退職金・退職手当の基礎知識を詳細解説!

こんにちは。福岡の社労士・安部敏志です。

最近は様々な会社から、退職金制度や退職金規程に関するご相談を頻繁に受けていますが、制度はあるものの基本的な部分で設計が甘い・リスクを抱えているといった状況が散見されます。そのため、今回は退職金に関する基礎知識を詳細に解説します。

スポンサーリンク

退職金とは

退職金とは、文字どおり、退職した労働者に支払われるものです。

多くの場合は一時金という形で支払われますが、年金払いのように定期的に一定額を支払われる場合もあります。

では、以下の点についてあなたの会社では明確にされていますか?

  • 退職とはどのようなことを指すのか
  • 退職金の対象者は誰か
  • どのように退職金を支払うのか
  • いくら支払うことになるのか、その計算方法は明確になっているか

様々な会社から退職金制度や退職金規程に関するご相談を受けていますが、困ったことに退職金の制度自体はあるにも関わらず、上のような基本的な部分が不明確になっているケースが多く存在します。

退職金に法的な義務はない

そもそも退職金というのは労働基準法で義務づけられているものではありません。

つまり、賃金と異なり、会社には退職金を支払う義務はありません。これは賞与も同じです。

その一方で、会社として退職金を支払うと決めたのであれば、後述するとおり、就業規則または退職金規程を作成しなければなりません。

退職金の3つの性格

また、退職金にどのような性格が認められるのかという点についても知っておく必要があります。

少し専門的な解説にはなりますが、裁判例では、退職金には、以下の3つの性格があると考えられています(中島商事事件、名古屋地裁昭49.5.31判決)。

  1. 賃金後払的性格
  2. 功労報償的性格
  3. 生活保障的性格

そのため、退職金制度を設計する際には、退職金の性質を考え、就業規則にきちんと規定しておくことが必要であり、後々のトラブルを防ぐ上でも重要になってきます。

「今まで会社に貢献してくれてありがとう。お疲れさま」という福利厚生の面から退職金を考えている経営者は多いのですが、実際に就業規則や退職金規程を見てみると、そのようになっていない場合が多くあります。

どこかから持ってきたひな形をそのまま流用しているわけです。

どれが良くて、どれがダメというわけではないのですが、そもそも退職金を支給する目的が何なのか、そして目的に沿った規定になっているのかは確認しておく必要があります。

東京貨物運送健保組合事件(東京高裁昭52.11.30判決)
個々の使用者が退職金の支給を義務的なものとして定めるか、それとも単に恩恵的なものとして止めるかは、当該使用者においてその方針や諸事情に応ずる労務ないし賃金対策の問題として選択の許されることであって、必ずしも義務的なものとして定めなければならないというものではない

退職金制度がある会社は76%

次に、どれくらいの会社が退職金制度を有しているのか、実態を見ておきましょう。

公的機関の統計として「平成25年就労条件総合調査結果の概況」を参照すると、75.5%の会社、4社のうち3社が退職金制度を有しており、会社の規模が大きいほど退職金制度を有していることがわかります。

年々減少傾向にはありますが、依然として多くの会社が退職金制度を有していることがわかります。

なお、従業員10〜299人に特化して退職金制度を調査した結果が東京都により行われています。退職金の積立方法や退職金の算出方法などは大いに参考になるため、以下の記事を併せてご参考ください。

中小企業の退職金制度の状況(東京都による調査結果)・退職金制度ありは○%
従業員10〜299人の中小企業を対象とした退職金制度の状況をまとめた統計・調査結果の紹介・解説をします。

退職金の規定に関する注意点

前述のとおり、退職金の支払いは労働基準法で義務づけられているものではありません。

しかし、会社として退職金制度を定める場合は、労働基準法第89条に基づき、以下の項目を就業規則、または退職金規程に定めなければなりません。

  • 適用される労働者の範囲
  • 退職金の決定・計算方法
  • 退職金の支払方法
  • 退職金の支払時期
労働基準法第89条(作成及び届出の義務)第3の2号
退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項

逆に言えば、退職金制度を設計する際には、上の項目を明確に決めながら進める必要があるということです。

そうしなければ、最終的に就業規則や退職金規程を作る際に困ることになりますし、まさにこれらの点で実際にトラブルになっているわけです。退職金は賃金に比べて金額が大きくなりますから。

なお、以下の記事で詳しく解説していますが、このような制度がある場合に記載しなければならない項目を就業規則の「相対的必要記載事項」といいます。賞与も相対的必要記載事項の1つです。

本当は怖い就業規則! よくある間違い・落とし穴を徹底解説!
人を雇う場合の会社のルールブックとなる就業規則について、中小企業でよくある間違い・その落とし穴について解説します。就業規則は簡単に作成できると言う素人がいますが、最後に泣くのは会社です。

適用される労働者の範囲

具体的に就業規則、または退職金規程の規定内容について、順に解説していきます。

まずは「適用される労働者の範囲」ですが、簡単に言えば、「誰に退職金を支払うのか」ということです。

多くの会社では、退職金の支払い対象は正社員のみになっていますし、勤続3年以上などの条件を付けていることもあります。

もちろん、契約社員、パート・アルバイト、嘱託に退職金を支払っても構いませんし、それは会社次第です。

ただ、会社として支払対象を決めているのであれば、それを就業規則、または退職金規程で明確に規定化しておかなければ、以下の記事のように思わぬ支払いにつながります。

就業規則の不備によりパートに退職金を支払うことになる?
就業規則の中で意外に多いミスなのが、職種の定義がない、未定義の職種の人がいる、適用範囲が不明瞭ということです。今回は、代表的な雇用形態の種類、就業規則における職種の定義、適用範囲を明確に定めなければならない理由、放置していた悲劇について解説します。

退職金の決定・計算方法

次に「退職手当の決定・計算・支払の方法」ですが、これは「どんなとき、いくら、どのように退職金を支払うのか」ということです。

退職金とは、退職した労働者に支払われるものですが、では退職とは何かということを明確にしておく必要があります。

退職と言っても、定年もあれば、自己都合退職もありますし、解雇もあります。そして労働者が役員に就任したときも、兼務役員を除けば、労働契約は終了することになります。

つまり、退職時とは、専門的に言えば、労働契約の終了時ということです。

就業規則などで一般的に規定されている退職には以下のような種類があります。

  • 定年退職
  • 自己都合退職
  • 休職期間満了による退職
  • 死亡

そして、解雇としては以下のような種類があります。

  • 普通解雇
  • 諭旨解雇
  • 懲戒解雇

つまり、これらの状況のときに退職金が発生することになりますが、それぞれの場合に、どのような計算方法で、どのように支払われるのかを事前に明確にしておく必要があるわけです。

退職金の支払方法

退職金の支払方法については、労働基準法施行規則第7条の2により、本人の同意を得た場合には口座振込などによる様々な支払い方法が認められています。

退職金の支払時期

退職金の支払時期については、賃金と異なり、あらかじめ就業規則に定めておけばいつ支払うのかは自由です。

行政通達(昭26.12.27基収第5483号、昭63.3.14基発第150号)
退職手当は、通常の賃金と異なり、予め就業規則等で定められた支払時期に支払えば足りるものである。

なお、定年による退職の場合には、退職金の支払い時期が事前にわかっているため準備できますが、自己都合退職の場合は突然退職金が必要になります。

退職された → 退職金の支払い義務が発生 → 退職金の原資となるお金がない → 訴えられた、といった笑えない事態が発生することはありえますので要注意です。

退職金の時効

労働基準法における請求権の消滅時効は原則2年間ですが、退職金は5年となっています。

労働基準法第115条(時効)
この法律の規定による賃金(退職手当を除く)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によって消滅する。

退職金の規定がない場合の取扱い

これまで退職金を払ったことはあるが、就業規則に退職金の規定がないといった会社は現実的にあります。

これは「退職金は恩恵的なものであり義務として支払うものではないから」という会社の考え方があるわけですが、規定がなくても、労使慣行、つまり実態がどうなのかという部分によって退職金支給義務が発生する可能性があります。

例えば、会社として退職金制度ありとして社員に周知していたり、過去にほぼすべての退職者に退職金を支払ったりしていた実態があれば、それは規定がなくても、退職金支給義務があると見なされる可能性があるということです。

まとめ

今回は退職金に関する基礎知識を解説しました。すでに退職金制度のある会社では、就業規則や退職金規程が目的に沿った内容となっているか、法的に必須とされている項目を満たしているかを確認しておきましょう。

なお、東京都による中小企業に特化した調査結果について、以下の記事でまとめています。学歴別・勤続年数別・自己都合/会社都合による退職金の相場の支給額がまとめられており、とても参考になります。

中小企業の退職金の相場がわかる調査結果・定年による退職金は1千万円前後
従業員10〜299人の中小企業を対象とした調査結果をもとに、中小企業における退職金の相場を紹介・解説します。

また、当事務所では退職金制度の設計や規定に関するコンサルティングを行っていますが、自ら検討したいという方には以下の本をオススメします。

退職金・退職手当の基礎知識を詳細解説!
本記事以外の人事労務情報も満載の
Facebookページを、
いいねしてチェックしよう!
スポンサーリンク

フォローする

人事の秘訣を知りたくありませんか?

人事の秘訣を知りたくありませんか?

毎月1回、人事に悩む経営者や人事担当者向けに、公開型のブログでは書けない本音を交えた人事の秘訣をお伝えしています。

また、人事担当者が対応すべき時期的なトピック、購読者限定のお得なサービスのご案内などを配信していますので、ぜひお気軽にご登録ください。

注意
*は必須項目を示しています。なお、氏名の欄には本名を漢字で入れてください。「たこ」など明らかにふざけた名前を登録している方がいますが、見つけ次第削除しています。


この記事を書いた人


安部敏志

あべ社労士事務所代表・社会保険労務士

中小企業の人事労務担当者の育成を中心に活動。その他、労働法令に関する専門記事の執筆やセミナー・社内研修の講師にも対応。詳しくは業務内容のページをご参照。

error: Content is protected !!