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労働者性を判断する2つの基準と労働者の定義の解説

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労働者の定義(労働者性)とは何か、簡単そうでありながら、突き詰めると意外と難解、そして実は古くて新しい問題です。

労働者の判断基準は、厚生労働省の前身組織である旧労働省が設置した研究会が示しており、裁判でもこの判断基準に沿った判決が多く示されているため、労働者の定義を考える上で基本の考え方になります。

労働者の定義と聞いて、それは学術的な話であり、実務に関係しないと思うかもしれませんが、それは間違いです。

例えば、以下の内容を正確に答えることができますか?

  • 業務委託契約と雇用契約の違いを理解していますか?
  • 請負契約と雇用契約の違いを理解していますか?

最近は、働き方に関して物申す自称コンサルタントが増えている印象ですが、業務委託契約と雇用契約の違いについて「契約書の違い」と解説するような人もいます。

実際は、労働者性の判断は難しく、それ自体で裁判の重要なポイントになる場合もあります。

そのため、今回の記事の内容を1つ1つ吟味して、契約書ではなく、実態をヒアリングして判断しないと、判断を間違えかねませんし、労働者でない → 労働者であると判断が変わると、労働法が適用され、その瞬間に法違反だらけといった悪夢の状態になります。

ただ、このサイトは人事に関心のある経営者や人事担当者を対象としていますので、あくまで実務に即した部分のみに絞って解説していきます。

労働者の定義はなぜ重要なのか?

労働法は、労働条件の最低基準を定める労働基準法をはじめ、様々な労働条件や権利などについて、誰が、どのような場合に享受することができるかを定めています。

この「誰が」という部分、つまり労働法の適用対象が労働者です。

どんな内容の法令であっても、その適用対象となる「労働者」の定義が明確になっていないと、本来得られるはずの保護が得られなくなります

だからこそ、労働者の定義は、法令の内容以上に重要な論点となります。

逆に言えば、業務委託契約や請負契約に基づいて就業する人、一般的に個人請負型就業者と呼ばれる人たちですが、労働者でなければ、労働法によって認められている権利などは一切適用されません

個人請負型就業者は以下のような状態です。労働者ではないので、労働法が適用されるはずがありません。

  • 長時間働いても何の問題もない
  • 残業代(時間外・休日)もない
  • 年次有給休暇もない
  • 産休(産前産後休業)、育休(育児休業)もない
  • 雇用保険の対象でもないので、失業給付や育休時の給付もない
  • 仕事中のケガに対しても労災給付はない(特別加入という別手段はある)

以前、以下の記事を書きましたが、これはまさにこの労働者の定義を悪用した典型的な事案です。

職員全員を試用期間終了後すぐに取締役(つまり労働者でない)にして残業代を払わなかったが、結局、訴訟になって1,000万円以上の支払いを命じられたという事案です。

関連:社員全員を取締役にして残業代を払わないという荒技とその結果

労働基準法上の労働者の定義

労働基準法では、労働者について以下のように定義されています。

労働基準法第9条
この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

ポイントは「使用される者」で、かつ「賃金を支払われる者」という2つです。

労働者性を判断する2つのポイント:雇用契約と業務委託契約・請負契約との違い

「労働者」であるか否か、つまり「労働者性」の判断基準は、以下の2点によって判断されることになります。

  • 「使用される = 指揮監督下の労働」という労務提供の形態
  • 「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性

まず、業務委託契約、請負契約といった契約の名称を形式的に用いても無意味です。

労働者性は実態によって判断されます

そのため、名称だけでなく、本当に業務委託契約のつもりで仕事をしてもらっていても、労働者性と判断される実態があれば、労働者としてみなされます。

業務委託契約や請負契約の場合、時間外や休日の割増賃金を払うことはありませんが、労働者性が認められてしまうと、一気に未払い賃金がある状態とみなされてしまいます

だからこそ、繰り返しになりますが、労働者性という論点は実務上大きな問題になるわけです。

労働基準法上の労働者の判断基準

労働基準法上の労働者の判断基準については、厚生労働省(労働省)の研究会が判例や学説などを整理し、昭和60年12月19日に「労働基準法研究会報告-労働基準法の『労働者』の判断基準について」という報告書を発表しています。

この報告書の中では、先程も紹介した以下の2つのポイントについて「使用従属関係」とまとめ、具体的要素を細分化する形でまとめています。

  • 「使用される = 指揮監督下の労働」という労務提供の形態
  • 「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性

2点目の「賃金支払」という報酬の労務に対する対償性、というのは支払われた報酬が提供された労務に対するものであるかどうかということです。

では、労働基準法上の労働者の判断基準となる各要素は、具体的には以下のとおりです。

これらの要素の捉え方は「すべてを満たす・満たさない」、だから「労働者である」「労働者ではない」といったことではなく、各要素に対して実態がどのようになっているのか総合的に判断されます。

点数があって、何点以上だから労働者ではない、何点未満だから労働者、といった判断ができると実務上ありがたいのですが・・・

労働者性の判断要素(使用従属関係)

指揮命令監督関係

労働者性を判断する具体的要素は以下のとおり。

  • 業務依頼に対する諾否の自由
  • 業務従事の指示等に対する諾否の自由(裁量の制約
  • 業務内容及び遂行方法に対する指揮命令の程度(マニュアル遵守等)
  • 事業の遂行上不可欠なものとして事業組織への組み入れ
  • 時間的拘束性(業務時間の指揮命令)
  • 場所的拘束性(業務場所の指揮命令)
  • 業務の代替性の有無
  • 従業員と同様あるいは類似の服務規律の適用の有無

報酬の対価性

労働者性を判断する具体的要素は以下のとおり。

  • 時間給を基礎とした場合との誤差
  • 欠勤控除の有無
  • 時間外に相当する手当の有無
  • 源泉の有無

経済的従属性

労働者性を判断する具体的要素は以下のとおり。

  • 収入の依存度
  • 報酬額の一方的決定

その他の要素(1) 事業者性

労働者性を判断する具体的要素は以下のとおり。

  • 機械・機具の調達関係(特に高価な機具の自己負担の有無)
  • 同一業務に従事している労働者との報酬額の比較
  • 損害発生の責任の所在
  • 独自の商号使用の有無
  • 労災保険の特別加入の有無

その他の要素(2) 専属性

労働者性を判断する具体的要素は以下のとおり。

  • 他の業務に従事することの困難性の有無
  • 報酬に固定部分の有無

労働者性の問題が古くて新しい理由

さて、冒頭で、労働者性の問題は古くて新しいものと書きましたが、その理由は近年の雇用形態の多様化です。

2010年4月に発表された厚生労働省の「個人請負型就業者に関する研究会報告書」では、業務委託契約や請負契約に基づいて就業する人(個人請負型就業者)について、公式な統計は存在しないことから研究者の推計値を利用し、

  • 2000年時点で約63万
  • 2008年では約110万人(別の調査では125万人)

と記載し、近年急激に増加していることを指摘しています。

個人請負型就業者は労働者ではないため、労働法の保護を一切受けることができません。

しかし、ビジネスや働き方の多様化により、個人請負型就業者と労働者の境目が昔以上に、曖昧な状態になってきていないかと危惧する意見もあります。

だからこそ、労働者性の問題は昔からあるにも関わらず、最近注目されているわけです。

まとめ

あなたの会社が通常に雇用している人だけであれば、この労働者性の問題は生じません。

ただ、業務委託や請負といった契約で依頼している人たちがいると、この労働者性の問題についてしっかり整理しておかないと後で大変なことになるかもしれないため、ご注意ください。

なお、以下の記事では、常時使用する労働者など、これまたよく問題となる内容について書いていますのでご参考まで。

関連:常時使用する労働者とは? 常時雇用労働者、常用雇用労働者の違い

また、初学者に語る労働問題という特集で、以下の記事も大変参考になると思います。

参考:労働者とは誰のことか?

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