役員は労災保険の対象になるのか? 行政の定義・雇用保険との違い・裁判例をご紹介!

こんにちは。福岡の社労士・安部敏志です。

先日、代表取締役以外の役員は労災保険の対象となるのかというご質問をいただきました。

確かに労災保険の適用は、雇用保険と違って少々わかりにくい部分があり、行政の判断、そして司法の判断によって異なることがあります。

そのため、今回は、役員は労災保険の対象になるのかという疑問について、行政が示す定義、雇用保険との違いを含めて解説し、最後に参考になる裁判例をご紹介します。

労災保険の対象・基本的な考え方

労災保険と労働保険を混同して用いる人がいますが、両者はまったくの別物です。

以下のように、労働保険とは労災保険と雇用保険を総称した言葉です。

労働保険 = 労災保険 + 雇用保険

そして、労災保険についてはすべての労働者が対象となります。

この「すべての労働者」には、常用、日雇、パート、アルバイト、派遣等、名称や雇用形態にかかわらず、労働の対償として賃金を受けるすべての人を含みます

雇用保険の場合、例えば、1週間の所定労働時間が20時間未満である労働者は対象になりません。

労災保険の場合は、そのような制約がないということです。

なお、労働保険・社会保険の種類や加入条件などのご質問を受ける機会が多いので、以下の記事で基礎的な知識を詳細に解説しています。

社会保険・労働保険の基礎知識:種類・加入条件などを詳細解説!
社会保険・労働保険の基礎知識として、社会保険の定義・種類・加入条件などを詳細に解説します。特に加入条件の部分はよく質問を受けますので念のため確認しておきましょう。

労災保険の役員(取締役)の扱い

労災保険の対象は原則として労働者のみです。そのため、本来、使用者にあたる会社役員は労災対象外となりますが、取締役営業部長など兼務役員の場合は、使用者の面と労働者の面を持っており、報酬もそのように区別されています。

厚生労働省のウェブサイトでは、労働者の取扱い(例示)として、労災保険の役員に関する対象の可否を以下のように示しています。

代表権・業務執行権を有する役員は、労災保険の対象となりません。

  1. 法人の取締役・理事・無限責任社員等の地位にある者であっても、法令・定款等の規定に基づいて業務執行権(以下に解説)を有すると認められる者以外の者で、事実上業務執行権を有する取締役・理事・代表社員等の指揮監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を得ている者は、原則として「労働者」として取り扱います。
  2. 法令、または定款の規定により、業務執行権を有しないと認められる取締役等であっても、取締役会規則その他内部規則によって、業務執行権を有する者と認められる者は、「労働者」として取り扱いません。
  3. 監査役、及び監事は、法令上使用人を兼ねる事を得ないものとされていますが、事実上一般の労働者と同様に賃金を得て労働に従事している場合は、「労働者」として取り扱います。
  • 業務執行権とは、株主総会、取締役会の決議を実行し、また日常的な取締役会の委任事項を決定、執行する権限(代表者が行う対外的代表行為を除く会社の諸行為のほとんどすべてを行う権限)をいう。
  • 保険料の対象となる賃金は、「役員報酬」の部分は含まれず、労働者としての「賃金」部分のみです。

つまり、ポイントは業務執行権を有するか否かという点です。

業務執行権を有する人の指示監督を受けていれば労働者として取り扱われる

労災保険の対象になる

ただ、後述する裁判例のように、実務的には難しい問題があります。

雇用保険の役員(取締役)の扱いとの違い

ここで実務的に問題となるのが雇用保険との違いです。

雇用保険の場合は、個々の労働者について「雇用保険被保険者資格取得届」の提出が必要です。

そして、雇用保険の場合、原則として、取締役は被保険者になりませんが、公共職業安定所(ハローワーク)による雇用の実態の確認により被保険者(つまり雇用保険の対象者)として認められる可能性があります。

つまり、雇用保険の対象となるかどうかは事前に会社としてわかるわけです。

その一方、労災保険については、労働者性の認定を含め、労災請求をしてはじめて認定されるかどうかわかります。

専務取締役を労働者とみなした裁判例

先程の厚生労働省の労働者の取扱い(例示)を整理すると、少なくとも、代表、監査役、監事は対象にならないことがわかります。

後は定款や実態次第というところですが、少なくとも名称は関係ないとわかるのが、以下の裁判例(大阪地裁平成15年10月29日判決)です。

  • 株式会社の専務取締役が出張中に死亡
  • 行政は労働者に該当しないとして労災給付不支給
  • 処分を不服として審査官に対して審査請求→棄却
  • 処分を不服として労働保険審査官に対して再審査請求→3か月経過しても裁決なし
  • 裁判所に訴えの提起

流れを簡単に解説しておくと、労災保険給付に関する決定や費用徴収の額の決定などに不服がある場合、不服の申し立てをすることができるようになっています。

労災給付・不服申し立ての流れ

資料出所:福岡労働局ウェブサイト

この中で争点となったのは、この専務取締役が労働者に該当するのかということですが、結果として労働者に該当するという判決を示しています。

専務取締役という役職だと代表に近いイメージがあるため、労災の対象にならないのではないかと個人的に疑問を持っていましたが、やはりポイントは名称ではなく実態ということです。

もちろん、その判断に当たっては、報酬、手当、労働時間を含む多岐に亘る業務内容が総合的に判断されています。

結論

いかがでしたでしょうか?

役員が労災保険の対象となるかどうかは、行政による例示を解釈し、最終的には行政の審査や裁判での判決によるということになります。

先程の裁判例では、専務取締役の労働者性が認められたわけですが、実務上注意しておきたいのは、この例でも、行政の審査では3回(うち1回は裁決なし)とも労働者として認められなかったという点です。

それだけ悩ましい事案であるとも言えるわけで、会社として兼務役員として取り扱っている人については、役員の部分と労働者の部分を、事前にきちんと整理しておく必要があります。

なお、「労働者として取り扱われる重役であっても、法人の機関構成員としての職務遂行中に生じた災害は保険給付の対象としないこと」(昭和34年1月26日基発第48号)という行政通達もありますので併せてご留意ください。

今回の記事のように「労働者性」というのは簡単なようで実は結構難しい問題です。以下の記事で労働者性について解説していますのでご参考ください。

労働者性を判断する2つの基準とは? 労働者の定義を改めて押さえておこう!
今回は、労働法の中身以上に正確に理解しておかないと実務上大変なことになる「労働者の定義」について解説します。雇用契約と業務委託契約・請負契約の違いを理解していますか?

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この記事を書いた人


安部敏志

あべ社労士事務所代表・社会保険労務士

国家公務員I種職員として労働基準法・労働安全衛生法等の立案や企業への徹底的な指導に従事した経験を武器に、退職後は逆に会社を守る立場として経営者・人事担当者からの人事労務管理に関するご相談に対応。

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