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神職は労働者? 給料は? 宗教法人と労働基準法の関係を解説

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神社の人たちは労働者なのでしょうか? 購読している専門誌「労働判例」の中で興味深い裁判例があったので紹介します。

判決の概要

まずは、本件の事案概要・判決を簡単にまとめておきます。

  • 暴行および暴言等の不法行為を行った宮司は、民法第709条に基づき、損害を賠償する責任を負う。
  • 神社の代表役員である宮司による暴行および暴言等の不法行為により、神社は、宗教法人法11条1項に基づき、損害を賠償する責任を負う。
  • 原告である権禰宜(ごんねぎ)は神社の指揮監督の下、労務を提供し、神社は労務提供の対価としての賃金を毎月支払っていたことから、権禰宜は労基法および労契法上の労働者に当たるというべき。
  • 権禰宜の解雇は労契法第16条に基づき解雇権を濫用したものであって無効であるべき。
  • 権禰宜に未払いの時間外割増賃金の額を支払うべき。

ざっくりとまとめると、宮司がパワハラを行い、部下の権禰宜に残業代を払わず、解雇をしたので、訴えられたということです。

金額について細かく書きませんが、損害賠償、慰謝料、地位確認による本給、未払い残業代をざっと計算すると、合計で800万円弱の支払いになっていると思われます。

この判決を見て「そりゃ、そうか」と思いつつも、「へぇ〜、そうなんだ」と驚いたのが以下の2点です。無知で恥ずかしいところですが、考えたこともなかったというのが本音です。

  • 宗教法人の損害賠償責任は宗教法人法に規定されていること
  • 神職が労働者とみなされていること

宮司によるパワハラ

宮司によるパワハラについて、宮司自身には民法第709条に基づき、神社に対しては宗教法人法11条1項に基づき、損害賠償する責任を負うと判示されています。

宗教法人法なる法律を初めて読みました。

宗教法人法第11条(宗教法人の責任)
宗教法人は、代表役員その他の代表者がその職務を行うにつき第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。

神職は労働者なのか?

これまで考えたことがなかったこともあって、最も興味を持ったのが「神職は労働者とみなされるのか」という点です。

労働者性が認められなければ、そもそも解雇や残業代の問題は生じないため、「原告である権禰宜(ごんねぎ)は労働者なのか」という点が、最も重要なポイントです。

ちなみに、私はたまたま権禰宜の知り合いがいるので「ごんねぎ」と読めるのですが、普通は読めないですよね。

そのため、神社における職階についてWikipediaの神職を引用してご紹介しておきます。

職階

神社内での役職順位を職階という。神社の規模や由緒によって異なるが、一般的には、宮司(ぐうじ)・禰宜(ねぎ)・権禰宜(ごんねぎ)が置かれている。

原則として宮司・禰宜は各神社に1名ずつである。

簡単にいえば、宮司は神社の代表者、権宮司は副代表、禰宜は宮司の補佐役、権禰宜は一般職員である。ただし、伊勢神宮は別で、祭主・大宮司・少宮司・禰宜・権禰宜・宮掌を置いている。

宗教法人に対する労働基準法の適用

この裁判例を読んでいて、初めて知ったのですが、厚生労働省(当時は労働省)は、昭和27年2月5日に「宗教法人又は宗教団体の事業又は事務所に対する労働基準法の適用について」という行政通達を発出しています。概略は以下のとおり。

  1. 法の適用に当たっては、憲法及び宗教法人法に定める宗教村長の精神に基づき宗教関係、事業の特殊性を充分考慮すること
  2. 宗教法人又は団体であっても労働基準法上に所謂労働者を使用していない場合に、法の適用がないことは言うまでもなく、具体的な問題になる場合を挙げれば次の通りであること。
    • 宗教上の儀式、布教等に従事する者、教師、僧職等で修行中の者、信者であって何等の給与を受けず奉仕する者等は労働基準法上の労働者ではないこと。
    • 一般の企業の労働者と同様に、労働契約に基づき、労務を提供し、賃金を受ける者は、労働基準法上の労働者であること。
    • 宗教上の奉仕乃至修行であるという信念に基づいて一般の労働者と同様の勤務に服し賃金を受けている者については、具体的な労働条件就中給与の額、支給方法等を一般企業のそれと比較し、個々の事例について、実情に即して判断されたいこと。

そして判決の認定事実は以下のとおり。

神社側の反論に対しても、裁判所が通達を踏まえた上で事実の認定をしています。

また興味深いのは最後の2点であり、このことから労働基準監督署、ハローワークはともに労働者とみなしていないことがわかります。

  • 通常勤務、宿直、日直、半休、休日等のシフトを割り振った勤務表を1か月毎に作成・決裁をしていた。
  • 神社作成の規則で権禰宜は上長の指揮を受けて事務に従事すると定められていた。
  • 1か月ごとに基本給、奉務手当、家族手当等を給与総額の内訳と記載する給与明細を作成していた。
  • 神社は所得税等の源泉徴収に加え、健康保険料、厚生年金保険料及び雇用保険料を控除していた。
  • 就業規則及び給与規程はない。ただし労働基準監督署の調査を受けた際に、自ら就業規則及び給与規程の文案を作成して提出に備えたが、労働基準監督署から正式に提出する指導がなかったため、提出には至らなかった。
  • 労働基準監督署からの調査結果を踏まえ、神職について、労働者ではないから雇用保険の被保険者には当たらない旨の届出をし、雇用保険の被保険者資格を失った。

神社の労働者性に対する裁判所の判断

そして、実際に裁判所はどのように判断したのかという点について、判決を簡単にまとめます。

  • 原告は神社により、時間的場所的に拘束され、業務の内容及び遂行方法について指揮監督を受けていた。
  • 神社が支払っていた俸給は、単に最低限の生活維持を目的とするものとはいえず、労務提供の対価として支払われたものと評価でき、賃金と同じ性質のものと言える。
  • 以上により、原告は労基法及び労契法上の労働者に当たると言える。
  • この判断は、就業規則、賃金規程等がなく、雇用保険の被保険者とする扱いを止めたことにより左右されるものでない。

最終的には実態に即して判断されたというものですが、特に最後の部分については行政の判断が誤っていたと言っているに等しいものです。

まとめ

今回は、宗教法人におけるパワハラ、神職の労働者性に関する裁判例を紹介しましたが、いかがでしたでしょうか?

これまでの仕事で宗教法人と関わったことがなかったので、この事例では様々な発見がありました。

特に、この神社ではシフトを組んだ勤務表ということから、1か月単位の変形労働時間制を導入していると推測しますが、そうであれば、一般の会社よりも難しい人事労務管理を要求されるということです。

最近、宗教法人の相談役となっている方と知り合いましたが、人事労務管理の重要性はどの組織でも変わらないと言えますね。

なお、労働者性の判断基準については以下の記事で解説していますので、併せてご参考ください。

関連:労働者性を判断する2つの基準と労働者の定義を詳細解説!

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