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従業員全員を取締役にして残業代を払わないという荒技とその結果

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Yahooニュースで話題になっていた記事「社員全員を取締役にしたら残業代は払わなくてもよいのか??「類塾」を営む株式会社類設計室のやり方」を見て驚愕しました。

私は判決文を見ていないので、あくまで上の記事を見た上での所感と若干の解説ということでご容赦ください。

取締役と労働者性

労働基準法を含む労働法は、労働者を対象とする法律です。そのため、取締役といった役員は労働法の対象にそもそもなりません

記事でも紹介されているように、会社と取締役の契約はあくまで「委任契約」であり、雇用契約(労働契約)ではありませんから。

今回の「従業員全員を取締役にする」というのが、なぜ驚愕するほどの荒技かというと、これにより全従業員は、

  • 残業代をもらえない、というより賃金という概念すらない
  • 何時間でも働かされる、労働時間という概念すらない
  • 解雇ではなく解任
  • 労災もない、失業保険もない

つまり、労働法による保護が一切なくなるわけです。それは当然です、労働者じゃないので。。。

記事によると「試用期間が明けたらいきなり取締役になっていた」ということですが、取締役としての登記もなく、出退勤が厳格に管理され、報酬も安いようで、判決文でも「紛れもなく労基法上の労働者であったと認められるべきである」と示されています。

そりゃそうです。

管理職の残業代は頻繁に問題になるので、以下の記事で解説していますが、管理監督者性による適用外というのは、あくまで労働時間、休憩、休日の部分のみで、すべての労働法による保護から外れるわけではありません。

関連:残業代の対象になる管理職とならない管理職を法令・裁判例で解説!

例えば、22時からの深夜労働の割増賃金は、労働基準法による適用外となっていないので、管理監督者であっても支払わなければなりませんし。

今回の件は、そういったものを全て飛び越えています。

経営者自身が考えたのか、誰か入れ知恵した人がいるのか、それはわかりませんが、すごい荒技を考え実行する人もいるもので、ある意味、感心してしまいました。

以下で書いているように相応の制裁を受けているわけですが。

荒技の結果と支払金

記事によると判決は以下のとおりです。

それは、被告は原告に671万円余りのお金と、これに遅延損害金として年14.6%をつけるように命じられています。

このマイナス金利時代に14.6%ですからね。強烈です。

その上、付加金として519万円の支払まで命じられています。

つまり、未払い分+損害遅延金+付加金で、単純計算すると遅延したのが1年だとしても1,288万円ですか。。。

合計いくらなんでしょうか。

なお、未払い分の対象となるのは以下のとおりです(東京労働局ウェブサイトより引用)。

  1. 定期賃金
  2. 退職金
  3. 一時金(賞与・ボーナス)
  4. 休業手当(労基法第26条)
  5. 割増賃金(労基法第37条)
  6. 年次有給休暇の賃金(労働法第39条)
  7. その他法第11条に定める賃金に当たるもの

2の退職金とは、労使間において、あらかじめ支給条件が明確に定められ、その支給が法律上使用者の義務とされているものをいいます(昭和22年9月13日発基第17号)。

また、使用者が、社外積立制度(適格退職年金、確定給付型企業年金、中小企業退職金共催等)を用いて退職金を支払う場合であっても、就業規則等に定めがあって、労働条件の一部として認められるものであれば、使用者はその支払義務を負うことになります。

4,5,6の未払については、労働者の請求により裁判所が付加金の支払を使用者に命ずることができます(労基法第114条)。

また、損害遅延金と付加金についても、同サイトを引用します。

遅延損害金・遅延利息

賃金などが支払われない場合には、本来支払われるべき日の翌日から、遅延している期間の利息に相当する遅延損害金(年利6%)がつくこととされています。(商法第514条)

また、退職した労働者の場合には、賃金のうちその退職の日(支払日が退職後の場合には、その支払日)までに支払われなかった部分には、年14.6%の利息がつくこととされています。この利息がつく賃金には、退職金は含まれませんが、賞与は含まれます。(賃確法第6条)

これら遅延損害金・遅延利息は、民事上の請求権です。

なお、賃確法(ちんかくほう)とは「賃金の支払の確保等に関する法律」のことです。賃確法第6条では以下のように規定されており、これを基にして年14.6%と言っているわけです。

賃確法第6条(退職労働者の賃金に係る遅延利息)
事業主は、その事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く)の全部又は一部をその退職の日までに支払わなかつた場合には、当該労働者に対し、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、その日数に応じ、当該退職の日の経過後まだ支払われていない賃金の額に年14.6パーセントを超えない範囲内で政令で定める率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならない。

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