように、終戦後の労働基準法が施行されてから6年間という短い間ではありますが、企業が積極的に年次有給休暇を取得させなければならない時代がありました。歴史は繰り返されるものとしみじみ思います。

関連:年次有給休暇を取得させる義務が昔は会社にあった!

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