法律を読むときには、法律用語というのを正しく理解しておかなければなりません。
間違った理解・運用では下手をすると罰則を受けてしまいますし、過剰な対応をすれば、本来不要な費用を支払うことになります。
今回は、法令における義務と努力義務、そしてその違いについて解説します。
義務規定とは
これは文字通り、義務として規定されているもので、「しなければならない」と書かれています。
例えば、労働基準法第15条では、以下のとおり使用者の義務が規定されており、違反した場合は第120条に基づき罰金となることが規定されています。
つまり、一般的には、義務規定は罰則を伴うことになります。
- 労働基準法第15条(労働条件の明示)
- 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
努力義務規定とは
これは、「努めなければならない」、「努めるものとする」と書かれており、努力することが求められる規定です。
例えば、労働基準法第1条第2項では、以下のように努力義務として規定されています。
さすがに「労働条件の向上」を使用者に対して義務として求めるわけにはいきませんからね。しかし、労働基準法というのは労働条件の最低基準を定めたものです。労働基準法で定めた労働条件のままで良しとも言えないわけです。そのため、努力を求めているわけです。
- 労働基準法第1条
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- 労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
- この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
努力義務への対応と注意点
努力義務については注意が必要です。
先程説明したとおり、努力義務には罰則がかかりません。そのため、努力する姿勢だけ示していれば良いと助言する専門家がたまにいます。
しかしこれは危険な考え方です。
どこまで努力すべきかというのは判断する人によって異なります。そのため、行政から指導を受けやすいわけです。
努力義務の中には、訓示的なもの、具体的な努力を求められるもの、の2種類があります。
先程の労働基準法第1条は訓示規定です。具体的な努力を求められる規定の代表例が1985年制定の男女雇用機会均等法です。
具体的な努力が求められる努力義務規定の特徴は、一定期間経過後に強行的義務的規定に変更されるということです。
この点については、労働立法における努力義務規定の機能というとても参考になる論文があります。
実際に、この論文でも典型例として紹介されていますが、男女雇用機会均等法の努力義務規定はすべて、1997年の改正で強行的禁止規定、つまり義務規定に変更されています。
その一部を引用しますが、実際に行政内部にいて企業への指導をしていた身からすると、まさにご指摘のとおりですw
日本の労働立法における具体的努力義務規定は、私法上は具体的効果をもたらさないが、公法上は行政指導の根拠規定となり、その実効性を担保するために、周到な行政措置が用意されていた。
すなわち、努力義務の具体的内容を指針等で示し、当事者にその履行を促し、助言・指導・勧告等の行政指導が行われる。
さらには勧告等に従わない場合の企業名の公表が予定されている例もある。また、当該施策を誘導すべく給付金等による経済的インセンティブが用意されることも少なくない。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
努力義務の中でも、内容によって異なる対応が求められます。努力義務規定だからと安易な対応にしておくのはリスクがあります。
そのため、企業としてはリスクマネジメントの観点からも「何を」、「どの程度まで」行っておく必要があるのか、きちんと内容を判断でき、相場観を持った専門家と相談しながら人事労務管理の対応を行う必要があります。
そして、この努力義務の関係で企業がまず注意すべき点は就業規則です。法令で努力義務となっているのに、就業規則で義務規定となっているものはありませんか?
就業規則で義務としてしまったら、企業として義務を宣言することになってしまいます。行政は「モデル就業規則」として、穴埋めだけすれば使えるものを配布しています。
多くの専門家がテンプレートを使うのはリスクがあると言っているのはこのためです。
もちろん努力義務の部分を自主的に義務とするのは良いことです。ただ、費用・時間・労力が余分にかかります。そして一度義務としてしまい、果たせなかったらそれはトラブルになります。
事前に、できる・できないを判断した上で、就業規則を定めましょう。
なお、この記事では「法律」「法令」といった用語を使っています。もし明確な違いがわからない方は以下の記事をご参考ください。