日本企業と海外企業の労務コンプライアンスの意識の違い

世界展開を見据えていると豪語するベンチャー企業や、東南アジアに進出したいという経営者に最近お会いすることが増えてきました。

そんな方々に、人事労務管理の状況はどうですかと質問すると、特にベンチャー企業の方に多いのが、「ベンチャーですから労働基準法なんて守れませんよ」という発言です。

以前、労働問題は人権侵害に直結するという記事を書きましたが、これは国際的な常識です。日本の労働関係法令は厳しすぎるなんて言っていたら認識が甘すぎます。

労働基準法を軽視=人権侵害の企業は海外では常識ですよ!
労働基準法というのは、働く人の権利を守るための法律です。労務コンプライアンスの重要性への認識が、日本と海外では大きく異なります。今回は、労働法と人権、リスクマネジメントについて解説します。

実際、過労死という日本語は、そのまま英語で「karoshi」となるほど不名誉な状況になっており、日本政府は2013年に国連から以下のように懸念を示されています。

「日本は過労死対策を」国連委員会が政府に初勧告

人権を保障する多国間条約の履行状況を審査する国連の社会権規約委員会が日本政府に対し、長時間労働や過労死の実態に懸念を示したうえで、防止対策の強化を求める勧告をしていたことが23日、分かった。

外務省によると、国連の関連委員会が過労死問題に踏み込んだ勧告を日本に出すのは初めて。

-2013/5/24 1:30日本経済新聞より

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アップルショック-CEOがすぐに現地を訪問し対応

人事労務管理の専門家の中では有名な話ですが、2011年に、アップルが生産委託していた工場で、長時間労働や未払い残業といった法令違反があるという報告が提出されました。

この報告を受け、アップルのCEOは、直ちに現地を訪れ、現地企業と労働条件の改善に取り組むことで合意をしています。

日本の企業でこのような対応をすぐに行える企業はあるのでしょうか?

「現地のことは現地で解決しろ」といった悠長な対応を行いそうな気がします。。。

しかし、アップルの場合は、CEOが直接出向いています。

それだけ労働環境という問題は、早急・確実に対処しておかなければ、後々大きなダメージを得るということを理解しているわけです。

ちなみに、この報告というのは、アップル社が米国公正労働協会(FLA)というNGOに、自ら監査を依頼し発覚した問題です。

つまり、自主的に、労務コンプライアンスの問題がないかチェックし、発覚した問題に早急に対応しているのです。

「何か言われれば対応しよう」といった悠長な対応ではなく、政府や他の団体から指摘される前に対応しているということです。

脇の甘い日本企業のコンプライアンスへの認識・・・

その一方で、日本企業の労務コンプライアンスへの認識はどうでしょうか?

もちろん、日本企業でも、大企業を中心に、CSRの重要性は理解されてきています。

ただ、よく言われることですが、日本のCSRは、法令遵守+社会貢献+環境対応、この程度の理解です。

しかし、国際的なCSRの定義は、「より広く」、「より深い」ものです。

人件費や生活費の安さに釣られ、法令遵守さえしていればよいという甘い考えで海外進出する日本企業は、まさに飛んで火にいる夏の虫とばかりに、大変な目に遭います。

CSRどころか、法令遵守さえできないような日本の企業が、海外進出なんてしてはいけないわけです。

以前書いた記事のように、海外では労働問題=人権問題、これは常識です。そして海外には、労働者を支援する人権活動家が大勢います。

詳しくは書けませんが、ボランティア的に活動している方もいれば、そのような活動家を支援する団体もいるわけです。そして、彼らにとってコンプライアンスへの認識が甘い日本企業というのは「おいしい」わけです。

そして彼らの活動手法は変化してきています。

行政指導や訴訟対応というのももちろんありますが、それよりも手軽に大問題にできるネット拡散です。

一瞬で世界中を駆け巡ります。「経済大国日本の企業が海外で人権問題を起こしている!」となるわけです。

ちなみに、ブラック企業という言葉は、以下の記事で書きましたが、日本特有の用語として、きちんと英語で紹介されています。恥ずかしい。。。

いまさら聞けないブラック企業の特徴とは?行政による定義から再確認!
労務コンプライアンスを専門とする当事務所では、ブラック企業と呼ばれないためにはどうすればよいのかといったご相談をよく受けます。今回は、ブラック企業の特徴について、公的機関による定義、海外でどのように見られているかといった視点を踏まえて解説します。

マレーシアで大きな騒動になった日本の大手企業

人権問題というのは、実際に雇用している人たちには限りません。

同じ2011年ですが、マレーシアでも労働者の処遇に関する問題で、大きな騒動になり、日本のある大手企業は批判にさらされ、対応に追われることになりました。

ポイントは、その労働者の処遇に関する問題を起こした会社は、日本の大手企業が雇用しているわけでもなく、多くの取引先の一つに過ぎないということです。

日本的な感覚だったら「直接雇用しているわけでもないし関係ない」と思うかもしれませんが、世界的に見るとその認識は甘すぎます。

強い会社が弱い会社を搾取していると捉えるわけです。

実際、何が起こったか、詳しくは、メールマガジンで紹介しましたが、炎上したら売り上げどころか、組織の存亡に関わってくる問題になります。何事にも悠長な、その大手企業もこのときの対応が早かったですよ!

問題が起きていないときに、いかにリスクマネジメントをしておくか、これが大事なわけです。

2016/11/23追記

またもマレーシアですが、今度はサムスンとパナソニックの下請工場で人事労務の問題が指摘されています。何とタイトルは「現代の奴隷」。

記事は以下のように締め括られています。

直接雇用であれ、請負業者を通じての採用であれ、多数の労働者が搾取されているという状況は、企業のブランドに傷を付ける。そして同様に、高い評価を受け、信用を得ている企業のサプライチェーン内にこうした労働者たちの存在があるということは、消費者にとっても報道機関にとっても、悲しい事実だ。

サムスンとパナソニックの下請工場に「現代の奴隷」、英紙が報道

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この記事を書いた人


安部敏志

あべ社労士事務所代表・社会保険労務士

国家公務員I種職員として労働基準法・労働安全衛生法等の立案や企業への徹底的な指導に従事した経験を武器に、退職後は逆に会社を守る立場として経営者・人事担当者からの人事労務管理に関するご相談に対応。

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