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「労働基準監督署から調査の連絡がありました。どうすればいいですか?」
顧問先からこんな電話を受けたことがある社労士は多いと思います。手続きや就業規則の相談には慣れていても、監督署の調査(正確には「臨検監督」)への対応は経験が少なく、何から手をつければよいか迷うという声をよく聞きます。
厚生労働省労働基準局出身で労働局の監督課長を経て、退職後に社労士として独立した経験から言えば、監督署の調査は、社労士の準備と関わり方で結果が大きく変わると考えています。
この記事では、顧問先に調査の連絡が入ってから、是正勧告書・指導票への対応を終えるまでに社労士がやるべきことを、時系列で解説します。
なお、国家公務員には退職後も守秘義務が課せられているため、本記事は公開されている情報の範囲内での解説になる点をご了承ください。
1. 調査の連絡を受けたときの状況確認
顧問先から連絡を受けたら、まず次の点を確認します。
- 調査の日時と場所
- 連絡の方法(電話か、文書か)
- 準備・持参を求められている書類
- 調査の対象(複数の事業場がある場合、どの事業場か)
- 調査のきっかけに心当たりがあるか(退職者とのトラブル、労働災害など)
最後の「心当たり」は特に重要です。
監督署の調査には、計画的に行われる定期監督のほか、労働者からの申告をきっかけとする申告監督、労働災害の発生を受けて行われるものがあります。
きっかけによって、重点的に確認される事項はある程度変わります。顧問先に心当たりがないか、率直に聞いておきましょう。
調査拒否の可否と日程調整
顧問先から「調査を断れないんですか?」と聞かれることもあります。しかし、労働基準監督官は、労働基準法第101条に基づいて事業場の臨検を行う権限を持っています。
- 労働基準法第101条(労働基準監督官の権限)
- 労働基準監督官は、事業場、寄宿舎その他の附属建設物に臨検し、帳簿及び書類の提出を求め、又は使用者若しくは労働者に対して尋問を行うことができる。
一方で、経営者や担当者が不在で対応できない日であれば、その旨を正直に伝えて日程を調整してもらえることもあります。
拒否はできないが、日程の相談はできる、顧問先にはこのように伝えるとよいでしょう。
なお、事前予告のない突然の臨検、つまり監督官が突然会社に来ることもあります。この場合は、まさしく日々の人事労務管理の実態を見られることになります。
2. 調査日までの事前準備
書類の準備
一般的に確認されることが多い書類は次のとおりです。実際には、監督署から指定された書類を優先して準備します。
- 労働者名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿(タイムカード、勤怠システムの記録など)
- 就業規則(賃金規程など別規程を含む)
- 時間外労働・休日労働に関する協定届(36協定)
- 労働条件通知書・雇用契約書
- 年次有給休暇管理簿
- 健康診断の結果の記録
これらの多くが法定帳簿であり、法定帳簿が存在していなければそれだけで法令違反になります。この中でよく忘れられがちなのが労働者名簿です。
各書類の整合性の点検
次に、社労士として必ずやっておきたいのが、各書類の整合性の点検です。書類をそろえるだけでは不十分です。
- 出勤簿の労働時間と、賃金台帳の時間外労働の時間数が合っているか
- 時間外労働の時間数が、36協定の上限の範囲に収まっているか
- 就業規則に定めた賃金の計算方法と、実際の支払いが一致しているか
- 年次有給休暇の年5日の取得義務が守られているか
ここで問題が見つかった場合、調査日までに「なかったこと」にするのではなく、事実を把握し、どう説明し、どう是正するかを顧問先と整理しておくことが大切です。
過去は変えることはできません。書類を事後的に書き換えることは、絶対にしてはいけません。
監督官の視点
法定帳簿は人事労務管理の基本となる書類です。それがどこにあるかわからない状態だと、監督官は「この会社の労務管理は大丈夫だろうか」という印象を持ちます。逆に、必要な書類がすぐに出てくる会社は、それだけで調査がスムーズに進みます。
私自身、文字どおり足の踏み場もない職場に調査に入ったことがあります。様々な場所から脈絡のない書類が出てきて、確認だけで大変な時間がかかりました。
3. 調査当日の立ち会いと受け答え
立ち会う社労士の役割
顧問先から依頼があれば、社労士は調査に立ち会うこともできます。
ただし、監督官が直接確認したいのは、あくまで事業主や労働者本人の認識と、職場の実態です。社労士がすべての質問に代わりに答えてしまうと、かえって実態の確認に時間がかかります。
社労士は、事業主の説明を補足する、法令上の取扱いを整理して伝える、といった役割を意識するとよいでしょう。
また監督官の質問や指摘している内容について、事業主が普段使っている言葉に翻訳するような補足をすることも私はよくしています。
受け答えの基本
顧問先には、事前に次の点を伝えておいてください。
- わからないことは推測で答えず、「確認して後日回答します」と伝える
- 事実と異なることは言わない
- 書類にない運用(口頭での取り決めなど)があれば、正直に説明する
監督官は「敵」ではない
調査に臨む上で、会社にも社労士自身にも持っておいてほしい心構えがあります。それは、労働基準監督署は敵ではないということです。
監督官の仕事は、法令が守られているかをチェックし、守られていなければ是正を求めることです。送検など会社に処罰を与えること自体が目的ではありません。
ところが、調査と聞くと身構えてしまい、必要以上に反論したり、非協力的な態度をとったりする経営者や人事労務担当者がいます。しかし、むやみに敵対的な態度をとっても、調査が長引くだけで、会社にとって何の得にもなりません。
また「顧問先を守るのが社労士の仕事」と思って、監督官に反発ばかりする社労士もいますが、これも顧問先にとって損にしかなりません。
一昔前は高圧的な態度の監督官もいたと聞きますが、私の知る限り、この10年余りで穏やかで丁寧な監督官が格段に増えています。法令を守ろうとしている会社にとっては、無料で労務管理の法令チェックを受けられる機会だと捉えて構いません。
もちろん、指摘を受けた点について、その法令上の根拠を確認することはまったく問題ありません。むしろ、次に述べるとおり、社労士が必ずやるべきことです。
敵対することと、根拠を確認することはまったく別のことであると理解しておいてください。
4. 是正勧告書・指導票を受けた後の対応
是正勧告書と指導票の違い
調査の結果、問題が見つかると、監督官から書面が交付されます。
- 是正勧告書:法令違反がある場合に交付される
- 指導票:法令違反ではないが、改善が望ましい事項がある場合に交付される
どちらにも、是正(改善)の期日が記載されています。期日までに是正し、その内容を是正報告書(改善報告書)で報告するのが基本的な流れです。
指摘の法令上の根拠の確認
社労士として最も重要なのが、指摘内容の法令上の根拠を確認することです。
ほとんどの監督官は、どの法令のどの規定に違反しているのかをきちんと説明してくれます。ただ、説明が十分でない場合もあります。
根拠が曖昧なまま是正報告をしても、何をどう直せばよいかがはっきりせず、同じ問題を繰り返すことになりかねません。
根拠を確認するときは、法律だけでなく、政令・省令・通達のどこに定めがあるのかまで確認しましょう。法律と通達の位置付けの違いは、専門家でも混同しやすいところです。
関連:専門家も間違える法令・法律・政令・省令・通達の違い | 早見表で整理
是正報告書の作成
是正報告書では、指摘された事項について、実際に是正したことを報告します。報告書の書き方を整えるだけでなく、運用そのものが改まっていることが前提です。
- 未払いの割増賃金があれば、対象期間と金額を確定させて支払う
- 就業規則や36協定に不備があれば、改定・届出を行う
- 再発防止のために、勤怠管理や賃金計算の仕組みを見直す
是正報告書を提出したあと、必要に応じて改めて確認を受けることもあります。また1回きりの報告ではなく、今後数か月の勤怠状況の報告を求めることもあります。
そのため、その場しのぎの是正ではなく、今後同じ指摘を受けない仕組みを顧問先と一緒に整備することが、社労士の腕の見せどころです。
実際、是正勧告で今後6か月の報告を求められた会社から相談を受け、その会社に改善内容を指導したところ、監督官から2か月で「十分と判断したのでもう来月から報告は不要です」と言われ、会社に大変感謝された経験があります。
監督官の視点
監督官が望んでいるのは、その会社で同じ法令違反が繰り返されないことです。顧問社労士がいるという事実だけでは、その安心材料にはなりません。一方で、社労士が指摘の内容を正しく理解し、顧問先と一緒に是正に取り組んでいる様子が伝われば、監督官の受け止め方は大きく変わります。
是正勧告書・指導票のセカンドオピニオン
「この指摘の根拠はどの規定か」「是正報告書の内容はこれで足りるか」と迷ったときは、厚生労働省労働基準局出身の社労士がセカンドオピニオンとしてお答えします。
まとめ
顧問先に監督署の調査が入ったとき、社労士がやるべきことを振り返ります。
- 連絡を受けた後:日時、求められている書類、調査のきっかけに心当たりがあるかを確認する
- 調査日まで:法定帳簿をはじめとする書類をそろえ、書類どうしの整合性を点検する
- 調査当日:監督署を敵視せず、事実に基づいて受け答えする
- 是正勧告書・指導票を受けた後:指摘の法令上の根拠を確認し、実際に是正したうえで報告する
監督署の調査は、顧問先にとっては不安な出来事です。だからこそ、社労士が落ち着いて道筋を示せれば、顧問先からの信頼は大きく高まります。
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調査対応は、業種や会社の状況、調査のきっかけによって、とるべき対応が変わります。一般論だけでは判断しきれない場面も少なくありません。
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そんな想いから、少しでも社労士業界全体のレベルアップに貢献できればと考えています。
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