労働基準法・労働協約・就業規則・労働契約の関係

こんにちは。福岡の社労士・安部敏志です。

突然ですが、質問です。以下の場合、時給はいくらになるでしょうか?

  • 福岡県の地域別最低賃金は743円/時間(H27.10.4時点)
  • 就業規則の規定は時給1,000円
  • 労働協約での合意は時給950円
  • 労働契約・労働条件通知書の記載は時給900円

就業規則に時給を書くことは普通ありえませんが、あくまで一例として。

今回は、人事労務管理を行う上で避けては通れない基本的知識である労働基準法・労働協約・就業規則・労働契約の関係について解説します。

これらの関係性を理解していない会社・労働者は意外なほど多くいますが、内容によっては労働契約・雇用契約が無効になる、または負担となる可能性があるため、要注意です。

なお、人事労務管理の基本中の基本に関する記事はこちらをご参考下さい。

経営に必須な労務管理の3要素を徹底解説!
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1. 労務管理の上位概念としての労働基準法

人事労務管理というのは、簡単にいえば、会社のルールです。

経営者をはじめ、働く社員は自らの会社のルールを自由に定めることができます。自らの会社ですから。別に他社のマネをする必要はありません。

ただ、自由といっても、法令で定められている基準以上という条件を満たす必要があります。

労働基準法は有名ですが、それ以外にも、人事労務管理を考える上で抑えておきたい関係性を以下のように図示します。

regulations-basic-knowledge

また、人事労務管理を行う上で必要となる労働関係の法令は労働基準法以外にもたくさんあります。

主な法令を列挙するだけでも、労働基準法、労働安全衛生法、最低賃金法、労働契約法など。。。詳しくは以下の記事で解説しています。

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その中でも、人事労務管理の基本であり強行法規である労働基準法はしっかりと抑えておく必要があります。

法律の基本的な考え方を解説する良書の「ケースで学ぶ 実践への法学入門」でも紹介されていますが、労働基準法は労働に関する刑法とも言えるものです。

労働基準法は日本国憲法を踏まえて制定された法律ですし、多くの労働関係法令は、労働基準法から派生しています。そのため、労働基準法から学ぶことで、他の法令も理解しやすくなります。

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1-1. 労働基準法の範囲

労働基準法というのは、労働者の労働条件の最低条件を定めた法律です。

たまに誤解される方がいらっしゃいますが、労働基準法は、正社員やパートタイム労働者といった雇用形態に関係なく、すべての労働者、すべての事業場に適用される法律です。

なお、労働基準法では事業場という単位で考えます。

企業(会社、法人)という単位とは異なりますので、以下の記事できちんと理解しておいてください。

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1-2. 労働基準法に違反する契約

労働というのは、雇い主である使用者と、雇われる側である労働者の契約行為になります。これが雇用契約、労働契約と言われるものです。

通常、契約行為というのは自由です。ただ、雇い主と雇われる側の力関係を比較したとき、どうしても雇い主の方が強くなってしまいます。

そのため、労働基準法という法律によって、労働者側の権利を守るように強制しています。

つまり、上位概念である労働基準法に定める基準に満たない就業規則や労働契約は無効になります。

といっても、それらの就業規則や労働契約すべてが無効になるわけでなく、労働基準法の基準に満たない部分のみが無効となり、その無効になった部分は、労働基準法に定める基準が適用されるわけです。

労働基準法第13条(この法律違反の契約)
この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となった部分は、この法律で定める基準による。

1-3. 賃金の原則

ここからは、労働基準法が定めている主な内容を解説していきます。

まずは賃金の原則です。

労働基準法では、賃金支払い5原則と言われていますが、以下の原則に従って支払うことが義務づけられています。

  1. 通貨で
  2. 全額を
  3. 毎月1回以上
  4. 一定期日に
  5. 直接、労働者に支払う

なお、賃金支払い5原則については、以下で解説しています。

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1-4. 労働時間

労働時間というのは、原則として1日8時間、1週間に40時間以内です。

以下で解説していますが、法定労働時間と所定労働時間という考え方をきちんと理解しておく必要があります。

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1-5. 休日・休暇

休日と休暇というのは別です。

まず、休日ですが、労働基準法では、毎週1日の休日、または4週間を通じて4日以上の休日を付与することを求めています。

次に休暇として抑えておきたいのは有給休暇です。有給休暇については誤解が多いので注意してください。

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1-6. 時間外労働

法定の労働時間(1日8時間)を超えて労働させる場合は、従業員代表または労働組合と事前に書面による協定を締結し、労働基準監督署に届け出る必要があります。

これは36協定(時間外労働、休日労働に関する協定書)と呼ばれるものです。

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2. 労働協約とは?

労働協約という言葉は、聞き慣れないかもしれませんが、簡単にいえば、労働組合と使用者(団体)との間でのみ締結することができる書面による協定です。

労働協約によって締結した内容は、就業規則よりも効力が強くなります。

就業規則は、労働組合等の意見を「聴く」ことが必要ですが、労働協約は、会社と労働組合が「合意」した内容が明文化されるものです。

そのため、労働協約は就業規則より優先されます

労働組合法第16条(基準の効力)
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。

なお、労働協約の効力を発生させるためには、労働組合法第14条に基づき、労働組合と会社のそれぞれが署名、または記名押印する必要があります。

ただ、面白いことに、労働協約の締結内容は、就業規則の内容に比べて、労働者に不利なものになっても有効であるということです。

例えば、就業規則で時給1,000円となっていたとします。

この場合、後述しますが、個々の労働者と交わす労働契約では時給900円とすることはできません。就業規則より労働者に不利となる労働契約は無効となるためです。

しかし、労働協約で時給900円で合意するとき、就業規則より労働条件が下回ることになりますが、これは有効になります。

つまり、労働協約の内容は、有利・不利に関わらず就業規則を無効にするということです。

なお、労働協約も就業規則と同様に、事業場に設置して閲覧できるようにする必要があります。

労働組合法第14条(労働協約の効力の発生)
労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する労働協約は、書面に作成し、両当事者が署名し、又は記名押印することによってその効力を生ずる。

この労働協約を活用し、まさしく「攻めの人事」を展開する画期的な事例を以下の記事で紹介していますのでご参考下さい。

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3. 就業規則とは?

就業規則というのは、簡単にいえば、会社のルールです。

労働基準法では、常時10人以上の労働者を有する事業場に作成が義務づけられているものです。上で解説したとおり、労働基準法は強行法規なので、就業規則を作成していなければ罰則があります。

ただ、「人数に関わらず作っておいた方がよい」と一般的には言われますが、私からすれば「作らない理由がわからない」ものです。法令とは関係なく。

個人商店型の会社では、「社長が言うことがすべてルール」というケースがよくありますが、頭の中にあっても無意味です。

社長の頭の中にあるもの、それを文書化したものが就業規則になるわけです。もちろん、法令に違反していたらダメですが。。。

法令には多くのスキマがあります。そのスキマを埋めていく作業が結果的に就業規則につながるものです。

就業規則の効力は個々の労働契約よりも強くなります

就業規則で、休日は土日と書いているのに、個々の労働契約で、休日は日曜のみと書いても無効であり、その場合、休日は土日になります。

労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

なお、たまに、「アメリカには就業規則はなく、就業規則なんて無意味だ」と言う人がいますが、日米の雇用慣行の違いを理解していません。以下の記事で解説していますので関心があればご参考下さい。

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労働契約とは?

これは、会社(使用者)と労働者の間の個別の契約のことです。よく雇用契約とも言われます。

以下の記事で解説していますが、労働者は、企業・経営者に対して労務を提供し、企業・経営者はその対価として賃金、給与と呼ばれる報酬を支払っています。

つまり、働くというのは、契約行為であり、だからこそ法律では労働契約を結ぶことを求めています。

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時給はいくらになるか?

さて、労働基準法、労働協約、就業規則、労働契約の関係性を解説したところで、冒頭の質問に戻ります。

冒頭の質問を再掲すると以下のとおりです。

  • 福岡県の地域別最低賃金は743円/時間(H27.10.4時点)
  • 就業規則の規定は時給1,000円
  • 労働協約での合意は時給950円
  • 労働契約・労働条件通知書には時給900円と記載

回答から書くと、時給は950円になります。

よくある誤解は、「労働者にとってより良い条件が適用されるはずで、その場合、就業規則の時給1,000円になるのでは?」ということですが、それは違います。

順を追って解説していますが、まず、労働基準法と一体的なものである最低賃金法による743円、これは絶対にクリアしなければなりません。

次に、就業規則の時給1,000円と、労働契約の時給900円との関係ですが、先程解説したとおり、就業規則の基準に達しない場合は無効になり、就業規則の基準になります。そのため、時給1,000円になります。

労働契約法第12条(就業規則違反の労働契約)
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。

最後に、労働協約と就業規則の関係ですが、労働協約の内容は、有利・不利に関わらず就業規則を無効にするということです。

つまり、就業規則の時給1,000円と、労働協約での合意による時給950円とでは、労働協約の時給の方が低くなりますが、労働協約を優先します。

現実的にはあまり生じないことですが、経営上の理由などにより期間を限定して、労働組合と合意できれば、それが優先されるわけです。

労働組合法第16条(基準の効力)
労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする。

そのため、質問に対する回答は、時給950円となります。簡単ですね(^0^)

まとめ

いかがでしたでしょうか?

労働基準法、労働協約、就業規則、労働契約の関係性について理解できましたか?

法令を理解するためには、きちんとその関係性をつかんでおくことが重要です。たとえ就業規則や労働契約を単体で見直しても無意味になるかもしれません。

なお、就業規則に時給を書くことは普通ありませんが、もし賃金規程に書いてあれば就業規則に書いていることと同じになるのでご注意ください。賃金規程はあくまで就業規則の一部です。なぜかこの点を理解していない人が多いので。。。

また、今回はわかりやすく時給を例に用いましたが、月給でも、休暇や休日でも関係性は同じです。

専門用語が多くなりましたが、用語そのものというよりも、優先順位とその関係性、つまり労働基準法→労働協約→就業規則→労働契約の順番で効力が強くなる、ただし労働協約には特殊な面があるということを覚えておいてください。

なお、人事担当が最低限知っておくべき労働関係法令については以下の記事で解説していますのでご参考ください。

人事担当が最低限知っておくべき労働関係法令とは?
人事業務には、労働者の権利保護、労働環境の整備などを規定した多くの労働関係の法令が関係してきます。今回は、人事担当が最低限知っておくべき労働関係法令について解説します。
労働基準法・労働協約・就業規則・労働契約の関係
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この記事を書いた人


安部敏志

あべ社労士事務所代表・社会保険労務士

国家公務員I種職員として労働基準法・労働安全衛生法等の立案や企業への徹底的な指導に従事した経験を武器に、退職後は逆に会社を守る立場として経営者・人事担当者からの人事労務管理に関するご相談に対応。

最近は記事の執筆やセミナー講師の依頼にも積極的に対応。仕事内容がわかりにくいとよく言われるので、業務内容・実績を紹介するページを作成しました!

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