同一労働同一賃金という言葉を最近はよく聞くと思いませんか?
今回は、同一労働同一賃金の歴史、なぜ日本では定着しなかったのか、日本に根付いた生活給という考え方、経済情勢に影響を受ける人事システムとオススメの本などを取り上げます。
同一労働同一賃金とは?
まず、同一労働同一賃金とは何なのかという点から説明します。
性別、雇用形態(フルタイム、パートタイム、派遣社員など)、人種、宗教、国籍などに関係なく、同一の職種に従事する労働者に対して同一の賃金水準を適用し、労働の量に応じて賃金を支払う賃金政策のこと。
国際労働機関(ILO)では、同原則をILO憲章の前文に挙げており、基本的人権の一つと考えている。
簡単に言うと、同じ職務内容であれば、賃金も同じにすべしということです。
これは増え続ける非正規労働者、正社員と非正規労働者の賃金格差の問題から昨今議論になっているものです。
確かに、同じ仕事をしているのに、正社員やパートタイム労働者といった雇用形態だけで賃金格差が生じているというのはおかしいですよね。
ただ、最近の論調を見ていると、以下のような発言を声高々に述べる人が多く、一抹の不安を感じます。
- 今までの日本の年功序列による賃金システムは既に崩壊している
- 海外のように同一労働同一賃金にすべき
- 日本の人事システムは古くさい、世界のトレンドにあわせるべき
こんな風に言っているように聞こえるんです。キノセイカナ???
既に50年前に議論されていた同一労働同一賃金
日本の年功序列による賃金システムを古くさいというなら、むしろ同一労働同一賃金制こそ、もっと古くさいものと言えるでしょう。
なぜなら、歴史を遡ると、日本の政府・経済団体は、1960年代から高度成長期に至るまで、同一労働同一賃金制を推進しようとしていたためです。
つまり、同一労働同一賃金制の議論というのは、新しいシステムどころか50年前の議論を蒸し返しているわけで、決して新しいわけではありません。
なぜ日本では同一労働同一賃金が定着しなかったのか?
では、なぜ日本の賃金システムが今の姿になっているのか、なぜ同一労働同一賃金制を選択しなかったのか?
その点を踏まえて議論すべきです。
これは、新しい労働社会―雇用システムの再構築への中で詳しく解説されています。
専門家なら必ず一読すべきものですが、簡単にいえば、
ということです。これは大事なポイントなので繰り返しますが、政府や経済団体は、1960年代から高度成長期に至るまで、職務給、つまり同一労働同一賃金制を推進しようとしていたわけです。
しかし、実際に企業の中で人事を担当していた労務管理担当者が、その動きに反発し、職能給を選択したわけです。職能給でなければ企業は立ち行かないし人事もまわせないと考えたわけです。
人事システムと経済情勢
人事システムというのは、その時代の経済情勢の影響を大きく受けます。
当時は、急激な技術革新に対応する必要があり、企業は大規模な配置転換を進めていました。急激な技術革新に対応できる人を見極めるときに、職務を定義し賃金を決めるような職務給ではダメだと判断したわけです。
経営の合理化を進めるためには、むしろ能力によって評価する、つまり職能給の方が適していたと考えたわけです。
そして、仕事への意欲や態度といった主観的な要素を重視し評価していく「能力主義管理」によって、労働者は仕事に全力投球し、日本が近代化していったのは、歴史が証明するとおりです。
さらに、歴史的にもっと遡ることになりますが、1920年代から広がった生活給という思想が、同一労働同一賃金の考え方と矛盾したという点も見逃せない事実です。
同一労働同一賃金と矛盾する生活給
生活給というのは、年齢が上昇し、家族を扶養するようになっていくにつれて、賃金が上昇していくという考え方です。これは、同一労働同一賃金という考え方と矛盾します。
同一労働同一賃金であれば、その労働者に家族がいるかどうかは全く関係ありません。
この生活給という考え方が日本で浸透したのは、公的システムの中に生活保障的な部分を含む欧米との違いと言われています。
このように、賃金というのは国民の生活に直結するわけですから公的システムとも強く関係します。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
人事システム・賃金システムを構築する際には、単に一時期の流行だけを見てはいけません。古くさく見えようとも、今のシステムが存在するには、相応の理由があるわけです。
人事システム・賃金システムの構築・変更というのは、社員の生活に直結するものです。新しい・古い、海外のトレンドといった薄ぺっらい議論ではなく、日本の人事労務管理の歴史の流れを知り、メリット・デメリットを比較できる専門家と相談しながら進めていくことをオススメします。
ちなみに、厳しい書き方をしましたが、私自身は、同一労働同一賃金の流れは時代の必然だと思っています。今の非正規労働者の問題を考えると、賃金システムだけでなく、それに伴う人事システムの見直しも他に先んじて行うべきだと思っています。
ただ、だからといって安易に人事システムを変更することはリスクが高すぎるため、このような記事を書いた次第です。
最後になりますが、改めて新しい労働社会―雇用システムの再構築へという本はオススメです。
専門用語も多く、読み進めるにはかなりの気力と時間が必要ですが、むしろ今のような「働き方の見直し」が一種の流行・ビジネスチャンスのようになっている時代にこそ、改めて読み直すべき良書です。
歴史の中で変遷していった人事システム・雇用システムを学ぶことは、今へのヒントになります。この本を読んでいると、以下の言葉を何度も思い出しました。
愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ
この本を読んで、私も知識不足を反省し、まだまだ学ばなければならないと強く感じた次第です。歴史から学ぶことは多いですね。